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【シャニマス】「トーンクラスター」から見るシーズ感謝祭

こんにちは。つげです。
先日、遅ればせながらシーズ感謝祭シナリオを読了しました。

さて、今回は感謝祭シナリオの感想・考察……ではなく、シナリオ中に現れた「トーンクラスター」という聴き慣れない用語に焦点を当てただけの記事です。

(注)
・当記事はシーズプロデュースイベント『ファン感謝祭編』のネタバレを含みます。

・筆者は音楽理論や芸術史の専門教育を受けたわけではなく、間違った内容を含んでいる可能性があります。コメントでやんわりとご指摘いただけると幸いです。


概要

シーズ感謝祭にて登場しつつもあまり説明されることのなかった「トーンクラスター」の用語について、少し深掘りして説明した後に、その意味を踏まえながらシナリオを簡単に振り返ります。

背景:コンテンポラリーとトーンクラスター

コンテンポラリー

まずは感謝祭シナリオで多大なる存在感を放っていたこの用語について簡単に振り返ります。
初出は感謝祭ライブのステージ演出についての美琴の提案でした。

「感謝」より

コンテンポラリーは平たく訳せば「現代的な」「前衛的な」という意味です。シーズが今回取り組むことになるコンテンポラリーダンスはアイドルのステージとしては非常にハイレベルで珍しいものと予想できますよね。
後にシャニPもこっそり勉強していたことが判明し、そのタイトルから内容をなんとなく察した方もいるかと思います。筆者もその程度の理解度です。

「#####」より シャニPの頑張りを急に暴露する天井努

コンテンポラリーはかつての美琴とルカ・現時点の美琴とにちかの関係性に多大な影響を与えていて、言わずもがなシナリオ中でも重要な役割を果たしていますが、当記事では深く触れずに進めます。

トーンクラスター

当記事の本題であるこの用語は、コンテンポラリーダンスを披露する方針を(暫定的に?)決定した美琴がステージの構想を固める場面で登場します。
クラシックをピアノでシンプルに演奏する案を検討した後、美琴はボーカル講師からこのような提案を受けます。懸念点も含めて即座に応答していることから、美琴もトーンクラスターの知識を持っていたようです。

「空の奥の音」より

最終的に美琴の提案(声のループを利用したトーンクラスター)が採用され、シーズのふたりはダンスの他に演奏にも取り組んでいくことになります。
しかし、シナリオ中ではコンテンポラリーよりも説明がなされなかったこの用語について、「コンテンポラリーに合わせるんだし、現代音楽っぽいやつかなあ」程度の理解の方も多かったのではないでしょうか?
シナリオを楽しむ上では十分だと思いますが、当記事ではもう少し詳しく説明してみようと思います。

トーンクラスターって?

Wikipediaからの引用で恐縮ですが、次のように定義づけられています。

トーン・クラスター(英: tone cluster)は、ある音名から別の音名までの全ての音を同時に発する房状和音のことを指す。

トーン・クラスター - Wikipedia

もう少し詳しく説明します。
通常の和音では、構成する音階が隣り合うことは少ないです(例えばCメジャー=ドミソには、間のレやファは含まれない)。
しかし、現代音楽や前衛音楽が発展していく最中、構成音の間の音階も全て鳴らしてしまう実験的な技法が開発されます。Wikipedia画像の最初の和音を例にとれば、レ〜(2オクターブ上の)レまでの全ての音を同時に鳴らすことになります。

トーン・クラスター - Wikipediaより、実際の記譜法の一例

大きな特徴として、トーンクラスターはコード感や調性が極端に欠けた響きとなります。ピアノやギターでよくあるような美しい「ジャーン」の響きではなく、「ゴシャ」と言い表したくなるような、まさしく音の塊のような聴感です。
ですので、トーンクラスターの響きはポピュラーミュージックで聞こえるような響きとはまるで違う実験的なもので、つまりはシーズが挑戦するコンテンポラリー・ダンスとの相性がバツグンだろうと直感的に理解できると思います。

余談ですが、ここでいう「全ての音」に関してもバリエーションがあるそうです。直感的には、下にいくほど無調性が極まる、つまりは実験性が高まると言えます。
・全音(一部除くピアノの白鍵上の音の距離。例えばド-レ-ミ-…。)
・半音(ピアノの黒鍵も含めた音の距離。例えばド-ド♯-レ-…。)
・微分音(半音よりも近い音の距離。)

