ジョウカツ⑤
【5】つかの間の休息。
死霊保護観察官の浅間さんから、四十九日の説明を受け終わる頃には、僕の死体とそこら中に飛び散った血液達は文字通り、水に流されて、ただのシミになっていった。
生前、僕がこういう現場をあまり見なかったのは、こういう日本人の勤勉な手際の良さで、隠されていたんだと実感した。
「近くの寺社仏閣は、どちらですかね?」
「僕の自宅の近くに…。っていうか母さん達になんて言えば?!」
「いやいや、伝える手段はほぼ無いですよ?死人に口なし。」
「それはそうですけど、気持ちの問題…ですよ。はぁ、はぁ。」
「だいぶ消費されてますね。早く向かいましょう。」
僕は、おぼつかない足取りで、近くのお寺に避難することにした。もう足は無いけど。
名前は大正寺。門をすり抜けると、嘘みたいに体が楽になった。
「わぁ、本当に楽になった。」
「言った通りでしょ?しばらく、こちらの寺院で休ませてもらいましょう。」
「そうですね。」
時刻は恐らく14時頃。
門の向こう側で、ランドセルがチラチラ見える。
すると、4人の小学生達が入ってきた。
彼らはランドセルをほっぽり出して、境内を冒険するようだ。
「あらあら〜いけない子達ですね〜」
「しょうがないですよ。ここら辺は小学生が遊ぶには、公園は狭すぎるし、他の施設は金がかかる。その分、お寺とかの方が、かくれんぼとか鬼ごっこには最適ですよ。」
「やたら詳しいですね。」
「実は、僕もここで遊んでましたから。当然叱られましたけど。」
「あなたも、いけない子だったんですね。」
「そういえば、ここはお化けが出る、とかでも噂になってて。死んでみて理由が分かりました。」
「恐らく、他の死霊もここら辺で休んでいたんでしょうね。」
「ちなみに、どれくらいで霊力って回復するんですか?」
「多くは、生前の体力の回復度合いに近いと言います。強いていえば、持久走を走って、どれくらいで動けるようになるか、みたいな感覚ですね。」
「なるほど。」
「タイムリミットはありますが、無理して動きすぎてもリスクが大きいので、ご自分のペースで動いて下さい。」
「分かりました。付き合わせてすみません。」
「いえいえ、いざとなったら、私には奥の手がありますから。」
「え!ズルいですよ!」
「観察官ですもの〜。チートの1つや2つ。」
「まぁ、そうですよね…。」
すると、小学生達は、かくれんぼをし始めた。
鬼の男の子は、両手で目を隠して、数を数えてる。
他の子らは、思い思いの場所を目指して走っていった。1人の男の子は、境内の隅の茂みに、ズカズカと潜り込んでいった。あれは怒られるぞ〜。
ほかの2人は、男女の組み合わせに見える。仲良く手を繋いで隠れるようだ。なんだろう。止まってる鼓動が動きそう。
そう思っていたら、こちらの方に隠れる気だ。割と近くに座り込んだぞ。微かに声も聞こえる。
「じゅんくん。ここでほんとうに みつからない?」
「だいじょうぶ、オレがまもるから。」
「…うん。わかった。」
はうっ。なにもうー。かわいいじゃんか!
「オレですって、オレ。」
「使い慣れてないオレって、イントネーションがもう可愛いですよね。」
「かっこいいとこ見せたいんでしょうね〜」
「癒されますね。なんだか、回復が早まった気がします。」
「あ、でもあまり近づかないで下さいね?」
「分かってますよ〜。絵面的にヤバいですからね。」
「いや、それもヤバいですが、子供達はまだ霊力のコントロールが出来ないので、こちらが意図せず、霊力を吸い取ってしまう事があるんです。」
「マジですか!早く言ってくださいよ!」
「すみません…。いや〜当たり前を伝えるのは難しいですね。」
「でも、よく言いますもんね。子供は幽霊を見やすいって。」
「ええ。子供たち自身が垂れ流している霊力に、我々が共鳴してしまったり、逆に奪い取ろうとする輩もいますからね。」
「奪い取る?!そんな奴らが?!」
「多くは、自我を保てなくなり、彷徨っている連中が、霊力に惹かれてしまうようです。もちろん、それを取り締まる機関もありますし、自我を保てない程に衰弱してますから、事件という事件は起きませんが。」
「はぁ。気を付けます。」
「お願いしますね。そろそろ彼らから離れましょう。」
「そうですね。」
僕らは、なるべく小学生から離れるため、本殿の中で休むことにした。
「ねぇ、じゅんくん。なんか、さむくない?」
「え?ぜんぜんさむくないよ?あーちゃん、だいじょうぶ?」
「う、うん。きのせいかな。」
「あ!じゅんやとあやかみっけ!」
「あ~みつかっちゃった~。」
ーつづくー
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