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ジョウカツ④

【4】残り49日。


「私、仏務省おくり課の浅間純子です。本日付で49日間、佐藤真治さんの死後観察をさせていただきます。」

「ふつむしょう?死後観察?」

「この度はご愁傷様でした。」

「はぁ、どうも。どうももおかしいな?てか、どういうことなのか説明してもらえますか?」

「真治さんも、四十九日という言葉を、耳にしたことがあるかと思います。」

「まぁ父親がもう死んでるんで、そりゃ聞いたことくらい。」

「現世では、死者の供養として設けられた期間ですが、あの世では死霊ご本人の、心残りを無くす期間となっています。要は、成仏する活動、心を浄化する活動、いわゆる『ジョウカツ』の期間です。」

「心残り…、ジョウカツ…。あの、言わせてもらいますけど。」

「おっと、そろそろかな。」

「たった49日間で心残りが消せると思いますぅ??
僕、まだ17ですよぉ?!
これから夏休みが始まるはずだったんですよぉ?!
遊びだって!バイトだって!恋愛だって!まだまだやりたいことがたくさん…た、たた、くくさ、さん…」

「真治さん!意識を絶対に途切れさせないでください!いいですか!とにかく意識を!自己を保って!」

「い、しき…?」

「保てなければ、あなたは ただのエネルギー体になり、自我を持たず永劫を彷徨い続けます!頑張って!」

ダメだ。意識が溶けていく。なんなんだ、何が起きてるんだ。もう訳が分からない。なぜこうなってるんだ。なんで…。いや…僕は…。

「う、ヴ、うぐ…ふんっ!!!……ぶは!!!はぁっ!はぁはぁ…。」

「真治さん!これで峠は越えました!おめでとうございます!」

「あの、、、これは、、、」

「それは魂の暴走状態、『ダイイング・ハイ』と呼ばれるものです。」

「ダイイング・ハイ?」

「人は死亡した直後から、この症状に陥ります。
真治さん、あなたはご自身の遺体を見た際、やけに笑いがこみ上げて来ませんでしたか?」

「えっ…あっ確かに!ずっとなんだか可笑しくて笑っていたような…」

「次に、やけに色々な物に興味を持ちませんでした?」

「…持ったかもしれないです。トラックの運転手の挙動とか、後続車の視線、事故現場の処理の仕方とか。」

「そして最後に、この世の全てに腹が立ちましたよね?」

「はい…なんだか、目の前にあるもの全てに対して、怒りがこみ上げて来ました。」

「まず、現実逃避として、『笑い』。次に現世への名残惜しさから『興味』、そして、興味が湧いたはずの現世に、もう戻れないことへの『怒り』。これがダイイング・ハイの流れとなります。この現象は、霊力をコントロールするための通過儀礼みたいなものです。」

「なるほど。コントロールが出来ないと、意識を保てず、彷徨ってしまうんですね。」

「まぁ、真治さんの怒り方は理詰めだったので、意識が保ちやすかったとは思います。」

「え?怒り方で変わってくるんですか?!」

「意識を保てなかった方々は、基本的に暴力的になって、破壊衝動にかられて、そのまま『人』として帰ってこれなかった場合がほとんどです。」

「なんでそんな大事な事を、先に言ってくれなかったんですか!」

「私たちの脳は『理性』という形で魂の欲求などを制御しています。ですが、死んでしまうと、脳の制御機能は失われ、暴走が始まる。なので、いくら事前に情報があったとしても、暴走は止められないんです。私たち観察官ができるのは声をかけることくらいです。」

「そ、そうですか…。すみません。」

「いえ、慣れてますので。では、そろそろ近くの寺社仏閣に行きましょう。」

「なんでですか?」

「ダイイング・ハイは霊力をすごく消費しますので、寺社仏閣で霊力補充です。このままだと真治さんが、ただのエネルギー体に…!」

「今こそ早く言って下さいよ!!」


こうして、僕はジョウカツなるものを、この浅間さんと共にしていくことになった。

ーつづくー

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