見出し画像

金融庁・日銀が期待する勘定系のクラウドシフト

先週、Fin-JAWS第16回「re:Invent 2020~ラスベガス現地じゃないスペシャル~」を視聴しました。その中でもAWSJの高野さんによる「金融業界の規制動向と最新トレンド」は、AWSを使わない人、IT系でない人にも知ってほしい内容だと思えたので、ノートにまとめておきます。

Fin-JAWS第16回「re:Invent 2020~ラスベガス現地じゃないスペシャル~」

Fin-JAWS第16回「re:Invent 2020~ラスベガス現地じゃないスペシャル~」は2020年12月9日にオンラインで開催されました。いくつかの資料やTogetterまとめが公開されている他、YouTubeのawsj communityチャンネルで動画も視ることができます。

re:Inventと題打ちながらその振り返り(re:Cap)とかではないのですが、その辺りはエフセキュア河野さんの最初のトピックで言い尽くされています。例年であれば現地で日本からの参加者有志で集まってFin-JAWSラスベガス現地スペシャルを配信したりそこから飲み会に流れたりしながら、気になったサービスや自分たちの困ってることなど情報交換をしていた、新しい出会いと情報と知見の共有を行っていたとのことです。

画像1

今年はその現地情報交換会の感じが、ここに再現されているのですね。ありがたいです。

金融庁の勘定系クラウドシフト促進

どのセッションも聴きごたえがあったのですが、特にAWSJの高野さんによる「金融業界の規制動向と最新トレンド」はJAWSやAWSユーザーでない人にも広く知られてほしい内容でした。まず取り上げられたのは金融庁が2020年6月30日に「IT・サイバーセキュリティの取組みに関するレポートの公表について」の中で公開した「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」のレポート本文および概要の2本でした。

セッションでは、まずレポートの以下の部分がピックアップされます。

共同センターを含めた勘定系システムは、今後、典型的な業務に関する核となる部分は、非競争領域として徹底的に共有化・極小化してコストを効率化させつつ、営業戦略や顧客チャネルなどの競争領域では、外部接続も含め、戦略に応じて柔軟にカスタマイズを行えるものにしていく(略)ことが予想される。
(金融庁「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」p.6)
前提として、新たな IT・デジタル技術の導入を進められるような組織・リソース等を整備することや、勘定系システムをマイクロサービス化することなどで、機動的に対応できるものにしていくといった動きも進んでいくと考えられる。
(金融庁「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」p.6)

勘定系システムは「SoR(System of Record)」「モード1」「守りのIT」と言われる領域のいわゆる基幹システムで、クラウド化は敬遠されがちな領域。2017年にMUFGがクラウドファーストを宣言したと言われる同グループ「デジタルトランスフォーメーション戦略」でも、併せて公開された「主な質問」で次のように勘定系をはっきりとその時点でのスコープから除外し、将来についても言及していませんでした。

Q.将来的には、勘定系のメインフレームは徐々にクラウドに置き換わっていくのか。
A.勘定系システムがすぐにクラウドに置き換わることはないと考える。まずは、勘定系以外のエリアを中心にクラウドに置き換えていくことになるだろう。
(MUFG「デジタルトランスフォーメーション戦略 主なQ&A」p.1)

これに対して金融庁レポートは、この勘定系システムこそ「非競争領域」「共有化・極小化してコストを効率化」「マイクロサービス化」の動きがあるとの見解を示し、こう続けています。

金融庁としては、今後登場が期待される金融機関の先進的な取組みに対して、「基幹系システム・フロントランナー・サポートハブ」を通じて支援をしていくとともに、当局としての知見を高めていくことが必要となる。
(金融庁「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」p.6)

「金融機関の先進的な取り組み」をあえて具体化していませんが、レポートには地銀の「新たな IT・デジタル技術の取組状況」という項も設けています。ここではAI、RPA、データ活用と並んでクラウド活用を取り上げつつ、次のように言及しています。

業務影響が低いシステムでのクラウドサービス利用が進む一方、機密性・可用性についての課題認識が強く、地域銀行では、莫大なコストと高度なノウハウを要する基幹業務でのクラウドサービス利用について慎重になっている。しかし、一部の金融機関では、クラウドサービスの機密性や可用性の向上を背景に、周辺システムでの利用実績を重ね、「基幹業務系システム」の基盤としてクラウドサービスを採用する事例も見られている。
(金融庁「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」p.20)

高野氏はこれを「『金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート』の概要」でまとめられた次の表で手早く紹介しつつ、基幹勘定系をクラウドに持っていくことは「フロントランナー」的取組みであり、金融庁が「基幹系システム・フロントランナー・サポートハブ」設置などで支援していく対象の一つだろうという見解を示されました。

画像2

クラウドシフトによる守りのIT

高野氏は併せて、日本銀行の「クラウドサービス利用におけるリスク管理上の留意点」とこれに対するAWSブログ記事を紹介し、セッションの結びでは「当局(金融庁)や日銀にはいまやクラウドに対してのアレルギーがあるといったことは思っていないと考えられます、むしろ金融機関さんにおいてクラウドがもっともっと加速されることをご期待されているかと」と述べられていました。

前述の通り基幹系である勘定系システムはクラウド導入が敬遠されるだろうというイメージがありました。しかし金融庁のメッセージは、「守りのIT」は「典型的な業務」に関する非競争領域であり徹底的に共有化・極小化・コスト効率化することを求めています。コモディティ機能であるから外部調達しコモディティ運用であるから外部委託する費用対効果の高い「守りのIT」という考え方それ自体は分かりやすいものです。そして営業戦略や顧客チャネルなどの差別化要因である「組織個別の業務」に関する「攻めのIT」こそ独自の機能や運用が求められるところだから、そちらこそオンプレミスも独自開発も自社運用もすべてを選択肢としての総力戦であると。

私は提案・提供するSIerの側の立場ですが、考えてみるとサーバー仮想化でもAzure導入でも、早くから本番導入していただいたお客様に地銀さんがありました。勘定系はクラウドに移行しにくいのではというイメージは、実は金融機関側には移行したくて仕方ない思いがあって、それを「金融機関が当局や日銀に配慮するのでは」という提案側の私たちが忖度してきた可能性すらあったのではと、ちょっと思わされるセッションでした。

これまではどうあれ、これからは「金融庁と日銀が前向き」ということが、金融機関とSIerが勘定系クラウドシフトを前向きに議論するときの共通言語、共通土台、共通のスタート地点になるように思います。いまこのセッションを聞けてよかった、そしてできるだけ広い範囲の人と同じ認識を共有しておきたい内容だと思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?