【SD】パドレス、ソトとグリシャムをヤンキースへトレード放出し4投手と捕手獲得
メリー・クリスマット!
米国12月6日、サンディエゴパドレスはフアン・ソトとトレント・グリシャムの2外野手をニューヨーク・ヤンキースにトレードし、マイケル・キング、ドリュー・ソープ、ランディ・バスケス、ジョニー・ブリートの4投手とカイル・ヒガシオカ捕手を獲得した。
昨年の8月に世紀の大トレードでワシントン・ナショナルズから移籍してきた稀代の強打者ソトがパドレスに在籍した期間はプレーオフ含む2か月半と1シーズンのみとなった。また2020年にブリュワーズからトレードで移籍した好守と見逃しストライクでお馴染みの中堅手グリシャムは4シーズンをパドレスで過ごした。
先ずこのトレードについてはMLB30球団ファン合同noteヤンキース担当である助手さんのnoteをお読みいただきたい。両軍の事情や選手について非常に詳しく記されている。
また私と同じくパドレス担当テルチカさんは来季先発候補キングのピッチングについて詳しい文章を投稿しているのでそちらもお読みいただきたい。
そしてMLBトレード日記さんも検証記事を投稿している。
日数も経った今となっては、正直なところ今回のトレードについてはこのお三方のnoteを読んでもらうだけで十分把握できる気がするが、若干の重複をご容赦いただきつつパドレス側の見地から話を続けさせてもらおう。
ソトトレードの理由
今季パドレス唯一の162試合出場を果たし.275/.410/.519/35HRという好成績でシルバースラッガー賞に輝き、チームMVP級の活躍を見せた25歳の強打者を放出した理由は主に3つだ。
理由#1: 予算削減
パドレスの年俸は今年の$255Mから来季2024年は約$200Mへ予算が削減されると報じられている。その主な理由は、球団負債を収入の8倍以下(新球場建設球団は12倍以下)に抑えるようMLBの労使協約で定められているDebt Service Ruleに抵触しているからである。バランスシート(貸借対照表)は公表されていないので詳細の把握は困難だが、負債増大の主な理由は近年の年俸増加だろう。Forbesの試算によると2023年のパドレスは過去最高の$324Mの収入を挙げながらも$55Mの営業損失を出すと見込まれている。
MLB市場17位の中規模都市サンディエゴで収入の80%近くを占めるMLB3位の選手年俸を先日亡くなったピーター・サイドラー前会長兼オーナーが支払っていたので無理もない損失だ。またTV放映企業のBally Sportsの倒産により年間$60Mの収入減が途絶えたことも痛手だ。今年はMLB機構からの救済措置として80%が補填されたが、来季からその様な救済は無くまた新しい放映企業は見つかっていない。現在球団に放映権が帰属して直売りを行っているが、Ballyから得ていた放映権収益には遠く及ばない。
以前にも触れたがマニー・マチャド、フェルナンド・タティス・ジュニア、ザンダー・ボガーツ、ダルビッシュ有、ジョー・マスグローブの長期契約は全て完全トレード拒否権が付与されているためトレードによる年俸削減が極めて困難だ。来季$10M以上の年俸見込みで制限なく放出が可能な唯一の選手がソトだった。
トレードにより両チームの契約状況は以下の通りになる。
HGP創英角ポップ体で書いてもあまり愉快に見えない無関係な育休契約が紛れ込んでしまったがトレード選手年俸の合計には含まれていないのでご安心頂きたい。今後多少の誤差は生じるだろうが、約$30Mの年俸削減に成功した計算になる。
理由#2: 低い契約延長の可能性
もし仮に球団年俸削減の計画が無かったとしても、来季でFAになるソトとの契約延長の可能性は極めて低かった。ソトの代理人スコット・ボラスは、予てからチーム在籍中の契約延長を避けフリーエージェント市場で複数球団を競わせ高額な契約を結ぶ手法を得意とする。この点についてはソトを獲得した昨年8月の時点でパドレスも覚悟をしていただろう。言い換えるなら2022年と2023年にパドレスは大勝負を掛けた。おそらくこれは2度非ホジキンリンパ腫を患い健康状態にリスクを抱えており、早くワールドチャンピオンをサンディエゴにもたらしたいと望んだサイドラー前オーナーの意向を汲んだ動きだろう。もし来季終了時までソトがパドレスでプレーしFAとなりクオリファイングオファー提示後他球団と契約した場合、パドレスに与えられる対価は2025年のドラフトピックのみだ。贅沢税対象球団でなければ3巡目の手前だが、ソトやグリシャムを抱えたままならば2024年も贅沢税閾値超えは確実で、2025年ドラフトで与えられる代償ピックは5巡目の手前になる。球史屈指の強打者テッド・ウィリアムズと比較され、25歳にしてメジャーレベルで6シーズンを過ごしキャリア通算157OPS+と驚異的な成績で早くも将来殿堂入りが期待されている選手の代償にしてはあまりに物足りない。
