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フェイクグリーンで差し色オフィス

僕は1月に転職して、試用期間が明けて少しした春頃にブースをもらったのだけど、最初にしたことはほんの少しのフェイクグリーンを飾ることだった。ベンチャーだし緑いっぱいの壁面というのもありだったと思う。あるいは美容室によくあるような、ウッディーで緑ももう少し多めとか。でもなんていうか、僕が興味があったのは「捗る仕事環境」で、少し考えた結果こんな感じに落ち着いた。僕が考えたのは、こういうことだ。

イマドキなオフィスは緑色

いわゆる大企業的なオフィスと言えば白、灰色、ベージュで構成された事務的な雰囲気というのが定番だし、ベンチャーやニュー・エコノミー企業のオフィスと言えばいっそジャングルかというくらい緑に溢れてるイメージがある。緑が多いのには、リラックスやリフレッシュを促すためだったり、空気清浄化のためだったりといろんな理由がある。集中力が向上するという説もある。

ノルウェー大学と米ミシガン大学の研究チームは、デスクに観葉植物を置いた時とそうでない時の記憶力の違いを調べるため、被験者らに、どちらの方がコンピュータに浮かんだ文章の最後の単語を覚えていられるかという調査を行った。一度目の実験は2011年に実施された。何人かの被験者は何も置いていないごくありふれた木製のデスクに座ってもらい、その他の被験者は観葉植物や植木に囲まれたデスクで作業するという形で行われた。その結果、植物に囲まれて作業をした被験者の方が、そうでない被験者たちに比べ、良い結果をだしたという。

情緒に欠ける僕としては、端的に「緑を置くだけで仕事効率に好影響があるなら、費用対効果は随分よさそうだな」と思った。「観葉植物を置くことは最もシンプルで安上がりだが、確実に社員たちの満足度と集中力を高める方法だ」と記事でも指摘していた。僕はブースに緑を置くことに決めた。

大量の緑は必要ない

ただ空気清浄化についていえば、あまり気にしない方がよさそうだ。もちろん、植物には二酸化炭素濃度を下げるとかいったことを期待できる。化学物質を取り除く効果もある。ポトスやアレカヤシなどはよく見かける観葉植物の定番だが「NASAのお墨付き」でもあるらしい。

ただ、それだけの効果をあげるには、それなりの分量が必要だという。NASAは密閉された宇宙船内での空気清浄化に興味を持っているけれど、家庭やオフィスは密閉空間じゃなくて空気が循環していて二酸化炭素や化学物質なんかも流れ込んでくる(室外の空気の方が「キレイ」なら流れ出していくともいえるけど)。

普通の家では、新しい空気が常に循環しているし、部屋を満たす空気の量だって実験のそれとは比べ物にならないくらい多い。ついでに室内を漂うVOCだって次々に排出されている。そうした状況では、ちょっとやそっと植物を置いたくらいでは、空気がキレイになったとしてもたかが知れているという。[...]研究によってバラ付きがあるものの、それなりの空気清浄効果を得るなら1平方メートルに10~100本の植物を用意しなければならないようだった。

僕のブースは2m四方ぐらいだと思う。つまり4平方メートルで、そうすると空気清浄効果を期待するには植物40~400本。本当に「いっそジャングルか」という感じになるけど、それを維持する手間やお金はちょっと割に合わないというか、もう手に負えない。だから、僕は大量の緑は置かないことにした。

一面の緑も必要ない

そうすると緑を入れる目的は集中力とかリラックスとか、視覚効果に絞られてくる。でもどれくらい入れるのがいいんだろう。大量の緑は置かないにしても、例えば壁紙と組合わせて一面の緑を演出することもできる。探していくうちにフェイクグリーン(造花の植物)のウォールマットというのも普通に手に入るようで、このあたりを使うとよりそれらしくなりそうだ。

でも僕に必要なのは仕事をするオフィスであって、バケーション気分の森のコテージじゃない。オフィスの緊張感に、アクセント程度に植物のリラックスを入れたくらいの空間という気がする。探してみて、日経xTechの記事で、パソナ・パナソニック・ビジネスサービスなど三社で手掛ける「COMORE BIZ(コモレビズ)」が視界内の緑の割合である「緑視率」に注目していることを知った。ここのサイトに、緑視率とストレス軽減効果の関係が示されていた。

指標として、「空間に関する満足度」と「知的生産性」を使用し、これらの数値を複合的に見て最適な緑視率を導き出しました。空間に関する満足度は緑視率10%を超えると徐々に悪化。知的生産性は、10~12%の間でピークを迎えるものの、環境によって変動し、植物を増加させる費用を考慮すると、生産性を悪化させる場面も出てくると想定しました。この2つの結果を合計した動きで判断すると、緑視率は10〜15%が最適という結果になりました。

視界の一割が緑なら十分な効果が上がるし、それ以上になるとむしろ効果が下がっていくらしい。ちょっと意外に思う一方で、「オフィスの緊張感に、アクセント程度に植物のリラックス」という当初の感覚とは一致する感じでもある。だから、僕は一面を緑で覆うこともやめた。

