物語の欠片番外編-アヘキンに寄せて
私の『物語の欠片』に興味のない人も、ここだけ読んでいってほしい▼
そう。これは、私の尊敬するクリエイターのひとり、めろさん(以下めろたん)の傑作『アヘアへキングダム』(通称アヘキン)を紹介するための記事である。
しかしだ。
それには前述の記事を読んでもらえれば十分だ。私が書くよりよっぽど的を射ていておもしろい。
そもそも私は随分前にアヘキンを読み終えていて、紹介しようしようと思っているうちに先を越された。そして、めろたんが書いてくれた紹介記事を越える記事は、残念ながら私には書けない。この記事を読んでもらえれば彼女の才能が分かると思う。
だから私は考えた。私にできることは何か。答えは単純だ。同じく長編という不遇のジャンルに身を置く者同士、もしかしたら私の『物語の欠片』の読者様ならば『アヘキン』に興味を持ってくださるのではないか…。
そんなわけで、せっかくだからマカニ村でお茶会を開くことにした。
この先は、しばし、物語の世界をお楽しみいただければ幸いである。
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『物語の欠片』番外編 カエデのお茶会
目を開けると見たこともない風景が広がっていた。しかし、どこか懐かしい。自分はここを知っているとメロは思った。
「貴女もとうとう呼ばれましたか。」
不意に声を掛けられ、驚いて振り返ると、そこには知らない女が立っていた。女は驚いて声の出ないメロの様子を可笑しそうに眺めると、山肌一面に備え付けられた的を指差した。
「ここはもしかして。いや、そんなはずは…。これは、夢?」
「夢ではありません。私の名前はツル・ルルルといいます。族長に呼ばれてきました。貴女もきっとそうです。滅多にないことなんですよ。」
「族長って…じゃあここはやっぱり!」
「そう。マカニ村の訓練場。ほら、お迎えが来ました。」
そう言われて忙しく再び振り返ると、訓練場の飛行台に二人のマカニ族が立っている。
一人はマカニ族特有の透き通るような肌に明るい茶色の髪、そして何より目を引く真っ赤な翼。マカニ族戦士のリーダーであるシヴァだ。もう一人の男をメロは知らない。マカニ族にしては日に焼けた肌と暗褐色の髪、深緑色の翼。
「わぁ、スグリさん♪…さあ、行きましょう。」
ツル・ルルルが先程までよりもやや高い声をあげて、メロの手を引いた。
「ふうん。俺のことが推しだというのはお前か。おかげでまた面倒なことに巻き込まれた。」
スグリと呼ばれた男が本当に面倒くさそうに言うのをツル・ルルルはなんだか嬉しそうに眺めている。
「まあそう言うな、影。お前はそういう運命だ。」
「うるさい本体。もう一人の奴は俺たちの関係をまだ知らないんだよ。お前こそ余計なこと言うな。」
「ふふふ。ほら、なんだかんだ言ってスグリさんは貴女に気を遣ってますよ。」
呆気にとられたまま、気がついた時にはメロはシヴァの背中に乗って空を飛んでいた。ずっと下の方にマカニ村と向かいの峰を繋ぐ大きな吊り橋が見え、その更に下に谷川の流れが見えた。秋の少し冷たい風が髪を揺らす。不思議と恐怖は感じなかった。間近にある赤い翼を見ていると心が落ち着いた。
初めて風を感じながら空を飛んだ感慨を感じる間もなく第五飛行台に到着し、すぐ近くの家に招かれた。呼び鈴を鳴らすシヴァの背中を眺めながら、ここが族長の家かと思い、メロはそっと深呼吸した。
迎えてくれたカエデと思しき紫色の翼の男はシヴァとスグリに向かって無言で頷いて見せ、後ろに立っているメロとツル・ルルルに「いらっしゃい」と声をかけた。
その表情も声も、想像通りだった。心から人を安心させるそれらは、突然異世界に紛れ込んだ驚きと不安をも溶かしてしまった。自分はここに居ても良いのだと感じる。不覚にも涙が出そうになった。
「お連れしました。」
シヴァの言葉に頷いた族長が真っ直ぐにメロたちの方を向いた。メロは一瞬、その漆黒の瞳に吸い込まれそうになる。何もかも見透かすようなその夜の湖のような瞳。此方からは決して向こう側が見えない。慌てて目を逸らす。
「よくおいで下さった。ツル・ルルル殿、そしてそなたは、メロ殿だな。」
