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統一地方選2023:新興政党が向き合うべき「損失回避バイアス」

与党が固定しすぎてたり現職がすごく高齢化してたりして、選挙で「刷新」を期待したくなる時もある。でも投票日までその気持ちが保てない。期待の受け皿になる新人候補や新興政党がしばしば選挙戦のなかで失策するからだ。そして彼らは「減点方式」で評価される立場だからだ。それで少なくとも1票を失っていることには、意識を向けてほしい。

「選挙戦あるある」な些細な失策

失策というのは、こんな些細なことだ。

例えば子育て経験者、子育て世代の代弁者を自認する候補者がいる。言っている内容には共感するし、なにより若々しい。でもある日、昼寝をしようとして「あれ?」と思う。窓を閉めたマンション内でも演説が賑やかで寝付けない。子育てって子供の昼寝はもちろん、幼児期なら親も夜の睡眠が寸断される分だけ昼寝が欠かせないのでは。子育て世代が地域環境を訴える姿がこれだろうか。

例えば理念だけを掲げて選挙戦を始めた候補がいる。理念は共感できるし、なによりイマドキ感がある。でも「具体性がない」「政策は」と揶揄されて、210を超える政策を打ち出す。1年は約52週、任期4年は約208週だ。つまり毎週平均一件、公約を実現できるものだろうか。それとも実現性はさておき、ということなのだろうか。

なるほど、理念は現職や与党よりよい。でも実現する実行力はあるのかな?

子育て世代が大音声の演説に共感するかとか、4年間で210超の公約に信憑性があるかとか、そういう想像力がなくて地に足のついた構想ができるだろうかと。選挙が終わって政策を実施するとれば、多様な価値観を持つ利害関係者の調整が不可欠だろう。そこでまず必要になるのはエンパシーと呼ばれる共感力であり、僕の理解では、エンパシーとは想像力だ。

投票意識が高い層と損失回避バイアス

ちょっと古い記事だけど、ニューズウィーク日本版によれば、次のような傾向があるそうだ。まず「高齢・高学歴層」では投票意欲が高く、「若年・低学歴層」ではその逆である。次に若年層に目を向けると、富裕層の子どもほど、政治や選挙への関心が高い傾向が見られる。

全体に見て投票意識の高い層、そして若年層の中でも投票意識の高い層、どちらを見てもおそらくいまの社会や政治の中で暮らしがそこそこ回ってそうな層だ。投票意識が高いからには、政治や社会がよくなることには関心がある。ただし一方で、政治や社会が悪くなれば失うものを持っている。

現職や与党の強みは、現在の政策であれば必要な実行力は「現に果たしている」という実績値が担保してくれていることだ。理念への期待値は低いこともあるけど、実行力はどんなに下がっても「現状維持可能」というところで底打ちする。新人候補や新興政党の失点では、実行力も期待値でしかない。現状維持というベースラインへの不安感も湧き上がる。政治や社会が悪くなれば失うものを持つ層から見れば、それは損失リスクだ。

そして僕たちには不合理なレベルで利得の喜びより損失の悲しみを大きく感じて、「利益が出ること」よりも「損失が出ること」に敏感に反応するバグが組み込まれている。

投票意識の高い層では、損失回避バイアスは「疑問を覚えた新人候補や新興政党を回避する」方向に向かいそうだ。「やるのは応援したい、でもやってずっこけるくらいならやらないでほしい」と。こうなると現状維持は足切りラインで、そこの評価につながるのは理念よりも実行力だ。

アグレッシブと勇み足

いわゆる支持層や票田を持つ現職や与党に対して、新人候補や新興政党は得点を重ねることにアグレッシブになりやすい。ボランティアを何人集めたか、応援演説が何人からしてもらえたか、何人に声をかけ何人にチラシを渡せたか。でも得点だけじゃなく、何人の有権者に「あれ?」と引っ掛かりを覚えさせたか、失点にも目を向けた方がいいと思う。アグレッシブに走りすぎて、勇み足になれば命取りかも知れない。

勇み足と言えば、ネット上で1月には出馬を表明し公職選挙法への抵触を示唆されて「グレーな法律みたいです」から「NGと考える人もいるでしょう」と返答している人も見かけた。選挙が終われば政務がはじまる。選挙は勝ち負けだけど、政務は共同作業。だから地方政治から国政、米大統領選に至るまで選挙が終われば「ノーサイド」というのだろう。でもノーサイドで敵ではなくなったあと、グレーゾーンに踏み込むと公言する人は一緒に政務に当たる仲間と言ってもらえるのかな。これも得点以上に失点してないかな。

統一地方選挙も選挙戦最終日、期日前投票も最終日で、明日は本番の投票日。区長選については東京新聞が選挙ドットコムと協働して投票マッチングを用意しているけど、政策への賛否だけで投票できればこんなにすっきりする選挙もない。だからチャレンジャーである候補者や政党には、ぜひつまらない失策、失点をしないでほしい。政策で人や党を選び、当選したならばその政策を実現してくれると期待して投票したい。


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