フェイクグリーンでも効果がある

だいたいイメージができたところで観葉植物を見始めたのだけど、気になったのは普段の世話とか事故があった時の始末とかだった。職場に土を持ち込むことになるけど、虫や虫が発生する土壌を持ち込むわけにはいかない。地震もたまにある(この直前ぐらいにもあった)けど、落ちてきて誰かがケガするとか、ひっくり返って散乱して避難の邪魔になるとかもいただけない。

そこでふと思ったのは、フェイクグリーンじゃダメなのかな、ということだった。調べてみると、COMORE BIZの実験にも産学連携で参加している松本博氏の発表資料というものが見つかった。

観葉植物により知的生産性が改善される
・観葉植物を配置した場合7.9%作業効率が改善
・疑似観葉植物を配置した場合5.6%作業効率が改善
屋内緑化2015年2月号「オフィスにおける観葉植物によるメンタルヘルスケアと知的生産性の向上」

これとは別に、観葉植物と人口植物で心理効果を比較した論文もあった。こちらは職業能力開発総合大学校の橋本氏によるもの。

因子分析の結果から、観葉植物の方が人工植物より、総合的には心理的評価が高いという結論を得たが、人工植物でも緑視率1~4%のレイアウト B、F、H については観葉植物とほぼ同等の心理的評価を得ている。そのため、人工植物をオフィスに配置する場合には、緑視率が過度に高くならない程度に抑制する方がよいと考えられる。
オフィス環境における知的生産性の向上に関する研究-室内緑化のストレス緩和効果について-
ストレスの多いオフィス空間に観葉植物を配置することは、ストレス緩和効果のために重要なことであると考えられる。しかし、観葉植物は、費用、メンテナンス、場所などの問題を有することがあるので、代替案として人工植物を効果的に配置することが求められるだろう。
オフィス環境における知的生産性の向上に関する研究-室内緑化のストレス緩和効果について-

実際にDIYショップや東急ハンズなどでフェイクグリーンを見てみると、近づいてみれば明らかに布地にプリントという感じだけど、離れてみれば十分な雰囲気が出ている。効果は期待できそうで、手間は間違いなくかからないし、壁につけるとして高い位置に土や水を置かなくて済む。だから、僕は本当の植物を置くこともやめた。

緑化をするなら早い方がいい

こうした記事や文章を見ていて面白いなと思ったことがもう一つある。緑の効果は、設置する量だけじゃなく、設置する期間にも左右されるらしい。

「コモレビズのノウハウ2 植物設置効果は、時間的推移がある。」では、植物を設置すると最初に拒絶反応が出て、その後好転するという結果が示されている。設置から2週間の時点ではアンケートで調べた心理ストレスと心拍数・脈波に基づく生理ストレスの両方が上昇を示し、4週間時点からは心理ストレスは設置前と同等。でも生理ストレスはこの時点で設置前より低く、6週間時点ではさらに下がったらしい。

冒頭にあげたカラパイアの記事では、もっと長期の変化に触れている。

一度目の実験は2011年に実施された。(略)その結果、植物に囲まれて作業をした被験者の方が、そうでない被験者たちに比べ、良い結果をだしたという。その結果、植物に囲まれて作業をした被験者の方が、そうでない被験者たちに比べ、良い結果をだしたという。

理屈はよくわからない。緑視効果は蓄積するのかもしれない(考えにくいけど)。あるいは、よい環境で高い成果を出し続けることで、地力の伸びに開きが出たのかもしれない(こっちの考え方のほうがしっくりくる)。どちらにしても、早いに越したことはない。だから、僕はこれ以上考えるのは後回しということにした。もう緑化を始めるタイミングだ。

結論、フェイクグリーンでオフィスに差し色

いろいろ考えてきて、最終的にはフェイクグリーンを壁に少し飾るくらいに決めた。こんな感じで、左上のプランタと右の小さなプランタにフェイクグリーンを入れてある。左中央の小瓶は、中にも像のドライフラワーみたいなものが入っている。写真にしてみると寂しいし、来室者の印象にも残らないけど、実際に仕事していると目の端にはいつもグリーンがあるぐらい。

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出来上がった僕のブースは、来室者にはジャングルとか美容室とかは言われなかったけど、喫茶店みたいとは言われた。なるほど、ノマド環境かと思ったので、オフィスに行かない日は「自宅で作業にします。塚本ブースはご自由にお使いください」と言い添えて、社内ノマド向けに開放することにした。

比較対象がないから、僕の仕事成果が「緑の差し色」効果で優れたものになっているかどうかはわからない。でも不慣れな新しい仕事でとりあえずバイバイされないだけのアウトプットはできていると思うし、気持ちよく仕事ができている。そしてイマイチと思ったらまた見直せばいいのだから、自分なりに納得した方法だったら早く試してみるのがよいと思う。僕がいるのはまだ比較的ルールや慣行が少ない新興企業だし、小さな費用で実験ができる少人数企業でもある。こういう身軽さでいろいろ実験して、本当にしっくりくる働き方を模索したいと思う。

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ヘッダおよび最後のオフィス壁面画像は、筆者撮影のものをartomatonで加工した。腰かけてる人形は、今年のAWS SummitのもらったAWSマン(正式名称は知らない)。

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