理由#3: 投手不足
トレードを行わず、また再契約の見込みもないままソトを来季保有した場合、2024年パドレスの年俸見込みは$190M程度だった。#1で触れたとおり来季年俸予算が$200Mなら$10Mしかシーズンオフの補強に費やせない。しかしパドレスはシーズン終了後、大量に投手がFAで流出している。NLサイ・ヤング賞投手ブレイク・スネル(2023年180.0IP【投球回】)、セス・ルーゴ(146.1IP)、マイケル・ワカ(134.1IP)の先発ローテ3投手、中継ぎとスポット先発のニック・マルティネス(110.1IP)、抑えジョシュ・ヘイダー(56.1IP)、中継ぎルイス・ガルシア(59.2IP)とティム・ヒル(44.1IP)、出涸らしリッチ・ヒル(27.1IP)らが去った。合計すると750イニング以上に相当する。打球がフェンスを越えなければ祝杯をあげたくなるようなリッチ・ヒルのイニングは別に取り戻す必要はないがFA先発投手は高騰している状況で、$10Mとプロスペクトで700イニング以上を補うことは非常に難しい。そしてそのプロスペクトらの多くは来季のメジャー開幕には昇格が間に合わない。
ソトはFAまであと1年と迫っているため、昨年8月ソト獲得の為にパドレスが放出したマッケンジー・ゴア、C.J.エイブラムス、ロバート・ハッセル三世、ジェイムズ・ウッド、ハーリン・スサナの様な豪華トッププロスペクト陣の獲得は望むべくもないが、この時点で可能な限りベストな安価かつ多数な即戦力投手に交換する必要に迫られていた。
新戦力
その様な状況で、パドレスと今季チーム年俸がMLB2位を誇るも打撃がアメリカンリーグ15球団中10位の94wRC+と低迷しAL東地区4位という屈辱に塗れ再起が至上命題である名門ヤンキースという、立場と経済力は異なるがなかなか崖っぷち球団同士のトレードが成立した。ソトに関してパドレスに問い合わせてきた球団は10を数えるが、ヤンキースとの話し合いは今年7月のトレード期限前から行われたという。
(以下年齢は来季4月1日時点)
マイケル・キング Michael King 29.0歳 右投手
2023年成績
MLB 49試合(先発9)104.2IP 2.75ERA/3.53xERA
10.92K/9 2.75BB/9 0.86HR/9
4投手のうち来季メジャーでの活躍が最も期待される即戦力。球種は縦横に動きの大きい平均94mphシンカー、82mphのスイーパー、95mph近くの4シーム、87mphチェンジアップ。スイーパーは投手から見て左下、チェンジアップは右下と四隅を突き40%前後の空振りを奪える制球の持ち主。今年は開幕はリリーフも8月から先発登板し、9先発のERAは2.23と尻上がりの成績だった、
懸念事項は健康。背部と肘の疲労骨折を含む故障歴がある。今季の9先発中6試合は80球以内で、今年より前に100イニングを超えたシーズンはAA-A+-AAAでの161.1回を投げた2018年だ。裏を返せば、もしイニングが確実に期待できるならヤンキースはキングを戦力の中核に置きトレード交渉のテーブルに名前が挙がらなかったかもしれない。ただ繰り返すが投げる球の切れは素晴らしい。制球の良いチェンジアップ以外は良く、総合Stuff+は100イニング以上投げた投手のうちリーグ14位。
2024年の展望 先発2-3番手。180イニング以上投げたら1番手の可能性も
ドリュー・ソープ Drew Thorpe 23.5歳
2023年成績
A+ 18試合(先発18)109.0IP 2.81ERA/3.21xFIP
11.39K/9 2.72BB/9 0.83HR/9
AA 5試合(先発5)30.1IP 1.48ERA/1.82xFIP
13.05K/9 1.48BB/9 0.89HR/9
今年マイナーリーグ最多の182三振を奪いMiLB最優秀投手プロスペクト賞受賞。今回パドレスが獲得した投手の中では最有望株で、ヤンキースではチェイス・ハンプトンに次ぐ投手プロスペクトだった。今年はA+とAA。特にチェンジアップが良く、空振り率がエリック・ホズマーのゴロ率をも凌ぐ驚異の64%。ただ4シームが平均91-93mph、最速でも94mphに留まるためか人により評価が割れる。The Athleticのプロスペクト評者キース・ロウは「見かけは先発投手」と厳しい寸評で、ヤンキース内プロスペクトランク16位に留めた。
