ジョウカツ⑧
【8】家族の元へ。
「あの、この2日間って、僕はどんな状態だったんですか?」
「真治さんは、あの場から動かず、そのまま座っていました。でも、声をかけても反応が無かったので…。」
「そうですか…。」
「流石に私もどうしていいか分からず、上司に連絡を取ったら、その場に留まっているなら、まだ可能性があると言われて。」
「どういう事ですか?」
「もし、意識が帰って来なければ、あてもなくただ歩き出して、次第に霊体が形を保てず、離散するだろうとの事でした。」
「なるほど…。」
「ちなみに、期間内に心残りが本当になくなれば、あなたの体は光に包まれ、天界へ送還されます。その後は、現世でも伝わっている通り、審判が下される流れです。」
「分かりました。本当に時間との勝負ですね。」
「早速、心残りを消していきましょう。まずはご家族の元へ。」
「…。」
「真治さん。もう覚悟を決めてくださいね。」
「はい。」
「では向かいます。案内してください。」
僕たちは、家に向かった。道中で、この2日間で起きたことを聞いた。
まずは、母さんに連絡が行き、僕の亡骸を見てしまったこと。日和にはさすがに見せなかったようだ。
そして、葬儀は内々で済ませ、火葬だけになったこと。僕を轢いたトラックの運転手は、まだ意識が戻ってないらしいということ。
「もうすぐ着きます。」
「分かりました。…あれ?前にいる女性って…。」
「…母さん…。」
前を歩いてる母の姿は、ひどく小さく、丸まっている。そうだよな。息子が死んで2日かそこら。色々大変だよな。ごめん。本当にごめん。
「このまま、お母様のあとに続きましょうか。その方が、状況の把握がしやすいと思います。」
「…そう、ですね。」
すると、母は玄関前で立ち止まり、顔を横に何度か振り、鍵を開けた。
≪ガゴッ、ガチャ。≫
「ただいま~日和~いるの~?」
「おかえり…。」
そこには、僕が帰るはずの家族がいた。
母さんは、なるべく今まで通りに接したいらしい。
妹は、まだ顔が暗いままだ。良くも悪くも正直者だな。
「今日も遅くなってごめんね。はいこれ。今日は、お弁当屋さんのおじさんから、残り物もらったから、しゃけ弁かのりべん、好きなの選んで。」
「…うん。んじゃ、しゃけ弁。」
「分かった。今からチンするから、待ってて。ごめんね。」
「なんでいちいち謝るのよ・・・」
「ん?なんか言った?」
「なんでもなーいっ」
「そっか。なんかあったら言ってね。ごめん。」
「…。母さん、日和、ごめんな。」
「真治さん、今は真治さんの言葉は…。」
「分かってます。でも…言いたくなってしまうんです。」
「はーい。できましたっ。ごめんね。お待たせしました。」
「…いただき…」
「あっ、ちょっと待って。ちゃんとお兄ちゃんと一緒に、ね?」
「…うん…」
そう言うと、母さんは自分の弁当を少し取り分け、僕の仏壇にお供えしてくれた。
「はいお待たせ。いただきます。」
「いただきます…ん?なんか寒気が…」
「え?風邪?熱は?」
「いや、そういうのとは違うんだけど…」
「…なんか恥ずかしくなってきた。」
「いいじゃないですか。ご家族に愛されていたんですね。」
「ん~そうだったんですかね?…死んだ日の朝は、妹と喧嘩しましたけど。」
「妹さんもお年頃ですからね…。」
「…ごめんね。いつもお弁当で…。飽きたでしょ。」
「…お母さん謝りすぎ。別に私は、食べられるだけで満足してる。」
「あ、ごめんね。」
「ほらまた謝った。そんな口癖、嫌だよ。早く治して。」
「うん…ごめn」
「ごめ?」
「気を付けます…」
「うむ。それでよし。」
「…いい家族ですね。」
「まぁ…でも、僕も母さんの謝り癖は嫌だったな…」
「なんでですか?」
「こっちは怒ってもないし、謝ってほしいわけでもないのに、謝られるとこっちが悪者になった感じがして。無理やり言わせてる感じがして。」
「なんか分かります。お母さんも申し訳ない気持ちを伝えたくて、でもお二人は、お母さんの苦労もわかってるから余計…それにしたって、真治さんも人のこと言えないですよ?」
「え?」
「あなたの死因は交通事故。しかも被害者側なのに、心残りが家族に謝ることって…。」
「うっ…確かに。」
「なんだかんだで、似た者親子なんですね。」
『ごちそうさまでした。』
「じゃ、私が洗い物やるよ。」
「え?いいよっ。母さんやるから!」
「いいのっ!私がやりたいの!お母さんは疲れてるんだから座ってて!」
「…ごめ」
「ごめ…?」
「…ありがとう。」
「そう。それでいいの。私は謝ってほしくないもん。」
「‥日和、なんだか頼もしくなったね。」
「そりゃそうよ。お兄ちゃん死んじゃって、二人で暮らしてかないといけなんだから。いつまでも頼りないままじゃダメでしょ。」
「日和…ぐすんっ」
「何泣いてるのよ。もう泣かないってお葬式の日に決めたじゃん。…先に泣くのはずるいよ…。ずびっ」
「…ごめん。ごめんな二人とも…僕が死んだばっかりに…」
「真治さん、あまり自分を責めないでください。もう一度言いますが、事故なんですから、謝っても過去は変わりません。自分をしっかり保って。」
「・・・でも・・・くっ・・・・」
「そろそろ離れましょう。あまり生者の近くに居続けるのも良くない。」
「…分かりました。」
一旦、僕らは家を後にした。
浅間さん曰く、激しい感情は自己を破壊しかねないので、自分の感情をコントロールするように、念を押された。
コントロールって言ったって、この感情をどうすれば。
気持ちを伝えたいのに、伝わらない。胸の当たりを掻きむしりたい程のもどかしさ。
一体、どうやってジョウカツを進めればいいんだ。
ーつづくー
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?