見出し画像

【TSUGIHO】 第5号-時代-

割引あり


時代というのはとても興味深い概念である。それは人や場所によってその捉え方が異なるからだ。青春時代は人によって違うし、日本における元号や他国における為政者による時代区分はその国でしか通用しない。

あいまいで掴みがたい時代という言葉は、その抽象さからくる使い勝手の良さで、世の中に頻繁に登場してくる。

時代をリードするという言葉があるが、なんとも難解でナンジャラホイである。時代といっているからには、ある一瞬ではなく、ある程度の幅を持った時間であろうことは理解できるが、いったいいつからいつまでの事を指しているのだろうか。

時代おくれの男になりたいと唄った河島英五は、いつからいつまでの期間よりどのくらいおくれたかったのか。

時代劇といえば、刀、丁髷、着物が思い浮かぶが、戦国時代や江戸時代じゃなくったって、どの時代だって時代劇じゃないのと思ってしまう。

一方で、ハッキリしている時代も存在する。例えば阪神タイガースの暗黒時代。これは1987年から2001年の15シーズンを指し、亀新フィーバーで2位になった1992年以外は全てBクラス、しかも6位が10回。まさに暗黒。
(阪神タイガースは2023年に18年ぶりのリーグ優勝を果たしたが、前回優勝の2005年以降はAクラス12回、6位はたったの1回だけ。暗黒時代を身をもって体験している小生にとって今回の優勝は久しぶりとか待ちに待ったという感覚は皆無である。)

ちなみに、小生がプロ野球を見始めた1980年代の大阪では、在阪球団あるいはその時に強かったチームの帽子を被って学校に通う小学生が多かった。体感として6割は阪神、2割が巨人、残りを近鉄、南海、阪急、広島、西武、中日が分け合っていたようなイメージだ。

この頃の野球を語る上で特に1985年は欠かすことのできない大事な1年である。

阪神はペナントレースが開幕してから伝説のバックスクリーン3連発を皮切りに快進撃したものの、7月には2位に転落、8/12に起きた日航機墜落事故で当時の球団社長が命を落とし、翌日から6連敗と最悪の状況。しかし、吉田義男監督がこの年繰り返し口にしていた「チーム一丸」となって巻き返し、悲願のリーグ優勝を達成、そして史上最強の西武ライオンズを倒して日本一となった。真弓、バース、掛布、岡田など、若手から中堅どころが中心選手で黄金時代の到来を予感させたが翌年は3位に沈む。

この年、セパ両リーグで3冠王が誕生したことも書き添えておくべきだろう。阪神のバースとロッテの落合である。この2人は翌年も3冠王を達成し、まさに手をつけられないくらいよく打った時代であった。

かたや高校野球に目を向けると、春の選抜ベスト4に甘んじたKKコンビを擁するPL学園が、夏の選手権では快進撃、全国的にKKがフィーバーとなった。見事に甲子園を制したその後、これまた伝説となったあのドラフト会議での明暗。KKが主役の時代でもあった。

このように、1985年の阪神エリアは野球の一年であったと言っても差し支えないであろう。インターネットの無い時代、当時の新聞やテレビなどの報道がいかに盛り上がっていたか、想像していただきたい。

そして、この時代の報道といえば、1984年から1985年にかけて、これまた大阪を中心に繰り広げられたグリコ森永事件。犯人からの脅迫文が連日のように新聞誌面を賑わし、キツネ目の男が防犯カメラに映っていたとか、もう少しのところで逃げられたとか、表現するとして正しいかどうかはわからないが、「次は何をしでかすんや」とハラハラドキドキさせられたことを鮮明に覚えている。スーパーに陳列されるお菓子類にフィルムパッケージが施されるようになったのもこの事件からと記憶している。

マスコミを賑わしたといえばあの事件もその頃だったかもと思い出し、調べてみると同じ1985年。豊田商事会長刺殺事件である。犯人が窓を割って部屋に侵入する様子や殺人を犯した直後の返り血を浴びた犯人が夕方の生放送でテレビに映った。たまたま、というかテレビっ子だったのでずっとテレビを見ていた小生は一部始終を目にした。これまた舞台は大阪。

バブル景気が訪れる前年の大阪は何もかもが激しく混沌とした時代だった。

後書きに続く。

特集:シャーク鮫くん(@lno_glK
エッセイ:ノカヤク(@kansoukyabetsu
フォトエッセイ:セキヤ(@sekiyanabemotsu
小説:chicagocoffeee(@abovethesea2
前書き・後書き:OC-3(@oshiteoku


《時代について、一つの仮説に到るまでの1,300字》

時代のことをいつも考えていると思う。
自分の中には、関心のある物事や事件、その時流行していたもの、などを年号に沿って記録した「自分なり年表」、がある。
音楽や映画、漫画など発表年次を中心に、62年のビートルズ登場から現在まで。
これは、自分が新しく昔のものにアクセスする時に非常に役に立つ。例えば、80年代のハリウッド映画におけるキラキラとした景気の良さ、というのは60年代〜70年代にあった若者たちの「理由なき反抗」、と政治の季節から、商業主義的なものの浸透といった時代の変化を読み取ることができる。

ここから先は

14,047字 / 12画像

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?