「は、はい。どうしてオイラの名前を。」
「ツグミから聞いておる。」
「つぐみん?!」
「ほう。そなたにかかればツグミもつぐみんか。」
「あ、いえ。…それはオイラの知っているつぐみんでしょうか。」
「他におらぬと思うがな。ツグミはマカニ村に住む鳥描きなのだが、同時にこの村の出来事を歴史書ではなく物語という方法で伝える仕事をしておる。」
「はあ…。」
「唯一そなたらの世界と自由に行き来ができる不思議な力をもっておってな。そなたらの世界の有益な情報を私に伝えてくれるのだ。」
「知らなかった…。」
「マカニ村の重大な秘密だからな。…さて、それで、そなたの書いた『アヘアへキングダム』という物語が面白いのだと聞いて、読んだのだ。」
「族長が?!」
族長はメロの動揺を穏やかな表情で見つめながら頷く。
「あのような物語はこれまで読んだことがない。いや…あれはもはや物語ではない。そなたは、ひとつの新たな世界を作ったのだ。そこには実際に生きた人物がおる。音も、映像もそこに在る。我々は正にその同じ世界に遊び、登場人物たちの一番近くで彼らの物語を感じることができるのだ。強いて言えば演劇に近いが…それをも超えておろう。そなたはただの物書きではない。脚本作家兼演出家と言ってもよい。」
「ぞ…族長 is 族長…(´めωめ`)。」
メロ言葉を聞いてシヴァが驚いた顔をし、隣でスグリが必死で笑いを堪えているのが目の端に入った。
「メ、メロしゃん最高…。」
ツル・ルルルは声を出して笑っている。そんな時でも族長は穏やかな笑みのまま、そうか、とひとこと言った。
「そろそろ本題に入ろう。」
本題。そうだ、自分は何故ここに呼ばれたのだろう。メロは少し緊張した面持ちで族長の顔を見たが、やはり目を真っ直ぐ見ることはできない。
「そなたらに来てもらったのは他でもない。普段ツグミの物語を読んでくれている人々に、招待状を届けてほしいのだ。」
「招待状?」
メロとツル・ルルルの声が揃う。
「カエデのお茶会の招待状だ。」
「カエデさんの?やったー。オイラ一度飲んでみたかったんだ。」
「それは良かった。引き受けてくれるか。」
「もちろん。」
「書簡と宛先はカエデが把握している。帰りに受け取っていくが良い。」
そうか、もう帰らねばならないのだ。メロは急に寂しくなる。
「あのう…。」
「なんだ?」
「カリンとレンは?」
「あいにく今日はアグィーラに行っておる。」
「そっか…。」
「また来ればよい。」
「いいんですか?」
「マカニはずっとここに在る。そなたの好きな時に遊びに来るがよい。」
「やりましたねメロしゃん。」
「ルルちゃん。」
すっかり仲良くなった二人を見て、族長も満足げな笑みを浮かべた。
ふと気がつくと、メロは自分の部屋に居た。ああ、やっぱり夢か、そう思った時、枕元に置かれた何通かの書簡が目に入った。マカニの紋であるクマタカの封印が施してある。
その中に、美しい字で「メロ殿」と書かれた一通を見つけ、そっと封を解いた。
親愛なるメロ殿
いつもツグミの物語を通してマカニのことを思うてくれて、心から感謝している。
感謝の意を表して、カエデのお茶会に招待したい。
ツグミの物語の読者はそう多くはない。皆で集まって思う存分物語の話をしてほしい。
きっと『アヘアへキングダム』を気に入る人もおるだろう。
これからもツグミをよろしく頼む。
マカニ族族長 エンジュ
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※モデルこそいますが、あくまでもフィクションです。
↑これは毎回『アヘキン』についてくるキャプション。
そう、アヘキンは魅力的な実在の人物をモデルにした超エンターテイメントなのだ。
と、いうわけで、招待状を受け取った方も、まだ読み途中の方も、怖いもの見たさの興味を持っていただいた方も、コメント欄で推しを語ったり私や物語の登場人物たちに質問したり(もれなく”本人”が応えるつもり)自由に交流してほしい。きっと、気の合う方が見つかるはずだ。
すでにアヘキンを読んでいる方はアヘキンの魅力を語っていただけたら私がとても喜ぶ。(←ひとまかせ?)
