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海底トンネルと出産

妻がポツリと言った。

「海の底にあるトンネルを通るみたいなもんやねん」

???
出産のことだった。
だれがわかるねん。

でも興味深い。

聞いていくと、本当によくできたイメージだったので、物語にしてみた。
その方が伝わりやすいだろう。
絵本にもしようと思っている。

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深い海の底、
海中トンネルがある。

「私」はそこの入り口に立っている。
長い間、そのトンネルの準備ができるのを待っていたのだ。

「私」と共には「何か」がいる。
私たちは一心同体で、運命共同体だ。
この「何か」と共にトンネルを通り抜けるのが私達のミッションなのだ。

トンネルの中には水が満ちていて、上部に少しだけ空気の層がある。
空気層がないところもある。だから潜る時は怖いんだ。
潜っている時に進み、上に行って息継ぎをするのだ。
進むか止まるかは「何か」が決める。
「私」はそれに従うのだ。

「私」の隣には酸素ボンベをつけた「助け手」がいる。
彼には苦しみや痛みはないが、隣で支えてくれるのだ。

そして、トンネルの出口には、私達を導く「声」がいることを、私達は知っている。
その「声」は前もって暗いトンネルの中に灯りを置き、標識を置いてくれている。
潜っている間は、「声」が置いてくれたロープをたどり進むのだ。

「何か」が「私」に伝える。
「さぁ、今から行くぞ」


「私」と「助け手」と「声」の準備ができるまでに少しかかった。
「何か」はそれを待っていてくれた。
そう、進むか止まるかを決めるのは「何か」だが、
「私」が苦しいと「何か」も苦しい。
一心同体で運命共同体なのだ。
だから「私」は「何か」に身をゆだねるべしだ。

トンネルは暗く、「私」は怖かった。
どれだけ、長いのか、わからない。
広さもわからない。本当に通り抜けられるのか。

でも行かねばならない。
「私」のために。「何か」のために。

「私」は「何か」に言う。
「お願いしまーす!!」


ドボン、と水の中に入る。

息を止めて、潜っていく。
暗い、怖い、苦しい。
パニックになろうと思えばいつでもなれる。
しかし、「私」を動かしている「何か」は私の苦しみを知っている。
だから、じっと堪えるのだ。
「何か」が進む。「私」は力を抜いてゆだねる。

力を抜けば抜くほど、進み方が軽くなる気がする。


少し進んでは苦しくなり、上に上がって息継ぎをする。

息継ぎの時は、酸素ボンベをつけている「助け手」にもたれかかる。
水中を進んでいる時は横にいるだけだが、上がってくると彼のおかげで思いきり休むことができる。
「何か」が行くタイミングが来るまでは休む。休まなければならない。

何度も潜っては上がってを繰り返した。

中は暗かったが、おどろおどろしいわけではない。
むしろどこか神秘的で美しい。

「何か」は懸命に進もうとするが、水中には流れがある。
スススっと進める時もあれば、
グッと止まって耐えなければならない時もある。
しかし、後ろに戻ることは決してない。

そしてしばらくするとまた浮上して息継ぎをする。

「何か」は進むに良い時があることを知っている。
決してペースを崩さない。


もう何度、繰り返しただろうか。

あと何回潜れば出口なのかはわからない。
しかし、私達は知っている。必ず出口があることを。

「声」が置いてくれた灯りが所々を照らしている。
また、良いタイミングで標識が、進むべき方向を教えてくれる。
隣にいる「助け手」と共に、どれだけ安心を与えられたかわからない。

「大丈夫、大丈夫」
「こっちへ。今度はこっちへ。」
そんなふうに、本当に良いタイミングで教えてくれた。


ついに出口の光が見えた。

トンネルが出口の近くではぎゅっと狭くなっている。
さぁ、終わりが近い。
強い光が、出口が近く、そして狭いことを教えていた。

スゥっと息を吸い込んで、
さぁ、アタックだ。
ここからは「私」も力をいれなければいけないらしい。

グググと出口に迫ると、
グググと出口が広がった。

上を向いて息をする。
これは手強い。
しかし、もうすぐなのだ。

「声」が呼びかける。
「さぁ、頑張って!」
「まだ、まだ!さぁ、もうすぐよ!」

グググ、
グググ、
グッ


ズルリ、
ニュル、
スポン!

眩しい光が私達を包んだ。
「声」が最後は引き上げてくれた。

あまりに光が眩しくて、
「何か」の泣き声が嬉しくて、
「私」は泣いた。

「何か」を抱きしめた「私」は、
「助け手」と抱き合い、「声」に感謝を伝えた。

振り返ると綺麗なトンネルがあった。
苦しみは消え去り、痛みは吹き飛んだ。

大冒険は終わった。


①海底トンネル
②入り口
③潜る。暗い、でも神秘的
④息継ぎ。標識などがある
⑦ついにゴール、、、!!


お気づきだろうが、
「私」・・・妻
「何か」・・・赤ちゃん
「助け手」・・・夫(僕)
「声」・・・助産師(先生)
であります!

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