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拝啓 藺相如 様(澠池の会が好きすぎる)

藺相如。
読み方が全く分かりませんね。
「りんしょうじょ」
これが、貴方の名前の読み方です。
中国の戦国時代末期、だいたい今から2300年ほど前でしょうか。
秦の始皇帝に中華統一される前の、国々が乱立していた時代に生きてましたね。

貴方はその中の一国である趙という国の、宦官の食客でした。

その宦官に推薦され王様の使いとなり、貴方は類稀な度胸と賢さで王様の覚えめでたく、どんどんと出世されました。


沢山のエピソードがありますね。
「完璧」「怒髪天」
これらの語源は貴方が元になっています。
どちらも貴方の、度胸と機転が生み出した産物です。

不思議ですね
私の経験の中では、度胸と賢さは割と相反します。
賢ければ賢いほど、恐れは大きく度胸は小さくなる
度胸が大きければ大きいほど、思慮が足りず失敗も多い

この時代の失敗なんて、即、死ですからね。


私の経験が浅いのか、私がチキンなのかわかりませんが(どちらもでしょうけど)貴方のような人は見たことがない気がします。


色んなエピソードを持つ貴方ですが、
私の大好きなエピソードは、

なんといっても「澠池の会」です。
…ホラまた読み方が難しい。
「べんちのかい」ですね。
読み方が分からない、という理由で中国史を学ぶ心が折れそうになる時がありますよ。


貴方のいた趙という国のお隣さんに、ジャイアンみたいな秦という国がありましたね。
オレ様で、暴れん坊で、嘘つきで。

そんなジャイアン国が貴方の国に言います。
「オレたち仲良しだよなぁ?俺ん家まで呑みに来いよ!で、もっと仲良くなろうぜ!」


ね〜なんと恐ろしい飲み会の誘いでしょう。


そんな訳がない。
そもそも仲良しだったら、友達の家をぶっ壊したりしないから。でも壊したよねぇ、ジャイアン。
でさ、そもそもなんでジャイアン家なん?
きっとそこには、自分たちをイジメる要員が沢山仕込まれてるんでしょ。それに対抗しようとしてこっちも連れて行ったら、
「オレがそんなことするわけないだろー!オレの好意を踏みにじりやがって!」
なんて、因縁ふっかけるんでしょ?
もう見えるわー、見えてるわ。
実際自分も友達を連れて行ったら周りの国々にチキンと思われるから出来ないし。
行きたくないなー
どうしよっかなー
でも、廉頗とかいう、これまた読めない名前のイカつい人は
「ナメられたらアカン!行きなはれ!もし、もしもの話、アンタに何かあったら、アンタの息子をワシらが盛り立てますから!仕返しは任せといて!大丈夫👌」
て、後光の憂いを断ってくるしなー
イヤだなー
困ったなー

そんな風に思ったであろう王様に貴方は

「自分がついて行きますから( ー̀֊ー́ )✧」

と、言いました。

そう、ここに至るまでに、貴方は類まれな度胸と機転を余すことなく披露してましたから、王様はとても心強かったでしょうね!
実際問題、困難な飲み会だったと思います。
侮られてはいけない、でも相手にマウントを取ってしまえばそれを口実に戦争、もしくは即、死だったでしょうから。


そして地獄の飲み会当日。
貴方たちは上辺だけの交流を楽しんだわけです。

縁もたけなわになった頃、
ジャイアン(秦・昭襄王)は言いました。

「趙王よ、そなたは音楽に造詣が深いと聞く。ここは一つ、友好の証に琴を弾いてみてはくれないか。」

(えー……)
と、趙の王様は思いましたが、そこは友好の証として琴を弾きました。


この後です。
ジャイアン(秦・昭襄王)が本性を表します。

近くにいた記録官に言います。
「秦王が趙王に琴を弾かせた、と書け。」と。

何たる卑怯なマウント!
何たる巧妙なサゲ手口!
こんなん、臣下以下の扱いやないか
それ記録に残すとか!ないわー





私が貴方ならどうしたのか。
私ならばその場は何となくやり過ごし、そして自分の国に帰ってから目いっぱい悪口を吹聴すると思います。そんなもんです、一般人なんて。
百歩譲ってその場で何か言うならば、きっとド正論を吐いて死を賜ったでしょう。

貴方、その時どうしました?
華麗と言うしかないですね、本当に!

貴方はジャイアン(秦・昭襄王)のもとに行き、手に持った瓶を差し出して、言いました。


「秦の国では、飲み会の席で瓶を叩いて歌うと聞いてます。仲良しの証にこの瓶を叩いてください。」

勿論、ジャイアンは無礼だと言って怒ります。
そんなことは下々の者がすることであって、オレ様がすることではない。周りにいた手下共も、貴方を亡き者にしようと構えます。


貴方はさらに続けます。
「秦王様と私との距離は僅か5歩。私の首を刎ね、その血を秦王様に注ぎましょうか?」

恐ろしい!
そんなドリンク、誰も注文いたしません!

貴方の気迫に、護衛もジャイアンでさえも圧倒され、とうとうジャイアンは一回、瓶を叩きます。

まだです。
まだ貴方のターンです。
ここで貴方は真骨頂を迎えます。



「趙王が秦王に瓶を叩かせた、と記録せよ。」


もう、素晴らしいとしか言いようがない。
こんな鮮やかな切り返しが出来るもんなんだろうか。

相手の嫌がらせと同等の熱量で、そして同じやり口で返す。
これならば相手は拒むことは出来ないよね。拒んだら器が狭い、と笑われるから。

その場ではドローの試合に見えても、
時が経って人の口に上がるときには、世論がプラスされて趙に軍杯が上がるよね。
スマートだもん。なんか。
そして笑える。

だって想像してください。
王様同士が、屈辱にまみれたギリギリした顔で、一方は琴を弾き、一方は瓶を叩いて応じる。
こんな素敵な外交がありますか?
こんな、文面にしたら牧歌的な外交がありますか?


それもこれも、貴方という度胸と度量の大きい、心に余裕のある人にしかなし得なかった、と私は思うのです。
このエピソードこそが、最も貴方らしさを伝えてくれてる気がしてなりません。


貴方は病に倒れ、世を去り、
時を経て趙は滅亡し、ジャイアン国・秦が初めて中華を統一します。

それからも果てしない幾多の興亡があり現在に至るのですが、それでも貴方の飲み会エピソードは私の中で異彩を放っています。
2300年経っても私はこのエピソードで笑い、何故かホッコリするのですから。


言わなければならないことは言う。
でもそれは10割のド正論ではなく、
7割程度の正論と、3割のユーモア、あとは度胸を持って事に当たれば世論が判断してくれる。

これが今回私が貴方から得た智恵です。
プラス、脳味噌がワクワクするようなエピソード有難うございました。
どうしても感謝したくてお手紙を書きました。 

またいつかお会いできる日を心待ちにしております。
では、その日まで。




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