招待状が無くても参加可能だけれど、どうなんだろう???
招待状という名のご紹介
何も私の物語の読者だからって褒めているわけではない。本当に皆様素晴らしいクリエイターさんばかりなのだ。(『鳥の歌篇』を読み終えて下さった方の中から、私とコメント欄で交流したことがある方を対象にしている)
つる・るるるさん(友情出演有難うございました)
めろたんが天才的お笑いセンスの持ち主なのに対して、るるるさんは類稀なるユーモアセンスの持ち主だ。それは決して「私の文章、ウィットに富んでいるでしょう?」と主張するものでなく自然体で、絶対に私のできないやり方で世界を面白く切り取ってくれる。彼女は勇敢にも私の物語のファンを公言してくださった第一号である。(最新作に追いついたのも一番)
今度、ついに本を出されるんですって▼
nolyさん
私は鳥愛に関しては多少自信があるのだが、ガチョウ愛に関してはnolyさんには絶対に敵わない。nolyさんの切り取る世界はほのぼのしていてまるで童話の世界に居るようだ。そしてその手から生み出される美味しそうな焼き菓子の数々。是非リアルにお茶会をする際にはnolyさんの焼き菓子を添えたい。
読む猫さん
読む猫さんの「好きなもの」に対する熱量はすごい。私は誰かの好きなものの話を聞くのが大好きなので、目下、読む猫さんの目を通して、「びじゅチューン!」に熱い視線を送っている。
読む猫さんは物凄い速さで『物語の欠片』を駆け抜けて下さり、今のところ最短記録保持者である。
dekoさん
dekoさんは物凄く格調高い文章を書かれる方で、読んでいるといつも背筋が伸びる。古いけれどよく手入れのされている喫茶店の席で香り高い珈琲と共に読みたくなる。
そんな、文章も素敵なdekoさんなのだが、どうしてもこの記事を貼りたかった。見てほしい。私の絵が刺繍になったのだ。dekoさんとは物語もコラボさせていただいていて、本当に出会いに感謝。
くなんくなんさん
くなんくなんさんは読書家だ。書評も秀逸だけれど、シンガポールに駐在していためろたんにちなんでシンガポールエッセイを貼っておく。
あと、最近書き始められたショートショートも大好き。色々な本を読んでいらっしゃるだけあって設定がとても面白いのだ。
穂音さん
穂音さんの紡ぐ物語は完全に異世界というわけではなく、いつも此方の世界と彼方の世界の狭間に居るような感覚に陥る。だからこそ、自分もうっかり迷い込んでしまうのではないかという妙なリアル感があるのだ。
私は穂音さんの文体が大好き。エッセイでも小説でも穂音さんにかかると全てが物語になってしまう。
貼り付けたい記事が多すぎて迷ったのだけれど、私が最初に穂音さんの世界に入った物語を貼っておく。嬉しいことにシーズン2の芽が出始めているとか。
でも、最近の400字創作コスティーナシリーズも最高。
とき子さん
思わず追記(2021/11/25)。
とき子さんの言葉選びのセンスがとても好きだ。普段は身の回りの話題をこれでもかという爆笑ワードで彩り、笑いの世界に誘ってくださるのだが、
時々挟まれるシリアスな話題には最大限の配慮がされていて、普段ならそっと閉じてしまいそうな読者を選ぶ話題でも思わず読んでしまう。
そして、この短編を読んで驚いた。物語も書けるの?!
つる•るるるさんの時と同様の驚きだ。
もうね、これは傑作。ぜひ読んで欲しい。
今回の主役、めろたんの『アヘアへキングダム』の1st Seasonはこちらから▼
イラストも素敵でしょう?なんと言ってもプロのイラストレーターさんが描いているのだ。そのイラストレーターさんも『アヘキン』の登場人物のひとり(主人公)。他にも実在の、様々な才能を持つ人々をモデルにした魅力的な登場人物が沢山。読むなら絶対に1st Seasonからをおすすめする。動画も全部見てほしい。
エンジュの推しなのだから間違いない。
一人でも多くの人に『アヘアへキングダム』が届きますように。
扉絵は私がめろたんに捧げた絵。
(診断メイカーで、「あなたに似合う日本の色」というのがあり、めろたんは鳶色だったのだ)
『天高し鳶舞ふ青の遥かなる』-鳶 Black Kite
鳥たちのために使わせていただきます。