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ポンコツが露わになる場所で

土曜、ワイン通のご夫婦のお宅でおいしいワインをしこたまご馳走になり、ワイン談義を繰り広げてきました(私自身はおいしく飲む専門ですが、教えてもらうのは好き)。気持ちよく酔った状態で子どもたちとカルタをしたらまったく脳が回らず、大人のライターチームがボロ負け。「もう一回やろう!」とせがむ子どもたちに「ただでさえ加齢で衰えが始まっている大人の、しかも酔っ払った状態の脳に、カルタがどれだけ負担をかけるか舐めないでほしい」と真剣に説得してニ回目を回避するなど、いろいろ酸っぱい思いをしました。

肩書きに「元進研ゼミ編集者」と入っていたり、今も子ども向けのコンテンツや児童書をつくっていたりするので、「さぞ子ども好きなんでしょう」と言われることが多いのですが、私はどちらかというと、初対面では子どもにびびられるタイプです(それは仕事で致命的なのでは…?という疑問)。
しかし、或る瞬間、しなだれかかる勢いで子どもたちが甘えてくることがある。だいたい、私の真実の姿がばれた時です。
「あれ、この人、普段は険しい表情で仕事ができる風を装っているけど、一滴でも酒が入ったら、ただのダメな人だな?」
「さっき思い切りテーブルの角で、手をぶつけてたよ? 空間把握能力がないのかな?」
無表情で私と距離をとっていた子どもたちが「こいつはただのポンコツだ!」と気づいた瞬間に、一斉に群がってくる。注意深く大人のことを見ているんだなと、いつも感心します。

昨年の夏、長崎県・五島列島でワーケーションプログラムに参加しました。

私が参加したのは夏の回。五島に到着してから最初の3日間は、福江島の「さんさん富江キャンプ村」で、学生の合宿のような共同生活を送ります。

お子さん連れで参加している人も多く、バンガローの間を子どもたちが走り回る、走り回る。
もちろん、五島に来てまで冷房の効いた部屋を離れず、パソコンを開いて原稿を書いている大人(私)には、子どもたちは近寄ろうとしません。

2日目、早起きして何人かで釣りに行きました。
私は魚が好きなので(食べるのが)、釣りを趣味にできたら楽しいだろうと憧れていたのです。しかし、いざやってみたら、子どもたちですらどんどん釣り上げているのに、私はエサだけ食べられて逃げられてしまい、全然釣れない。釣れるのは、食べられない小さな小さな魚だけ。しかも、釣り針にひっかかったその魚がピチピチ跳ねるのが怖くて、触れない。見かねた子どもが、私のかわりに魚をリリースしてくれるようになりました。
ぐううっとすごい力で竿が引っ張られ、大物だ!と思ったら海底に釣り針を突き刺しただけだったことも。五島出身のお兄さんに「地球を釣りましたね!」と言われて「ふへへへへ」と笑った、あの顔を見て、たぶん子どもたちは気づいた。

「こいつはポンコツだ!!」

以降の子どもたちの、私への舐めっぷりは凄まじかったです。砂浜に座り、スマホで仕事の連絡をしていたら、バーンと勢いよく子どもが後ろから抱きついてきたので、そのまま砂浜に顔が埋まり、仕事相手に「あ※jmお」みたいなメールを送りました。

思えば五島では、やたらと子どもたちが懐いてきました。大自然の開放的な空間に、子どもたちの心もオープンになりやすいのだろうなと思っていたのですが、それだけではないかもしれない。たぶん、私の側のほうに変化があったのです。

東京では、なんとか社会をサバイブしている風をいくらでも装える。しかし、五島のような場所は人間の本来の姿を引き出します。

どんなに険しい顔でパソコンと睨めっこしていても、
オンラインで、難しそうなワードを繰り出しながら取材していても、
跳ねる魚に触れない。自転車にも車にも乗れない。電波がないと何もできなくなって、スマホで地図が見られなければ、来た道を帰ることもできない。道を歩いていて、急に目の前に現れた牛にめちゃくちゃびびる。炎天下で「暑い」だ「焼ける」だ文句ばっかり言って、ビールを飲んでいる。


聡明な子どもに「ちえみさんって仕事はできるのかもしれないけど、なんか足りないよね」と言われたのが、五島の旅のハイライトシーンでした。
なんて思い出していたのは、ちょうど去年の今日、五島を訪れていたからかも。

東京を離れ、鎧を脱いで、仕事もしつつ、ただのポンコツとしてビールを飲む時間をそろそろ確保したいなあ。

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