【連続短編小説】男子高校生が女子中学生に激詰めされる話~120分の復讐③~【noteクリエイターフェス】
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「とりあえず、座ったら?」
俺が促すと、女子中学生は俯きながらもそれに従った。拳3つ分ぐらいの距離を取りながらも、俺の左横に腰掛ける。
目の前に立っていた人間がいなくなったことで、俺は窓の外の景色が少し変わっている様を見ることができた。
夜更け前の藍色が、鈍いグレーの色合いに変わっている。ここから陽が昇るまでがたまらなく好きだ。天気予報だと今日は快晴らしい。きっと最寄駅に着くころには、より鮮やかな色を纏っているだろう。
そんな感傷に浸るような状況ではないことを、改めて恨みそうになる。
「花巻 のあ、です」
唐突な自己紹介に肩が跳ねた。「私の名前、聞いたことありますか?」と花巻は間髪入れずに話続ける。
「有紗ちゃんから、私の話、聞いたことありますか?」
俺が口を開こうとした瞬間、電車が駅に停まるアナウンスが鳴った。一人、二人と俺たちがいる車両に乗り込んでくる。花巻はふい、と俺から顔をそむけた。まるで、今までの不穏な会話の気配を無かったことにしようとしているように。
新たな乗客を収容した電車は、また当たり前のように走り出した。花巻も、それにつられるようにして、俺に再び顔を向ける。
俺は意を決して、口火を切った。
「正直、家で君の話をしているのを聞いたことは無い」
花巻の眉間に皴が寄る。
「というか、うちの妹は——有紗は、家じゃ殆ど話さないから」
知ってます、と花巻は周りを気にしたのか、さっきよりも気持ち声を落としながら言った。俺たち以外の乗客はイヤホンをしたり、目をつぶって寝ているようだったから気にしなくてもよさそうだったが、その配慮はありがたかった。
「有紗ちゃん、いつも言ってました。『うちはサイテーな家族の集まり。唯一まともなのはお兄ちゃんだけ』って。だから私、あなたに話をしに来たの」
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