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ジョウカツ⑭
【14】驚き…!
僕たちは、ようやく献花してくれた人物の家を探し出した。
玄関からお邪魔すると靴は一足だけあり、横には可愛らしい水槽があり、中ではグッピー達が優雅に泳いでいた。
「はへぇぇ」
「オシャレなおうちですね〜」
「一階には誰もいないみたいですね。二階に上がってみましょう。」
二階に上がると個室が三つあり、それぞれの住人の名前が飾ってあった。
「とりあえず、しらみ潰しに部屋を覗きましょうか。」
「なんかすごい背徳感…」
「真治さん、それもまた人生ですよ。」
「何を仰ってるんです?」
僕たちは階段から一番近い部屋を覗いた。
その部屋は電気が消えていて、誰もいなかった。
その隣の部屋も覗いたが、様子は同じで、誰もいなかった。
「いよいよ最後の部屋ですね。真治さん準備は良いですか?」
「…はい。」
僕らは扉をすり抜けた。
その部屋には、同い年くらいの髪の長い女の子がいた。
女の子はヘッドホンをして机に向かって作業をしていて、顔までは見えなかった。
部屋を見渡すと壁に制服が掛けられていたが、うちの高校の生徒ではない事が分かった。
浅間さんが女の子にバインダーを向ける。
ピーピーピーピピピ……
「真治さん、この女の子で当たりです。見覚えはありますか?」
「いえ…そもそも制服がうちのものではないので…」
「そうですか…。何かヒントになるものでも探し…」
浅間さんがそう言い終わる前に、女の子は不意に立ち上がり、こちらに振り返った瞬間、凍りついた顔を見せた。
「あ。」
「浅間さん?なんか目が合っ…」
「真治さん、この人見える人でした。」
「え。。。えっ!!!」
女の子はヘッドホンを投げ捨て、手元にあったシャーペンを武器に、震えた大声で威嚇してきた。
「あ、あなたたち誰ですか!!!一体どこから!!!」
「え、あ、いや」
「不法侵入ですよ!!」
彼女はそう言うと、持っていたシャーペンや近くにあった本を僕たちに投げつけた。
もちろん投げられた物は全てすり抜けて、そのまま扉にぶつかった。
「え」
彼女はまた硬直し、今度は顔を青白くしてその場で倒れた。
「え、ちょ、大丈夫ですか!浅間さんどうしたら!」
「私たちは何もできません。だいたいの人は少ししたら目を覚ましますのでご安心を。」
「ていうか、見える人って。」
「たまにいるんですよ。魂の波長が近くて、元々の霊力が高い人は我々を認識してしまうんです。それよりも真治さん。この方に見覚えは本当にないんですか?」
「え…と言われても…あれ?…相沢…?…華ちゃん?」
「うぅ…」
「だ、大丈夫?」
「なんか怖い夢…え?!まだいる!!」
「い!一旦落ち着いて!」
「いや、落ち着けるか!そもそもあんたら何?!何なの?!」
「その〜。一般的に言う…」
「あの世の者です。」
「あの世って…え?私死んだの?」
「あ、いや、お迎えとかではなくて…。えっと、華ちゃんなんだよね?多分、僕にお花くれたでしょう?」
「え…。もしかして真治くん、なの…?」
「うん。久しぶりだね。」
すると、また華ちゃんは気を失った。
「あぁまた!」
「真治さん、その方は結局?」
「あ、えっと前に話した、お寺で一緒に遊んで怒られた子ですよ。大人っぽくなってて気づかなかった。」
「もしかして、超スピード離婚したのも…」
「彼女ですね。」
「なるほど。まぁ!これで献花の謎は一件落着ですね!」
「それよりも大きな問題ができた気がするんですが…」
「うぅ…。」
「華ちゃん?」
「…やっぱり夢じゃないんだね…。」
「うん。驚かせてごめんね。」
「どういうこと?なんでここに真治くんが?なんで私見えるわけ?」
「相沢さん、私からご説明しますね。まずは自己紹介から…」
浅間さんはこれまでの経緯を華ちゃんに伝えてくれた。
「…なんとなく話は分かった。」
「よかった〜。あ、でも華ちゃんはなんで僕が死んだことを知ってたの?」
「あぁ。そっちの高校に森嶋祐介ってのがいるの知ってる?」
「うん。クラスメイトだよ。」
「その子は保育園時代の幼馴染でさ、クラスメイトが事故にあったって聞いて、名前聞いたら…真治くんでさ。小さい頃はよく遊んだし、小学校以来会ってなかったけど、こういうのはちゃんとお花とか用意したくて。」
「そっか。」
「そんでもって、私達の成仏して下さいって気持ちはことごとく蔑ろにされたわけね。」
「いやいや!これからだから!これからジョウカツするから!」
「でも、手こずってるんでしょ?そうですよね?浅間さん。」
「私も手をこまねいていて。」
「ちょっと、浅間さん?」
「真治さんも欲が無さすぎるから、すぐに意識手放すし、未練なんてない〜とか言いつつ、しっかり御家族に謝りたいっていうがっつりした未練があるし。」
「あぁ〜真治くんらしいねぇ〜。小学校からあんまり変わってなかったんだ。」
「…お恥ずかしい限りです。」
「それで?真治くんの次の未練は?」
「正直僕も分からなくて。ただ、なんとなく学校に行きたくなって教室に行ったら、机に献花があって森嶋くんが水を変えてくれててさ。それで…えっと……あれ?なんだっけ…。」
「あっ真治さん、そろそろ寺に行きましょう。眠く感じるのは霊力が弱まっている証拠です。」
「分、かりました。華ちゃん、お騒がせしました。それじゃ…」
「あっ、待って。私もいく。」
「え?どうして?」
「まぁ、心配だからってのもあるけど、散歩がてらジョウカツってのを見てみたいなって。私もいずれ経験するんだろうし。」
「え、浅間さん、いいんですか?」
「全く問題ありませんよ?ならば、お二人の思い出の寺に行きましょうか。」
「賛成〜」
「…もう、なんでもいいや。早く行きましょう。眠い…。」
こうして、華ちゃんとの再会も束の間、僕らは三人であの寺に向かった。