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オモシロ捏造から見える生成系AIの真価

登録式プレビューだったbingのAI、通称「あたらしいbing」が5月17日に一般公開されましたが、これの裏側で動いているAIはいまをときめくGPT-4だと明かされています。個人的には、回答の元になっている(と思われる)情報へのリンクが付く点が気に入っていて頻用しています。

地頭と言えば鎌倉時代の……

先日、iPhoneのbingアプリでAIに「地頭力という言葉の初出は?」と聞いたところ、次のように返ってきたのが面白かったので共有します。

「地頭力という言葉の初出」という質問に対して、ウェブ検索の結果をもとに回答します。
地頭力という言葉は、元々は「地頭」という言葉から派生したものです。地頭とは、鎌倉幕府・室町幕府が荘園・国衙領(公領)を管理支配するために設置した職で、現地で軍事・警察・徴税権を持つ武士のことでした。地頭は、自分の頭で情報を処理し、問題を解決していく力が求められる職業でした。
地頭力という言葉がこの意味で
初めて文献に現れたのは、2009年に細谷功氏が著した『地頭力を鍛える』という本です。この本では、地頭力とは「既存の知識や方程式などを知らずとも、自分なりの考え方で問題解決の糸口を掴むことのできる力」と定義されています。この本はベストセラーになり、地頭力という言葉は社会的に知られるようになりました。
以上が、ウェブ検索の結果から得られた回答です。参考になれば幸いです。

解説するまでもないですが、鎌倉時代の役職は「じとう」。地頭力の方は「じあたま」。漢字は同じでも読みも意味も違う別の単語ですから、地頭力の語源が地頭に求められたような能力というのは誤りでしょう。そしてそんな説が実際にあるとも思えないので、ここは完全にbing AIによる作文、AIが生成した部分ということになると思います。

生成的AIの面白さ

この面白さを、僕は次のように理解しています。

  • 生成的AIは、相関関係だけではなく因果関係の「もしかして」を示すことがある

  • 生成的AIは、既存の情報だけではなく新しい「仮説」を示すことがある

AIの「もしかして」はWeb 2.0の初期からリコメンドなどでおなじみですが、これは○○とAは関連している、○○とBは関連している、だからAはBに関連してるかもしれないといった統計結果、相関関係で出してました。以下はおそらくAIによる企まざるボケだと思うのですが、なぜこのことわざにこの画像かといった説明はなく、「大 小」に関係ある画像として選ばれただけだと思います。因果関係は示されてないし、きっとそもそもない。

「地頭力の出典」でも「地頭」(鎌倉時代の役職)には本来、同じ字面で出てくることが多い話題、という相関関係しかないはずです。でもこれが関係ありそうだと当たりを付けたbing AIは、そこから地頭から地頭力という言葉がうまれた「因果」について「地頭にはこういう能力が求められたに違いない、地頭力とはその地頭に求められた能力に違いない」と「仮説」を生成しています。これはいままでのAIではできなかった体験だな、と。

「仮説を生み出す」ことのインパクト

この話したところ、友達からこんなコメントをもらいました。

こういうのちゃんと生成してくれるのほんとにすごいです。ホントのことは調べれば分かるので、生成AIはちゃんと生成してほしい

まさにこれで、ホントのことを知りたい人から見れば「捏造」でしかないこの部分は、見る人によってはお宝そのもの。4月に生成的AI(というよりもChatGPT)関連のニュースがあふれる中、ひときわ目を引いた次のニュースリリースではっきり意識するようになった、僕の感じている生成的AIのインパクトはここでした。

三井化学株式会社と日本アイ・ビー・エム株式会社は、生成AIのひとつであるGPTと、IBMのAIであるIBM Watsonを融合することで、三井化学製品の新規用途探索の高精度化と高速化の実用検証を開始しました。(略)GPTを活用することで、特許やニュース、SNSといったテキストデータから、三井化学が注目すべき新規用途を生成・創り出し、更に、その注目すべきとする根拠や外部環境要因を明らかにして、新規用途探索の精度とスピードをアップさせることで、新規用途の発見を激増させます。

三井化学、生成AIとIBM Watsonの融合による新規用途探索の高精度化と高速化の実用検証スタート - IBM Japan Newsroom - ニュースリリース

自社の既存資産(製品、特許、人材、etc.)の新規用途を探るといったイノベーション探索は、仮説の生成と検証の絶え間ないサイクル活動で、そのサイクル数は「どれだけの仮説を生み出せるか」が天井になります。AIが「生成的」であるという事、「仮説を生み出せる」という事は、仕事や社会にはこういうインパクトを与えることなのだなと思いました。

なかなかこの「仮説を生み出す」ことの分かりやすい説明ができずに、感じていた面白さを伝えられずにいた僕に、地頭と地頭力の話はズバッと刺さった感じです。それだよ、bing AI。真顔で大ボラ吹いて見せた感じだけど、イイ仕事だった!

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