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【連続短編小説】男子高校生が女子中学生に激詰めされる話~120分の復讐①~【noteクリエイターフェス】

毎朝2時間かけて通学している。

俺がそう言うと、皆「それは大変だ。もっと近い高校あっただろうに」だの、「一人暮らしは?寮は?」だの、皆決まった問いを投げかける。

もうすっかり慣れっこになってしまった俺の口はすらすらとそれらを綺麗に返してしまう。

「ずっと行きたかった高校なんで。全然嫌じゃないですね」

「家から通うの、そこまで苦痛じゃないし。まあ、だるいなーって思うけど。単語帳とか本とか読めば、特には」

それだけ言えば、皆「あっそう」と途端に興味の色を無くす。そんなもんだ。もっと本当は俺が苦痛を味わっているというエピソードを聞きたかっただろうに。

いいんだ。自分の日常の一コマを、他人を喜ばせるためのエンタメに昇華するサービス精神を、俺は持ち合わせていない。

その日も、俺は始発の電車に乗っていた。
夜のような重たさはないにしても、電車の窓から見える景色は藍色の布がふわりとかけられたように冷ややかだ。

そこから、景色が変わるにつれて白が混じり、太陽が昇り、人が動いていく。その様を見るのが好きだ。自分も、世の中の歯車の一つになったような気持ちになるのは、不思議と安心感がある。

ふう、とため息をつきながら、座席にもたれかかった。その固い質感に馴染む日はきっと来ない。

少し寝るか、と目を閉じる。夜よりもうんと深い闇の心地よさに意識を手放そうとした時だった。

「あの、すみません」

女の声。というよりも、もっと幼い『女子』の声だった。

誰だ。目を開けるよりも前に、反射的にそう思う。

ほぼ毎日、始発に電車に乗らなければいけない人間というのは俺が住んでいる地域にはそうそう多くない。

その中に、女子はいなかったはずだ。好奇心に負けて、目を開ける。とっくに眠気は吹き飛んでいた。

目の前にいたのは、ショートカットのセーラー服を来た中学生。中学生、とすぐ分かったのは俺の妹が同じものを毎日着て登校しているからだ。

「私、あなたの妹にいじめられているんです」

【noteクリエイターフェス期間中、毎日更新予定です!】







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