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【冬ピリカグランプリ】朧月夜

 その木は人里離れた山奥の、そのまた奥にありました。
 それはそれは大きな木で、そこにはいつも沢山の鳥たちが集まっています。その木に居る間は大きな鳥も小鳥を襲ってはいけないことになっているので、皆、安心して羽根を休めることができます。
 耳を澄ますと、どうやらその木で、今日は何やら面接が行われいる様子。少し覗いてみましょう。

 「私のこの飾り羽根の美しさは人間たちも知っている。私ほど美しさで有名な鳥は居ない。」
 孔雀が美しい羽を広げ、集まった鳥の間を練り歩きます。
 「そんな見た目だけの美しさでは駄目だ。私のように強く美しくなければ。」
 そう言って鋭い鉤爪と大きな翼を見せているのは白頭鷲でした。
 鳥たちは、この安住の地を人間たちが破壊しようとしていることを知り、それに抗議する方法をずっと考えてきました。そして最終的に、鳥の美しさを人間たちに知らしめ、この木のある山を保存してもらおうと考えたのです。今日はその代表を決めるための大切な面接の日。朝から多くの鳥たちが自分の美しさをアピールしていました。

 時は夕刻。代表は孔雀か白頭鷲かで決まりそうになった時、一羽の灰茶色の鳥がのそのそと入ってきました。皆はその姿を見て驚きます。
 「おい、ヨタカ。お前まさか俺たちと勝負しようというわけではないだろうな。」
 皆が口々に似たようなことを言うのをものともせず、ヨタカは真っ直ぐに長老である梟の元へ歩いて行き、こう言いました。
 「長老様、どうか私に人間たちの所へ行かせてください。そのために、是非この瞳を長老様に見ていただきたいのです。」
 そう言うと、ヨタカはちょうど日の暮れた夜空へ飛び立ちました。その大きな瞳は、ぽっかり浮かんだ満月を映し、灯りがともったように不思議な光を放ちます。皆、その妖しい美しさに釘付けになりました。
 皆の反応に満足したように戻ってきたヨタカはこう付け加えました。
 「長老様、人間たちは、孔雀や白頭鷲の美しさを知ればこの山を保存してくれるかもしれませんが、きっと大勢で押しかけてくることでしょう。私の魅力は夜です。私は、夜は山の入口に帰って休みましょう。そうすれば、人間たちがここまでやってくることはありません。」
 この賢いヨタカの提案には孔雀も白頭鷲も文句は言えず、長老も唸りました。
 「ヨタカの言うとおりじゃ。よし、ここはヨタカに任せよう。」

 それからしばらくして、この山の麓にはヨタカの言ったとおり、沢山人間がやってくるようになりました。皆、ヨタカの瞳の灯りを目当てにやってくるのです。人間たちはそのヨタカの瞳の灯りを「幸福の朧月夜」と呼び、見ると幸せになると信じていました。ヨタカは人間たちに気まぐれに瞳を見せ、のんびりと暮らしました。
 もちろん、あの大きな木は無事です。相変わらず鳥たちは安心して集い、ヨタカもたまに昼間に遊びに行っては、皆と仲良く話をしているそうですよ。

(1200文字)

【朧月夜】-ヨタカ

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この作品は冬のピリカグランプリ参加作品である▼

少し時間が経ってしまったけれど、この秋、いつもお世話になっているshinoさんとこんな約束をした。

この記事でshinoさんが詠まれている句、

色鳥の面接会場トトロの木

これに物語をつけるお約束をしたのだ。
せっかくだから、shinoさんが運営に携わっているピリカグランプリに参加しつつこの約束を果たすことにした。
年内に果たせてよかった。
機会をくださったピリカさん、shinoさん、有難うございました。

鳥たちのために使わせていただきます。