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私と『RENT』の2020年新しい日常

2020年、日本でのミュージカル『RENT』公演は、春のブロードウェイキャスト来日公演と、秋の日本版公演がある大変充実した年になる予定でした。
もちろん私も例に漏れず「どちらも見たい!」と息巻いていたのですが、春の来日公演は当然延期(最初は2020年冬に延期予定でしたが、追って2021年夏に再延期)されました。

『RENT』についてはこれが一番わかりやすいです。


2020年、コロナ禍のなかで舞台公演の中止や延期、規模の縮小を余儀なくされる公演が多い中、私はだいぶ内向きになってしまっていて、見たい公演もなんだか現地に行って見る気もおきないし、行けるかどうかわからないのにチケットを取るのもおっくうになってしまっていました。


あっという間に一般発売日を迎えてしまい、慌ててチケットサイトを見に行くと、土日でもわずかに席が残っている公演がありました。これはもう行くしかないと思い、急いでチケットを取った私は、実におよそ9ヶ月ぶりに劇場に観劇に行くことになったのでした。


シアタークリエをエレベーターで地下に降りて、売店でパンフレットを買い、最後列の自分の席についてパンフレットを広げたとき、目頭が熱くなりました。
私がこれまで行った日本での公演は2015年、2017年、そして今年の3年ですが、そのいずれのパンフレットにコメントを載せていらっしゃる武次光世さんが、今回このようなことを書かれていました。

夏以降、数ヶ月ぶりに神妙な面持ちで久々の観劇を再開したときは、我ながらナイーヴだなと思いつつも開幕を告げるアナウンスを聞くだけで思わず喉元が熱くなり、マスクの下で必死に嗚咽をこらえたものだ。(中略)もしかしたらこの『RENT』がコロナ禍で初めて劇場を再訪した舞台で、今まさに涙をこらえている方もいるだろうか。
(『RENT』2020年日本キャスト公演パンフレットより)


これを読んで堰を切ったように涙が出てきてしまい、私は観劇前にも関わらず鼻をかむ始末でした。中止にならず、劇場に行けば上演されていることがいかに尊いことか、もちろんそれは取り戻すべき日常ではあるのですが、そういった意味では日常の尊さ、になるのかもしれないものを一層強く実感した瞬間でした。


ここから始める

12月24日、クリスマスイブから始める。帰ってきたんだなあ、と思えてもっと泣けてきてしまって、しかもこの日は平間マーク。二度のエンジェルを見ていた彼が今回はマークとして中心にいると思うとさらに泣けてきてしまって、「RENT」の曲がかかる頃にはもう涙が止まらなくなってしまっていました。
それだけ『RENT』は私にとって深いところまで入り込んでいる大切な作品です。


私が『RENT』を初めて見に行ったのは2015年の東宝版でした。
舞台『弱虫ペダル』や『戦国鍋TV』シリーズに出演していた村井良大さんが主演をするということで、友人に誘われたのが最初でした。
もうそれから5年になります。


大学のとき、専攻とは別で副専攻で演劇の勉強をしていたとき、選択課題のひとつになっていた『RENT』を、見たことがある、というだけで選んだ結果、映画版と『ラ・ボエーム』を見て、楽譜集とリリックブックを買い、その後書く卒論よりも真剣にレポートを書いたことがありました。
ここから私の『RENT』への思いは深くなったような気がします。


今回マークを演じた平間さんは、以前エンジェルをやっていたということもあり、優しさを強く感じる包み込むようなマークだったなあという印象があります。


一方のエンジェルは今回初めて『RENT』に加わった上口さん(他の作品では何度も見たことがありました。)ですが、2幕のエンジェルの見せ場である「Contact」の白い衣装で激しくダンスする様子が、どうしても三浦春馬さんの「Night Diver」に見えてしまって、三浦さんがKinky Bootsでドラァグクイーンの役をやっていたことも相まって、より一層「死」を強く感じました。


そして、モーリーン役の鈴木瑛美子さん。
この方の歌を初めて聴いたのは映画『恋は雨上がりのように』の主題歌「フロントメモリー」でした。この曲はもともと神聖かまってちゃんの曲なのですが、亀田誠治さんのアレンジと鈴木さんの伸びやかな歌声が原曲と全く異なる世界観を演出していて、爽やかな物語を彩る夏らしい一曲になっていました。


そういった演出をできる方なので、かなり期待して見に行っていたのですが、期待以上のモーリーンでした。
お茶目で、たくさんふざけるけどいやらしくなくて、男も女もみんな虜にしてしまうチャーミングさ。笑いの取り方も自然体で、これまでのモーリーンで一番好きだったかもしれません…。


『RENT』は古典になるのか・再考

武次光世さんのコメントでも、単純な比較は難しいと言われていましたが、正体のわからないウイルスと戦う不安さ、先行きの不透明さ、と言う点で、『RENT』は現在の状況と似ているところが多々あります。


私は『RENT』が初演されたときの状況はおろか、日本で初めて上演されたときの主演が山本耕史さんだったことも、今をときめく中村倫也さんが2012年にロジャーをやっていたころとも後から知りました。
様々な記事でも書かれているように、私がレポートを書いたときにも「『RENT』の古典化」について触れました。初演から20年以上経過する以上、避けられないことだと思います。


しかし、こうして長く愛される「古典」は、いまに通底するものが確かにあるからこそ、たくさんの人に見られ、愛され、上演され続けているのだと思います。(あとはとにかく曲の良さ。正直覚えるくらい見たし聴きましたが何回見ても聴いても飽きないですし、キャストが変わるたび発見があります。)


また来年の夏、来日公演が見られることを祈って。

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