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2023/02/05の日記 変わることのさみしさと嬉しさ

 母校の吹奏楽部の定期演奏会に行ってきた。
 めちゃくちゃ良かった。

 吹奏楽を始めて、来年で10年目になる。

 今は勉強や就職活動のためにお休みしているけれど、それでも楽器や吹奏楽の存在は私の中でかなり近いところにある。いつだってすぐそばにいる。
 最近、自分のアイデンティティやこれまでを振り返る機会が多いためそのせいもあるかもしれない。何か自分のアピールポイントを経験に結びつけて話せと言われたら、やっぱり吹奏楽をしてきた上で得た経験に頼り切りになってしまう。何せ10年続けてきたのだ。

 さて、定期演奏会。
 高校時代、私を一番可愛がってくれた先輩が「一緒に観よう」と言ってくれたので一緒に観ることにした。あまり愛嬌がなく甘えることがヘタクソな自分にとって、可愛がってくれる先輩の存在はかなりレアだ。
 先輩はホールで私を見るなり「わー! いたいた!」と、まるで昨日も会っていたかのように、久しぶりの再会を懐かしむことなく私の隣に座ってきて、なんだかそれが嬉しかった。
 先輩が高校を卒業してから4年が経つが、いつ会っても「よそよそしい」という言葉なんて知らないような顔で話しかけてくれる。それは私が数える先輩の好きなところのひとつで、それを再確認できて嬉しかった。

 今年は顧問の先生が母校に赴任して10周年ということで、客演指揮者を呼んだり少し豪華な演出がされていたりと、「気合が入ってます!」という意思がホールに一歩入るなりビシバシ伝わってきた。嬉しい。私は顧問のことが大好きなので、大好きな人が多くの人に大切にされているという実感を得ると嬉しくなる。ちらほら先輩や後輩にも会って、懐かしい顔にペコペコ頭を下げながらホワイエを通り過ぎた。 


 一曲目は私も高校時代に演奏したことがあった曲だった。この曲をやるなら一曲だけでもステージに乗れば良かったかな、とぼんやり開演前に思っていたけど、前奏を聞いた途端、己の短絡的な思考が恥ずかしくなった。

 自分が知らない音色を、よく知る制服に身を纏ったプレイヤーたちが奏でている。音色、それに付随する性格(自分でも上手く言語化できないが、それぞれのバンドにはそれぞれの性格があると思っている)、何もかも違うものがパン! と目の前に飛んできて、わっ、となった。

 ワンテンポ遅れて、ああこれは進化だ、と思った。音の印象に対するインパクトに驚いて、その感情を整理するまでのレスポンスに時間がかかってしまった。私がこの部を離れて3年、この部は進化を続けていて、私はそのギャップにびっくりしてしまったのだ。

 思えば久しぶりに吹奏楽を聴いた。しばらく近くで触れてきたがそれはあくまでもプレイヤーとしてであって、客としてホールで演奏を聴くのはおよそ2年ぶりだ。ホール環境の整った場で聴く吹奏楽ってこんなに良かったっけ。あまりにも久々な体験だったもので、自分の中のイメージが刷新されていたのも良かった。

 一定の技術力が無ければ良い音楽は作れない、というのは大前提として、私たちの師の教えには「技術≠良い音楽」というベースがある。上手いからといってそれが良い音楽であるとは限りませんよ、という。
 私が現役の頃の音楽は、正直「完璧」ではなかった。初心者だろうが何だろうが皆ステージに乗るスタンスの先生の教えは的確だったけれど、ところどころにできる凹は避けられず、それらを完璧に埋めてしまえることはできなかった。
 けれども、良い音楽を作っていた。それは確かだったし、私は私たちが作る音楽が好きだった。


 久しぶりに再会したその音楽は姿かたちがほとんど「完璧」に近づいているように感じられて、けれどもその皮のすぐ裏には私が愛していた音楽の姿がたしかにあった。と思う。後輩可愛さにベタ褒めしてしまったけれど、思わず「ウマ……」と呟きそうになったほど上手で、それが少しさみしくて、けれど誇らしかった。

 時が経っているんだ、進んでいるんだ……と、当たり前のことを実感した。アンコールで高校生たちが思い思いに音楽を楽しんでいて、顧問も指揮なんかしないでカウベルをガンガン叩いていて。
 そのパッションは私たちにはなかったものだ。けれど今の、これからの母校の音楽には必要なものなのだろう。

 帰りに、出演していた同期が『「第一幕の終了」って感じだね』と言っていた。私も似たようなことを思ったから、やはり同じ感覚を共有しているのだと思ったら嬉しくなった。


 同期を突発的にお茶に誘ったら二つ返事で了承してくれた。先輩はまたいつでも会おうな! と言ってくれた。
 けれど同期の1人はもう就職して社会人になっていて、先輩も春から地元ではない地で社会人になる。


 変わらない嬉しさがあって、でも確かに変わっているものもある。それはどっちも嬉しいことだし、でも同時に寂しさもある。
 その嬉しさと寂しさを、「音楽」という一つを中心に様々な場面で感じられた日だった。

 気分が良くなったので帰りの電車でビールを飲んでしまったら、この良い気持ちのまま眠ってしまいたくなった。明日は期末最後のテストだ。
 今日バッグに教科書とペンを入れていたのに、結局一度も開くことなく帰宅した。まあ、それはそれで。

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