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柿と雪

Vosges山脈はすでに積雪が始まり

秋は少し早足になっているのを感じる

柿はフランス語でもKaki

秋になると

スーパーにも小さな果物やさんにも

富有柿を少し縦長にしたような柿が並び

なぜか誇らしい気分の私は

今日もいい感じに熟したKaki を

この手で確かめては

柿の季節が終わるまで

毎日ひとつずつカゴに入れて帰る

Kaki が日本語だと知っているフランス人は

どのくらいいるのかな

柿を手に取ると

いつも思い出す雪景色がある

それほど遠くない昔

美味しい柿がある町へ出かけた

「つぐみさんもやってみて」

と、優しい横顔の彼女が

小さなスプレーのボトルを私に手渡す

小さな倉庫の片隅に積まれた

ダンボール箱の中には

新聞紙に包まれた大きな柿が

お行儀よく並んでいて

彼女は

「こうして毎日吹きかけるの。少しするとびっくりする程甘くなるのよ。

知ってる?」

と振り返って微笑む。

「知りません、、何を吹きかけるの?」

「ふふふ、何でしょう?舐めてみて」

掌に吹きかけて舐めると

何か強いアルコールだった

「お酒?」

「そう、焼酎よ。不思議よね」

と柿を見つめて彼女は微笑む

私は彼女の真似をして

ひとつづつ柿を手に取り

丁寧に全面に焼酎を吹きかけ

そして新聞紙のベッドに戻した

それから、もうどこに田んぼがあるのか

分からないくらい一面真っ白になった雪道を

散歩しながら彼女が言う

「柿は全部とらないの。真冬に食べ物がなくなるから、鳥の為に必ず少し残すのよ」

と雪の帽子をかぶった、会津みしらず柿

を指差して彼女が言う

柿と雪が出会う季節に

必ず思い出す景色

そして時々

きっともう会えないのに

「つぐみさん、元気?今どうしてる?」

と聞こえたような気がして

少し何かを諦めたような優しい笑顔が

私の胸を締め付ける







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