チェンジアップが決め球の投手は下位マイナーレベルなら先発でもビデオゲーム級の超高成績を残す事がままあるが、メジャーリーグで先発投手として大成するには有効なブレーキングボールが必要になる。かつて4シームとチェンジアップを武器にパドレスのマイナーで敵なしだったテキサス郊外住宅地カウボーイクリス・パダック(現ツインズ)はメジャー2年目以降に躓いた。とはいえ4シームと似た頻度で用いられるソープのスライダーやカーブはパダックのカーブより質が良く平均以上のキレがあるので速球と共に磨きが掛かれば大成か。球速に勝るハンプトンの名前がトレードの噂に上がらなかった理由はヤンキースが放出を拒んだという点だけでなく、制球が良くイニングをより稼いでくれそうな確率が高いソープをパドレスが好んだ可能性も考えられる。今のところホームラン被弾も少ないので大コケはしなさそう。
2024年展望 シーズン半ばにメジャー初昇格。将来の先発3番手
ランディ・バスケス Randy Vásquez 25.4歳 右投手
2023年成績
AAA 17試合(先発17)80.1IP 4.59ERA/4.47xFIP
10.76K/9 4.48BB/9 1.12HR/9
MLB 11試合(先発5)37.2IP 2.87ERA/5.27xERA
7.88K/9 4.30BB/9 1.19HR/9
今年5月のパドレス戦での先発登板でメジャーデビューした(4.2IPで2失点)。10.8BB%(MLB平均8.4%)と制球は今一つだが球種は94mph前半の4シームとシンカー、88mph弱のカッター、スイーパー、横変化が大きいチェンジアップやカーブと多彩だ。チェンジアップ以外の球種は上下の動きに乏しいが、カッター以外のRun Valueはプラスだ。
バスケスが先発投手として一本立ちするための課題は左打者の克服だ。
対左打者.206AVGと抑えているように見えるがK%は僅か12.5%と右打者相手の半分以下。昨年リーグ全体で右投手の対左打者のFIP/FIP+は4.61と4.58で0.5位右打者の4.13/4.14より高くなる傾向だった。バスケスの場合左打者相手のFIPで対右打者と比較して3点以上、ホームランを除外したFIP+でも1.5程上昇し悪化がリーグ平均よりかなり顕著だ。
ゴロが多い投手でもないがSoft%が増え弱い打球による低いBABIPに救われている。ここに継続性が期待できるかは不明だ。
先のキース・ロウは右打者相手と同様にプレートの三塁側を踏んで投げている点を指摘している。そのためか左打者外角へのボール球が多い。特にカーブでその傾向がある。一般的にプレートの踏む位置が三塁側か一塁側どちらが良いかは投手の球種や腕の角度や投げ込むコースによる。スライダーなど内角を攻めるブレーキングボールの角度は増すが、速球系の球種で身体が開きがちになるリスクがある。そしてバスケスの場合右打者相手には外角低めのボール球で空振りを奪えているカッターが左相手にはど真ん中に行っている。4シームやシンカーも同様にコースが甘くなる。プレートの真ん中近くから投げるか、カッターともう1球種ほど落としても良いかもしれない。
2024年展望 先発5番手かロングリリーフ
ジョニー・ブリート Jhony Brito 26.2歳 右投手
AAA 7試合(先発7)36.1IP 5.45ERA/4.48xFIP
8.17K/9 3.96BB/9 1.98HR/9
MLB 25試合(先発13)90.1IP 4.28ERA/4.66xERA
7.17K/9 2.79BB/9 1.39HR/9
ブリートはバスケスより一足早く今年4月にメジャーデビュー。ストライクを放ることには長けている。球種は96mphのシンカーにチェンジアップとカーブと4シーム。
課題はバスケスと同じく左打者。対右打者成績の4.40FIP/3.98FIP+に対し、対左5.17FIP/5.54FIP+とやや差が大きい。
バスケスよりもリリーフと先発でERAの差が顕著(リリーフ1.43 vs. 先発6.32)で、カーブと4シームのスピンがリーグ平均より10%前後少ない。そのためかボール球を振らせても当てられてしまう。ゴロ率がリーグ平均程度に留まっているのがマイナー時代は高かったので改善に期待か。
リンク先動画の左打者からの空振りは外角へのチェンジアップ。回転掛けるのが苦手ならこのオフスピード球種を磨くか。
2024年展望 ロングリリーフかスポット先発
カイル・ヒガシオカ Kyle Higashioka 33.9歳 右投右打
MLB 92試合 260打席 .236/.274/.413/10HR/1.7fWAR
フレーミングの良いベテラン捕手。二塁送球までのポップタイムやブロックなど他の守備指標は昨年より悪化。当てられないボール球に手を出し三振多く四球が少ない。しかし一発を打つパワーは有り過去3シーズンとも10HR。移籍前まで2008年からヤンキースに16年在籍した最古参だった。上記4投手への知見もプラスか。
