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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』

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デリヘルで働きながら、自分の夢を叶えようと奮闘しながら、恋愛を交えた一人の少女の日常を描いた作品です。この作品はぼくにとって、初の長編小説で、デリヘルで働くとある女性に実際に取材…
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2021年5月の記事一覧

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 24

 マサキさんのからだからは、いつも柔軟剤のイイ香りがする。もちろん、柔軟剤の種類を言い当てられるほど、自分の嗅覚に自信があるわけではないが、いつも同じ柔軟剤を使っていることくらいは判る。 「なんかマサキさんって、いつもイイ匂いがしますね」  マサキさんの胸元に顔を埋めたまま、ふと思ったことを、そう口にすると、マサキさんは別のことを考えていたようで、「へ?」と、間の抜けた返事が返ってくる。 「いや、マサキさん、いつもイイ匂いがするなって……」  もう一度、そう言い直すと

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 23

 一五〇分の苦行を終え、ショートの客を一本終わらせてから、マサキさんの待つホテルに向かった。約二ヶ月ぶりに会う彼は、やはり寂しげな目をしており、あまり感情を表に出さないわたしを、「久しぶり。会いたかったよ……」と、どことなく色気を含んだ、低めの声で出迎えてくれた。  とり立てて言うことでもないが、わたしは彼の声が好きだ。何と言っても聴き心地が良いところがイイ。エッチのあとなんかに聴いていると、どういうわけか眠気すら襲ってくるから、彼のあとの客はいつもてきとうになってしまう。

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 22

 悪い意味で嬢のあいだで有名になっている『垢舐め』という客は、ここ二年ほど前から、うちの店を頻繁に利用しており、本人が気づいているか、いないかは別として、悉く色んな嬢からNGを食らっている。というのも、その風貌の気持ち悪さもさることながら、その性癖に問題があり、全身を舐め回してくるプレースタイルが、ゲゲゲの鬼太郎の『垢舐め』という妖怪に似ていることから、その異名がついたらしいのだが、その独特のプレースタイルが悪評を呼び、人によっては指名が入る以前から、NGを出す嬢もいるぐらい