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監査難民スタートアップのウルトラCになるかもしれない話

バーチャルSNS「cluster」を運営するクラスター株式会社でCFOをやっている岩崎です。業務管掌としては、経営管理(主にIPO準備)と人事広報(主に採用)となります。

もし会社や事業にご興味ある方がいらっしゃれば下記noteも覗いてみてください。

さて、ここ数年のスタートアップ界隈で話題に上がることの多い「監査難民」というワード。IPOを目指すに当たって最初に探すのが監査法人ですが、その監査法人がなかなか見つからない(=監査を受嘱してくれない)事象を指した言葉です。

このnoteは、その状況の真っ只中で、他社であまり聞かないアプローチにより大手監査法人に監査を受けてもらったお話です。再現性があるかどうかは正直不明ですが、今監査法人がなかなか見つからないと悩んでいるスタートアップ企業の方に何かしら参考になれば幸いです。

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最初に結論を

はじめに、弊社がどのような帰結に至ったかを記載すると、4大監査法人(Big4)の中で関西に拠点を置く事務所にショートレビュー(予備調査)と期首残高調査を受嘱いただきました。

以下、そこに至る過程や思考、監査手法等について振り返りつつ書いていきます。なお、下記は2020年5〜6月に考えていた内容であることも付言しておきます。

監査法人選定の思考プロセス

まず、「どこの監査法人に受けてもらうのが良いか?」というところから始まります。選択肢としては大きく3つを想定して検討しました。

①4大監査法人(新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらた)
②準大手監査法人(仰星、太陽、PwC京都 等)
③中小監査法人

当然ながらBig4と呼ばれる大手監査法人はIPO実績も多く、グローバルネットワーク(EY、Deloitte、KPMG、PwC)も有しており、監査手法もグローバル水準でハイクオリティーなものを提供しています。

一方で、IPOを目指す企業にかかわらず既存の上場企業からの引き合いも多く、監査を受けてもらう難易度が高いです。特に、この10年の間で上場企業の不正会計が増えてきていることから、内部統制・ガバナンス体制の強化が求められ、それに伴う監査体制の増強が求められています(どこの監査法人もリソースが逼迫してきています)。

また、準大手や中小と比べると監査報酬も高く、その差額は上場を目指す小さなスタートアップには無視できないレベルで発生します。

一方で、準大手や中小であれば比較的アプローチもしやすく、監査報酬も低めに受けてもらえる可能性が高いです。ただ、証券・東証審査プロセスにおいて十分と認められる財務報告、内部統制体制を構築できるかという点ではBig4にやや劣後する評価になるかと思います。

弊社の場合、グローバルにビジネス展開をしていくことも視野に入れているので、多少報酬が高くなったとしても、グローバル水準の監査を提供してもらえるBig4を主眼に動いていき、次点として準大手の可能性も残しながら進めていこうと考えました。

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具体的なアプローチの検討

とはいえ、上述の通り、Big4に監査を受けてもらうハードルは高いです。アプローチを進めるに当たり、そもそもとして下記のような事情を考慮する必要があると考えていました。

①IPO案件は手間が掛かる割に監査報酬が安い
IPOの実現確度も100%ではないので不安定
③特に東京エリアはIPOを目指すスタートアップが多く、スタートアップ同士でもリソースの奪い合いになっている
既存の大企業案件にリソースを増やす方が合理的(安定的に多くの報酬を取れる)

正直なところ、客観的に置かれている状況を並べてみて、配分リソースに対するリターンを計算すれば、スタートアップ案件を受ける意義には乏しいなと感じました(笑)

ただ、上記のことを踏まつつ、自社の置かれている状況について下記のようなことも考えました。

①ポケモンや渋谷区との大きなタイアップ含めて、事業の成長性を魅力的に説明することは十分できるのではないか?

②監査法人との接点を開始する進行期は1億円以上の利益計上を見込んでおり、IPO実現確度も一定程度見ていただけるのではないか?

③コロナによって否応なく「リモート監査」を進めている状況下で、東京以外の拠点でも受けてもらえる可能性があるのではないか?

④成長著しいIT系スタートアップのIPOを担当したい地方事務所の若手〜中堅の会計士がいるのではないか?