フレーミングの公式動画が見当たらないので同じ位得意そうなギターテクニックのインタビューを載せることにする。
2024年展望ブレット・サリバンを超える2番手捕手。正捕手ルイス・キャンプサーノのメンター
トレード総評
スーパースターとはいえFAまで残り1年契約とレギュラー当落線上にある中堅手の対価としては少なくとも上出来だろう。先発上位投手1人2年、来年以降の先発3番手候補、ペドロ・アビラやマット・ウォルドロンと先発5番手を争う投手2人は今季メジャーとマイナー合計で550イニングを投げている。ソープが来季序盤はマイナーでもキングがもし来年通して先発し160イニングを投げればFAで失った750IP(リッチ・ヒル除くと700IP)のうち550IPが埋まる。加えてノンテンダーFAのオースティン・ノラの代わりに経験豊かで安価な控え捕手を獲得した。
トレード評価サイトBaseball Trade Valueでは評価モデルが受け付けないほどヤンキースの払い過ぎであるという試算が出ている。
ただBTVではプロスペクトが過大評価になりがちなので、金銭の節約を含めてもそこまで一方的ではない様にも映る。BTVもこのポストへの返信でソトを1年のFAとみなした場合はモデルから逸脱する程の払い過ぎではないとしている。またもし不安視されているキングの肘に長期離脱を要する様な故障が1年目に生じればトレードの評価はおそらく逆転するだろう。
さらに資金力(金銭感覚ともいえる)と来季勝利へのメディア圧力の優先順位や比重が両軍で異なる為、釣り合わない=即ヤンキース(もしくはパドレス)にとって悪いトレードという訳ではない。費用を削減しつつ来季に限らず今後数年に渡りローテ投手とイニングイーター候補の頭数を確保したいパドレスと、明らかに弱点だったアーロン・ジャッジに続く外野打撃を急激に改善したいヤンキース、それぞれの立場に基づきニーズを埋めた取引だ。
とはいえパドレスは他球団からこれ以上の見返りは求められなかったはずだ。冬場にもかかわらず肩にUSB扇風機を巻いているのではと勘繰るほど首回りが涼しすぎる両GMならではの結実だ。ソトを含めたトレードで得られたであろう選択肢の中からベストバリューを引き出したと見て良いだろう。
終わらないオフシーズン
FanGraphsによる来季勝敗予測は82勝80敗だったが、今回のトレードで79勝83敗に悪化した。投手の頭数は増えたが、ソトとグリシャムを出してしまったので40人枠に外野手はタティスと守備固め代走要員のホゼ・アゾカーしか居ないので無理もない。今季マイナーで.274/.413/.428/16HR/46SB、アリゾナ秋季リーグMVPの中堅手ジェイコブ・マーシーもA+での出場が主でAAは16試合のみである事を考えると開幕レギュラーとしての期待値は未知数で、同じくA+とAAでシーズンを過ごした野手トッププロスペクトのジャクソン・メリル(.277/.326/.444/15HR/15SB)は遊撃手だ。となると少なくとも2人同時の開幕スタメンレギュラー経験のある外野手1人(クローネンワースの処遇によっては外野手1人と一塁手1人)と先発投手1人の獲得は必須だ。続いて肘故障で開幕から7月下旬まで欠場後球速が戻り切らなかったロベルト・スアレスと抑えの座を争うリリーフも欲しい。残りの予算は約$45M(マット・カーペンター放出後)とプロスペクトを対価にこれらの補強が必要になる。ちなみに贅沢税のペナルティをリセットする為に第一閾値以下に抑えるなら残り予算は約$32Mだ。
外野の話が出たが、現在FA市場に今季のグリシャムより高いfWARを残しそうな中堅手はコーディ・ベリンジャーしか居ない。今年右翼手1年目でプラチナムグローブ賞を受賞したタティスJr.をセンターにコンバートして、中堅手より安価で同レベルの打撃貢献が見込める相場が安いコーナー外野手をトレードで獲得する方が得策に映る。先発投手も同様に中位プロスペクトを餌にしたトレード経由の補強が主になるだろう。とはいえそれこそソトを獲得した時の様な即戦力獲得の為の大盤振る舞いを行うことはマチャド、ボガーツ、マスグローブ、ダルビッシュらが衰退期を迎えるであろう2020年代半ばから後半に高い球団年俸と平均年齢のままパフォーマンスが低下するというデッドロックを招きかねない。その為今年はプレーオフを望める戦力を揃えながら年齢層に幅を持たせるという今までよりバランスを意識した編成が求められる。いずれにしても4-5番手候補のニック・マルティネスに2年$26M、年あたり$13Mを出すFA市場にはおいそれと手を出せない。
似た様な金額の契約をパドレスが売れれば良いのだが、何処かにポップ体で記しただろうか。
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