トーンクラスターを用いた楽曲として、ヘンリー・カウエルの「真乃マノノーンの潮流」(0:06~)を紹介します。地を這う暗闇の中の大波のような低音部がまさしくトーンクラスターの奏法です。

シーズのステージとシャニPの隠れた功績

美琴が考案するステージ

シナリオに戻り、トーンクラスターがどのように検討されていったかを振り返りましょう。

「空の奥の音」より

言うまでもないですが、ボーカル講師が「コーラス隊が必要」と言ったのも、トーンクラスターの性質が理由です。少なくともシーズふたりで披露できるものではないですね。

美琴の「その場で声をループさせて重ねていくこと」についても補足すると、ステージ上ではルーパーと呼ばれる機械(エフェクター)を用いることでリアルタイムでリアルタイムで声や楽器類のフレーズを録音・再生することができます。

ルーパー (BOSS RC-505

若干極端な例ですが、ボーカルループの参考動画を貼っておきます。ビートボクサーであるBEATNESSがクワイヤ(声)とビートボックスをループさせて即興でトラックを作り上げています。

ちなみに、シャニPの発言「普通の編成のバンドじゃ難しそうなことに取り組んでいて……」はどちらかというとトーンクラスターが理由のように思いました。
というのも、ギターやベースのような弦楽器は弦の本数分しか発音することができませんし、通常のチューニングでは全音(半音)ずつ離れた複数の音階を同時に鳴らすことはほぼ不可能に近いです。そもそも前衛音楽を普通の編成のバンドに演奏させるのも容易ではないでしょう。

「空の奥の音」より

筆者の所感

さて、ボーカル講師と美琴の会話を受けて、率直にはシナリオのディティールの深さに感激しました。コンテンポラリーだけでも相当な具体性なのに劇伴音楽にもこれほどの言及がなされたのにはビックリしました。シーズのステージのハイレベルさの補強につながっています。

そのうえで、筆者はこの時点で次の2つのちょっとした指摘を考えました。

1.ボーカルループとダンスの両立
即興(=リアルタイム)で重ねていく想定のようなので、当然ですが録音のためにステージ上で時間を割く必要があります。
ダンスしながらボーカルループを作っていくようなステージングは見たことがないので想像し難いのですが、どのような流れ・テンポになるんでしょうか……?普通のアイドルの曲なら歌って踊るなんて茶飯事ですが、今回は前衛的なパフォーマンスに挑戦しているのでステージ演出への要求度は非常に高いはずです。
(細かい点ですが、ルーパーを含めたボーカルエフェクトの操作はマイク信号を受け取っている音響スタッフが行うこともあるので、身体動作に関してはダンスに専念することも可能だと思います。)

2.ボーカルループの難易度
トーンクラスターを正確に仕上げるには、全音或いは半音ずつ離れた音程をいくつも発声していくことになります。しかもダンスしながら。
この作業、相当な音感や練習が必要になることは間違い無いでしょう。

大変現実的な視点からの指摘になっていますが、シナリオの粒度から大きくは乖離していないと思うのでご容赦ください。
この2点を踏まえながら次の場面を見ていきました。

シャニPの隠れた功績

「#####」より

シーズのステージングですが、最終的にはシャニPの提案により、美琴がダンスに、にちかがボーカルループに専念することになります
シナリオの大筋としてはシャニPの調整でシーズの二人の希うステージングが実現した場面なのですが(ものすごく省略した説明です。いい場面なので是非原文を読んでください。)、先述の指摘を照らし合わせるとそれ以上のものが見えてくるような気がしました。

1.ボーカルループとダンスの両立
美琴とにちかの役割分担により、ステージでの流れがスマートになります。美琴は寡黙なダンサーに徹することができるし、にちかも自由なタイミングで伴奏を入れることができます。
つまり、シャニPの提案はステージを実現するための妥協案ではなく、むしろ美琴の考案していたであろう「ダンスもボーカルループも」よりも演出面が結果的に向上したのでは?と推測しています。

