ジョウカツ⑥
【6】あの日。
時刻は15時12分。
本殿の受付の時計が、正確な時刻を教えてくれた。
僕は何となく、小学生だった時の記憶を辿るように歩いていた。
「真治さんは、この本殿にも来たことがあるんですか?」
「はい。友達と遊んで、住職に叱られたのはこの本殿なんです。初めて正座をして、一時間くらいお説教でした。」
「あははは。それはそれは。」
「でも、そのあとは住職さんも、もう走り回らない約束ができるならって言って、お茶菓子を出してくれて。」
「わー良い人ですね~。そして躾なれてる。」
「すっかり躾されました。懐かしいなぁ〜。そういえば、あの子は元気かな。」
「一緒に怒られた子ですか?」
「はい。あの日は、珍しく女の子と遊んだんですよ。」
「へぇ~。ちなみにその子と付き合ったりは?」
「お互い小学生ですよ?そりゃもちろん。即結婚して、即離婚しました。」
「あぁ~あるあるですね。離婚した理由は?」
「1週間記念日を祝わなかったことです。」
「1週間?!それはまた、タイトなスケジュールで…。」
「女の子は難しいなと、初めて思った経験ですね。ははは。」
『コルゥゥラぁぁー!』
「あ。もしかして?」
「ですね。」
「あの子たち、今度はもっと怖い鬼に見つかっちゃいましたね。」
「でも、赤い鬼を泣かせた青い鬼くらい優しいですよ。」
「…さて、この後はどうしたいですか?」
「どうって?」
「ジョウカツは、ご本人の意思に基づいて行動していただくのが通例ですので、真治さんがしたいことをなさってください。どこか思い出の場所を巡るとか、ご自宅に向かうとか。」
「いえ…。正直、帰りたくないんです。」
「どうしてですか?先ほどは、母さんになんて言えば!なんて取り乱しそうになってたくせに。」
「…そうなんですけど。いざ、母さんたちの顔を見るとなると、どうしていいのか分からないし、どうしようもできないし。」
「…そうですか。なら、これからどうしますか?」
「もう少しここで休んでいきます。」
「分かりました。気が済んだら、声をかけて下さい。」
「はい。」
これからどうしよう。死んでしまったことは、もうどうしようもない。心残りか。
正直、家族以外に見当がつかない。
友達とも距離を置いていたし、趣味もない。なるべく物欲を無くすように過ごしてきたせいかな。いざ、やりたいことをやっていいと言われても困るものだな。
小さい頃は、次にしたいことが、湧き出てきたはずなのに。せめて、母さん達にごめんって言いたいけど…。今はただ、眠い。
僕は、いつの間にか意識を手放していた。
「…さん!…じさん!真治さん!!」
「え?はっ!すみません寝ていました。」
「うわ~良かった…。」
「え?そんなに寝てました?あ、確かに暗いですね。すみません。」
「いやぁ本当によかったぁ…」
「え?どうしたんですか?」
「真治さん、落ち着いて聞いて下さい。あなたは約2日間、意識が戻ってこなかったんです。」
「・・・・え?」
ーつづくー
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