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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』

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デリヘルで働きながら、自分の夢を叶えようと奮闘しながら、恋愛を交えた一人の少女の日常を描いた作品です。この作品はぼくにとって、初の長編小説で、デリヘルで働くとある女性に実際に取材…
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2021年6月の記事一覧

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 26

 先日、母に宣言した通り、わたしの兼ねてからの夢はパティシエであり、そのための努力も怠ってはいない。あえて言うまでもないが、お菓子作りが嫌いで、パティシエになろうとするものなどいないはずだ。当然のことながら趣味もお菓子作りである。決してデリ嬢としてポイントを稼ごうとか、女子力を上げて客を虜にしようとか、そんなやましい考えはない。大真面目も大真面目。ガチもガチ。本気と書いてマジだ。  少し前の話になるが、かく言うわたしは、〝ケーキで明太子を釣った〟ことがある。正確には釣ったと

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 25

「って、ことは、ななこちゃん、その客のこと〝垢舐め〟って呼んでんの?」  デリ嬢の裏事情を知った彼が、あまり驚きに、思わず声を大きくする。 「うん……」  わたしが俯きながら、遠慮がちに頷くと、 「こ? 怖っ……。おれも裏で、なんて言われてるか分かんね〜な……」  と、まるで女子校に身勝手な幻想を抱いていた男子高校生が、初めて女子校の内情を聞かされたときのようにドン引きする。 「いや、マサキさんのことは、なにも言ってませんよ!」  とりあえず、全力で否定してみる