2.ボーカルループの難易度
ダンスから解放されたのはさておき、トーンクラスターの難易度自体は変わりません。
この点については、むしろこの難易度をにちかに直面させることで、感謝祭ステージの成功体験を通じてにちかの成長を促そうとしていたのでは?と勘ぐりました。ギリギリの状態でコンテンポラリーに挑むより、地に足つけた感覚でボーカルにしっかりと挑んだほうが、にちかは自分で達成したものをきちんと理解できると思います。また、美琴と完全に異なるパフォーマンスをさせることで、美琴との直接比較を避けさせて、もしかすると自尊心の向上につながるかもしれません。(感謝祭EDを読む限り、残念ながらそのようにならなかったようですが……)
シャニPの独白からはこの観点は語られなかったので深読みの可能性はありますが、シャニPはトーンクラスターの難易度はしっかりと把握していたことが予想されるのもあって、筆者はこのように解釈しました。
劇中でも難易度についてはボーカル講師がにちかへしっかりと説明していましたね。実際のトーンクラスターをイメージするとこの言葉の重みが増します。

「0 0 0」より

まとめると、シャニPの提案は妥協案などではなく、次の効果も含んだ改善案と解釈しています。
・ステージの演出面を向上させる(→美琴への貢献)
・にちかへの成功体験を確約させる(→にちかへの貢献)

これはまさしく俯瞰した立場からの軌道修正であり、つまりはプロデューサー(原義)の役回りとしてこれ以上ないものではないでしょうか。
ただし、シャニPはあまり自覚的でないように見えますし、最後の天井社長面談で社長が意味していたのは自覚のなさへのツッコミだと筆者は読んでいます。

まとめ

  • 「トーンクラスター」を少し深掘りして説明し、その観点からシーズのステージングを改めて読解しました。

  • 美琴考案のステージメイクへの指摘を提示した上で、シャニPの提案によってその指摘がどのように解消されたかを確認して、シャニPのプロデューサーとしての功績を見出しました。

余談

トーンクラスターのSE

「#####」「0 0 0」ではコーラスのSEが挿入されていましたが、響き的にトーンクラスターっぽかった気もします。筆者には残念ながら音感がなく、断定が出来ません。あくまでも予想ということで……

メタファーとしてのトーンクラスター

シナリオでもかなりの部分で取り上げられていたり、また上述のSEは3回も登場したことから、トーンクラスターは何かしらのメタファーとして機能しているのでは、と予想しています。筆者はまとまった解釈が全くできていないので、どなたかの解釈を聞きたいです。

ひとつだけ気づいたのですが、この用語はトーンのクラスター(集合)と表現されていますが、トーンの重なり(レイヤー)と捉えることもできますよね?なにより美琴やシャニPは「音を重ねる」と表現しています。今年のCDシリーズは『L@YERED WING』です。
非常にわかりやすいですね。これは絶対狙っていたと思います。

ドビュッシーとか、ラヴェル

余談というか敗北宣言なのですが……
ボーカル講師がトーンクラスターを提案する直前の会話にて、美琴が演目曲を考える場面がこちらです。

「空の奥の音」より

……コンテンポラリー・ダンス、トーンクラスター、ドビュッシー、ラヴェルの歴史的な結びつきはさっぱりわかりません。こればかりは芸術史の知識が必要です。
コンテンポラリーを踊る曲としてまずはクラシックを検討した、だけの特に重要な会話ではないかもしれません。ですが、これはシャニマスのシナリオです。警戒するに越したことはないでしょう。誰か気づいたことがあったら教えてください。

ペンデレツキの『ルカ受難曲』

トーンクラスターを世界に広めた巨匠のひとりにクシシュトフ・ペンデレツキがいますが、彼の代表作のひとつに『ルカ受難曲』があります。
シャニマス、やってる???

斑鳩ルカ(かわいい)

ここからは深読みの段階になる上に聖書の知識はあまりないので、これ以上の言及は避けますが、シャニマスのファンとしてはどうしても引っかかっちゃいます。発見した時はものすごくビビりました。

ちなみに、当然ながら『ルカ受難曲』もトーンクラスターで有名な楽曲です。(しかも合唱=声の重なりによるトーンクラスターが用いられています。)



以上です。ご感想・ご指摘はお気軽にコメントいただけると嬉しいです。

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