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【MLB】ドジャースが大谷翔平に続き山本由伸を獲得したことであらためて気になるもう少し別の問題

おことわり:下記のnoteと同様に今回もX/Twitterの連続ポストをまとめた雑記である。テーマが同じなので若干内容に重複があるがご容赦いただきたい。もしまだお読みでない方は先に目を通すことをお勧めする。

ロサンジェルス・ドジャースはNPBのオリックス・バファローズからポスティングされていた山本由伸12年$325Mの契約を結んだ。大谷翔平の10年$700M(後払いのため現在価値は約$438M)やタイラー・グラスノウの5年$135M等も含めると、今季ドジャースが費やした補強資金はマイアミ・マーリンズの球団評価額$1.0 billionを超える。

NPBの日本人選手がまだ一球も投げぬ前にこの様な高評価を受けることに対し驚きと称賛の声が挙がる一方で、一連の超大型補強について賛否を問う議論がネット上で沸き起こっている。だが今回も別の視点から話をしたい。

初めに私見を述べるが、戦力均衡の為に選手や球団に大型契約への自制や忖度を求め、時に非難する論調は好むところではない。特にNPB内のFA移籍が起きた際にネット上で散見する類だ。感情的には理解出来なくもないが、ルールに則っている以上選手や球団が最善を求める権利は個別に阻害されるべきではない、という点が私の主張だ。

大谷や山本には選手として活躍を期待させるだけの実績とポテンシャルがあり、ドジャースは資金がある。選手も球団も、持ち得る交渉力を最大限に活かす事自体に何の異論も無い。ただ懸念点は後者を例とするロサンジェルスやニューヨーク、やや規模は落ちるがシカゴといった大都市球団の影響力が排他的既得権によるものである事。そしてMLB機構もリーグを代表するポスターボーイの引き上げにご執心で戦力不均衡を問題視していない事だ。

MLBには顔がない。NBAのマイケル・ジョーダンレブロン・ジェームズ、NFLのトム・ブレイディ、ゴルフ界のタイガー・ウッズ、スペインサッカーのトップリーグであるラ・リーガのリオネル・メッシ、F1のルイス・ハミルトンの様な、特段リーグを追わない層も文字通り顔くらいは知っているという選手の存在だ。

その層には「とりあえずこの選手を見ておけば面白い」という分かりやすいアイコンが要る。日本では大谷翔平がそうだったし全米でもそうなりつつある。マイノリティだとさらに国内外に市場の幅が広がる。パドレスのフェルナンド・タティスJr.もその舞台に上がりかけたが、バイク事故とPED使用違反で踊り場から転げ落ちた。

「その層」と記すと蔑視と受け取られるかもしれないが、今後MLBの市場拡大にとって大切な世界に散らばる潜在的な顧客層だ。ムーキー・ベッツ、大谷、フレディ・フリーマン、そして山本を擁することになるロサンジェルス・ドジャースは彼ら彼女らにとって一番応援しやすくさながらLAハリウッド産のアベンジャーズだろう。このようなチームが組まれること自体には全く問題ない。

些か世知辛い言い方になるが、商売において商材とターゲット顧客層を絞った方が楽なことは万国共通だ。日本のTVでは同胞の日本人選手登場シーンを毎打席ハイライトにして朝夜のニュースで映す。試合に勝ったかどうかは二の次だ。この手の切り身商法については自分に限らず多くのファンが20年以上前から疑問を呈していたが、もう覆ることはない。効率的過ぎるし、そう多くのメジャーリーグ情報を流せる枠などTV波には存在しない。

16年前に「もう殆どの人が3時間の試合なんか毎日見てはいない」というblogを書いた。何しろ162試合もあるのだ。プレーオフを加えたら500時間超、20日超だ。

そんな時間を初めから割けるファン候補は稀だろう。追っていれば間違いないチームが有ればファン候補にも宣伝するリーグにも有難い。

ただこの流れに取り残される層がある。所謂スモール市場のチームとそのファンだ。

中小市場のチームが定期的にプレーオフ争いに入り込むには10代有望株のスカウトでジャックポットを引き当てるか、タンパベイ・レイズの様に急進的に頭を働かせるしかない。レイズの功績は賞賛に値するが、似た手法を用いる球団はそう多くない。模倣に優秀なフロント人材を要するという事のほかに、勝たなくても球団の資産価値は上がり、贅沢税や収益分配で困ることはないという点も理由だろう。

