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2023/02/11 衝動的旅行とヤバジジイのいた町

バイトが終わってスマホを見たら友達から着信があったことに気付いた。掛け直すと彼女は「今からカラオケに行かないか」と言う。断る理由が無いので、二つ返事を返して5分でまかないを食べチャリを走らせた。


フットワークが軽い自覚がある。
友達に何か誘われたらすぐに返事をしてしまう。楽しそう! と思ったらすぐに行こうとする。「ここ行きたいね」と話しながらJRの予約サイトとBooking.comを見ている。



「フットワークが軽い」にまつわる思い出話でもするか。

大学2年のこと。学祭で休講になった日、急に「種子島に行きたいな」と思ったことがある。午前中の用事を終わらせ、Booking.comのサイトを眺めつつ良い感じの民宿を見つけ、この民宿の部屋が空いてたら行く、空いてなかったら行かないという二択で民宿に電話をかけた。
部屋は空いていた。弾丸種子島旅行の決定だ。

1時間後には高速船に乗っていた。季節は11月で、私は種子島のことを何も知らなかった。ただ宇宙センターがあるということは知っていたので、宇宙センターに行きたかった。ロケットの発射台を見たかった。

種子島に到着。そこで初めて、宇宙センターに行くには港から車で1時間かかること、公共交通機関が何も無いことを知る。

あ〜〜〜〜〜〜ん…………

宇宙センター! ロケット! 以外のことを何も考えていなかった私は突然暇になった。とりあえず民宿に行って荷物を置いて、散歩することにした。ガジュマルが生えているデカい公園があるとのことで、それを目指して歩くことにした。

初めてガジュマルを見た。公園はそれ以外に特に面白いこともなく、至って普通の公園だった。ただめちゃくちゃ広くて、高台に大きなアスレチック遊具があった。地元の子供達が遊んでいて、ヨソから来た成人女性の私は遠巻きに眺めることしかできなかった。

仕方ないので大きく迂回してホテルに帰ることにした。好きなアイドルのアルバムを聴きながらゆっくり歩いて、それでもまだ暇なので今度は反対方向に歩くことにした。

猫がたくさんいたので、嬉しかった。
漁港の近くを歩いていると、地域のおじさんたちの集団が船の前でタバコを吸っていて、うっかりその中の一番怖そうな人と目があってしまったので急いで退散した。

せっかくなので夕飯は地元の名店みたいなところで食べよう! と思い、食べログ評価の一番高い店に行くと貸切で入れなかった。向こうで酔っ払ったおじさん特有のでっかい笑い声が響いていた。

仕方ないのでホテルに近い創作居酒屋に行くことにした。観光なんです、でも宇宙センターに行けなくて……と話すと、店員さんは「あら……」と言って本当に不憫そうな顔をされた。

料理はどれも美味しくて、お酒も美味しかった。他で使うところもないしなーと値段を見ずにポンポン注文していたら、一名客なのに会計が6000円を超えた。アホみたいな頼み方をしてしまった。

お酒がまだまだ飲みたかったので、「近くにバーはないですか」と店員さんに聞くと〇〇って店なら美味しいお酒出してくれるよ〜と教えてくれた。あるんだ! と嬉しくなったけれど、店員さんの言った店名がGoogleマップ上に出てこない。うろ覚えの道案内を頼りになんとかバーっぽいところに辿り着き、いざ入ったらちょっとオシャレなスナックだった。

スナックのママは私の珍道中を爆笑しながら聞いてくれた。素敵な女性だった。種子島の観光パンフレットをくれて、それを一緒に見ながら「ホント何も無い……」と嘆いていた。
途中から地元客が増えてきたのでチェックをお願いしたら、陽気なおじさんが「ギター弾ける居酒屋あるからさぁ!一緒に行こうよ!ギター弾けるじゃおれは!」とめちゃくちゃギター居酒屋に誘ってきた。私はギター弾けないんで……と断っても食い下がる。途中から様子がおかしくなってきて、なあ!なあ!嬢ちゃん!行こうって!!一緒に飲もうって!!なあ!!なあ!!と凄い剣幕で半分怒鳴るようにして誘ってくる。恐ろしすぎる。
見かねたママがおじさんの相手をしてくれて、その隙に逃げるように店を出た。怖すぎた。店と民宿の距離が近かったから良かったものの、あのヤバジジイが追いかけてくるんじゃないかと思った。

温泉施設があったので温泉に入り、10時には寝た。翌朝は6時に目が覚めた。

スナックのママが教えてくれた民族資料館に行くことにした。行く先々でハイビスカスが咲いていて、周りの木々や草もどこか南国の雰囲気を感じさせる。

私は高校の生物基礎で学んだ亜熱帯植生のことを考えていた。

亜熱帯植生……あ、これも……これも亜熱帯植生……アコウ、ヘゴ、ガジュマル、すごい……私が住んでいる地では見られない植生だ……。

あまりにも種子島に何も無いので、私はひたすら周りの雑草を見まくっていた。それはそれで楽しかった。だって植生について考えること、普段あまりないから……。

そう思うと高校の勉強も無駄なんかではなく、ちゃんとやってて良かったな、となる。
旅行先で期待したような成果が得られなかったとき、最終的には植生に目を向けるしかなくなるのだ。ライフハック。多分弾丸で北海道に行って期待するような成果が得られなかった時も、きっと植生に目を向けるんだろうな……。

種子島のお殿様のお話を民族資料館で聞いて、ちょっとだけ種子島の歴史に詳しくなって、小さい安納芋とお茶をいただいた。

安納芋を食べて、「あ、今すごく種子島……」と思ったところで、帰ろう、と思った。
すぐに港に行って、高速船のチケットを取った。往復3万円だった。


それが去年のこと。
突発的すぎて色々と予想外のことが起きたけれど、結果的には楽しかった。暖かかったし、ご飯もおいしかった。

いまだに「暇だな」のノリで旅行に行ってしまう。1人で何かをするのが好きだし、無計画で何か始めるのも好きだ。
良い趣味なのかどうかわからないけど、いつも結果的に楽しんでるので良しとしている。


楽しかったな、種子島。
今度はレンタカー借りて宇宙センターに行きたいし、ちゃんとしたバーに行きたいです。あの店がバーなわけないので。

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