⑤監査難民というワードに危機感を覚え、単純な報酬の多寡だけではなく、日本の将来を担うスタートアップ輩出の一端を担う「公器」として、監査法人の存在意義を考えているパートナーがいるのではないか?

上記仮説の下で、Big4の地方事務所を想定しつつ、Big4の東京事務所、準大手系のアポイント取得に動いていきました。

アポイント〜決定まで

株主や知人経由でアポ設定を試みますが、当初の想定通りBig4の東京エリアはやはり厳しく、また準大手系もリソースが逼迫しており、アポすら取れないところもありました(受ける/受けない以前に、アポすら数ヶ月待って欲しいと言われたりも)。

そんな中で、知人が関西エリアでBig4の会計士をしていたのですが、東京で監査法人を見つけることの難しさを理解し、またその方がIPO案件に携わりたいという思いもあり、パートナーに直接お話を通してくれました。

zoomでパートナーの方とのご面談機会をいただき、下記のようなお話をさせていただきました。

・監査法人を見つけることに苦戦していること
・コロナの追い風もあって事業は急速に成長中であること
・私が参画当初(2017年)から、事後で問題となりやすいような会計、労務等の論点を一定程度先回りして対処していたこと
・事業特性上、在庫、手形取引、小口現金等の実査の必要性がそこまで高くないこと
・クラウド会計システムを利用しているため、エビデンスとの照合含めて大半がオンラインで監査できそうなこと
・経理プロセスに限らず、コロナ以前からリモートワークを恒常的に行っており、業務プロセス全体がオンラインベースであること

特に響いた(と感じた)のは、監査法人として日本の将来を担うスタートアップを応援して欲しいという文脈でした。ちょうど当時の日経新聞にも記事(下記)が上がるくらいには監査難民問題が深刻化しており、経済合理性だけではない公器としての存在意義に照らしても共感いただけたようです。

その後もディスカッションを続けて、細かい会社の状況もヒアリングいただいた上で、経理体制も一定程度は整備されているという心象を持っていただきました。

ただ、東京のスタートアップが関西の事務所にお願いするのは異例となるため、最終的には関西から東京側へ仁義を通していただいた上で、晴れてショートレビューを受けていただけることになりました。

ショートレビューでは、こちらで想定されていた課題(主に規程整備と内部統制周り)は出てきたものの、次のプロセスに進めないようなクリティカルな論点は検出されず、今も引き続きメインの監査プロセスに進めている状況です。

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監査受嘱確度を上げるポイント

ここまでお話してきた内容は、事業形態やタイミング、人のご縁等で実はあまり再現性の無いものなのかもしれませんが、同様の形で監査をもらえる会社もあるかもしれませんので、もし可能性がありそうなら一度トライしてみても良いかもしれません。

ここでは、地方事務所かどうかに限らず、受けてもらえる確率を高めるポイントをいくつか下記並べてみたいと思います。(あくまで私が想像するものなので、的外れのものやそれ以外のTipsもあるかもしれないのはご承知置きください)

・決算期を監査の集中する3月以外にする(3の倍数以外だと尚良し)
・月次決算を中心とした基本の経理体制を構築しておく
・ショートレビュー(予備調査)で想定している課題をこちらから提示する
・監査対応に明るい人材を内部に抱えておく
・誠実なコミュニケーションを行う(担当だけでなくマネジメント層も)
・監査報酬を値切らない
・事業の成長性を裏付ける実績を積み上げる
・物理的な在庫取引がある場合は早めに相談する
・期首開始まで(予備調査に対する対応)のスケジュールに余裕を持っておく 等

他にもあるかと思いますが、体制構築等の参考になればと思います。

最後に

IPOを目指すに当たって、監査法人を見つけるのがプロジェクト最初の難関になると思います。ただ、上述の通り、会社側で準備を進め、確度を上げるためにできることも多数あるので、そのあたりを意識して前倒して動いていければ思っているよりも良い方向に動くかもしれません。

一方で、IPOを経てこれからの日本経済を動かくしていくかもしれないスタートアップの置かれているエコシステムにおいて、ファイナンス環境はこの5〜7年で劇的に良くなりました。ただ、監査難民問題はより深刻化してきている状況のため、リモートベースでの柔軟な監査体制含めて、業界全体でスタートアップをサポートしていただけるようになれば、より良いエコシステムになるのではないかと感じます。

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