贅沢税や収益分配の餌付けが中小市場チームが金を出し渋らせ勝利を目指す動機を奪い、お星様の引き立て役Bに甘んじさせるだけの生命維持装置が与えられる。そして土着性の無い国外ファンやこれからのファン候補にとっては、どのチームより誰が居るチームが大事だ。咎めようがない。

ただやはり気になるのはローカルファンの存在だ。私自身それら中小市場の地に住み身を置いた事があるため少々の実感を得ているが、おらが街のチームが勝ち始めると普段見ない人達がスタンドに足を運ぶのだ。スタンドの熱気も変わる。願うことなら、その勝利からの恩恵が街の市場格差を凌ぐほどであって欲しい。

戦力均衡と自由競争の天秤は永遠の問いであり、意見を持つファン個々により最適と感じるさじ加減も異なる。ただ各チームには勝利に貪欲であって欲しいという願いにおいて違いはない筈だ。それを促すにはプレーオフ以降の分配金や賞金を増やすべきだと考える。

また単に資金の均衡を求めるだけならESPN等の全国中継だけでなく地方中継の収益分配が有効だが、それが金持ち貧乏強豪弱小それぞれの免罪符になる可能性を危惧している。2003年から今年2023年までのチーム開幕時年俸の標準偏差の増分(2.24倍)はリーグチーム平均のそれ(2.14倍)を上回っている。つまり格差は僅かとはいえ広がっており、過去20年における戦力均衡を目的とした数々の施策は機能していないとみて良いだろう。

過去5年において我等がサンディエゴ・パドレスはピーター・サイドラー(今年11月死去)という、良くも悪くも後先を気にしない大盤振る舞いオーナーのお陰で街の市場サイズに合わない身の程知らずと嗤われながらも贅沢税を払い、なりふり構わずマニー・マチャドザンダー・ボガーツといったスターを揃えてきた。かの様な挑戦への成就に報いる舞台をMLBは用意すべきではなかろうか。ただそれは悪戯にプレーオフの出場枠を広げる以前に、まずは純粋な競争力によってなされるべきだろう。

しかしパドレスは近年の投資虚しくプレーオフ進出は2020年と2022年のわずか2度と勝つ機会は乏しかった。編成での失敗もあり、結果が全てのプロスポーツ界においてそれは仕方のない事で文句もつけられない。ただもっとパドレスの様な挑戦的な球団が増え、当然ながら経済的に見合う競争環境を望んでやまない。

自由経済を錦の御旗に掲げる米国だが、面白いものでことスポーツにおいては競争の公平さを重んじる。対して欧州サッカーやF1において戦力均衡調整の動きは微少な理由は、階級社会への高許容度なのかそれ以外のものだろうか。不勉強ゆえ彼の地での詳細はついては割愛したい。

欧州の事情はさておき、米国においては競り合ってないと見ている側もつまんないからトータルで儲かんなくね?といち早く気付きショービジネスに徹した様に映る。欧州サッカーと異なり国外に競争相手の居ない独占的な状況なら尚更だ。

そろそろまとめるが提案は

①大都市参入への排除権撤廃
②中小市場チームへの動機づけとしてプレーオフ以降の割当及び賞金の増額
③ ①②の影響を鑑みた上で収益分配などの調整が行われるべし

正直なところこれだけで戦力均衡が成しえるとは思えない。①は新球場を要するため簡単には起きないだろうし、均衡の効果が出るとしても年月が掛かる。また大都市に多くの球団が集まり過ぎるリスクもある。だがこのままだと戦力格差は広がる一方だろう。

完全に近い、そして手っ取り早く戦力均衡を求めるならNFLの様なサラリーキャップに行き着くのだろうが、強固なMLB選手会が許す筈もなく規制が強過ぎるきらいもある。そのため先ずは競争による均衡が図れれば理想だ、

またプレーオフの勝敗はほぼ運なので優勝球団の入れ替わりは均衡を意味しない。ドジャースがワールドチャンピオンに勝てない理由は戦力や采配よりも不運の割合が圧倒的に大きい。Eno Sarrisによるとレギュラーシーズンに強い球団が80%勝ち上がるシリーズに設定するには75試合を要するという試算がある。ただこの結果が戦力格差の問題を曖昧なものにしていることは事実だろう。地区優勝の座が長いこと安泰だがプレーオフという名のルーレットで当たり目が出なければ戦力均衡はなされていると結論付けるのは少々稚拙な主張に響く。

MLBが独禁法適用除外で参入障壁があるスポーツリーグである以上、戦力格差は球団や選手個別ではなくリーグ制度の問題だ。問題は誰が首に鈴をつけるかだが。

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