マガジンのカバー画像

物語の欠片-韓紅の夕暮れ篇-

24
カリンとレンの十四篇目の物語。太陽光発電の仕組みが実用化の一歩手前となり、フエゴで検証が始まったが…… 技術と人の心というお話。
運営しているクリエイター

#私の作品紹介

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 22

-レン-  フエゴでの仕事を終え、無事にアグィーラから戻って来たカリンの報告を、族長とシヴァと三人で聞いた。  アグィーラからガイアを駆って戻って来たばかりのカリンは、暖かい部屋の中で頬を上気させている。暖炉の火が話の途中で時折ぱちぱちと小さく爆ぜた。  カリンの話してくれたアキレアと子供たちのやり取りを聞いてレンは驚き、族長は目を細めた。 「アキレア殿らしい」  というのが族長の感想だ。確かにアキレアらしいとレンも思う。これまではそのアキレアらしさが裏目に出てしまうことの

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 14 度重なる故障の謎 解 1

-レン- 「プリムラ様が整理してくださったとおり、もし度重なる故障が人為的に引き起こされたものなのだとしたら、一番の問題は誰が何のためにそれをやったか、ということです」  カリンは落ち着いた態度で話し始めた。 「最も影響を受けていそうなのは玻璃師でしたが、わたくしは最初に四箇所の故障の場所と原因を聞いた際、これを仕組んだ人間は、太陽光発電の仕組みをよく理解している人ではないかと感じました。あまりにも上手く、効率よく、太陽光発電の弱点を突いているからです」  口を挟む者がいな

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 4

-レン- 「ノギクさん?」  カリンが、中庭でクコの隣に立つ女に向かって驚きの声を上げた。緑色の官吏服を着ているので、カリンより位は低いことが分かる。  ノギクと呼ばれた女とクコは連れ立って近づいて来た。  新年式の式典が終わり、夜の晩餐会までは特に予定が無いので、レンとカリンはいったん他の化身たちと別れ、クコに挨拶に行こうと思っていたところだった。 「クコがカリンと会う予定だって聞いて、待っていたのよ」  カリンが、クコの妻のノギクだと紹介してくれる。ノギクはレンのことを

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 1

-カリン-  雪景色のマカニの村が夕陽の色に染まってゆく。  普段ならば、まだ診療所を閉めるには少し早い、そんな時間だった。  大吊り橋が落ちる程の雪が降った昨年に比べると少しだけ過ごしやすい冬だった。それでも十分にマカニの雪は深い。  カリンは少し早めに診療所を閉めて、吊り橋へ向かう階段を下っている。アグィーラから来る使節を迎えるためだ。アグィーラを朝に出発しているはずだが、この雪山を、それなりの人数で上がって来るには時間がかかる。到着は夕方になると事前に聞いていた。