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ジョウカツ⑱

【18】最後の手紙

僕たちはなんとか浅間さんとジョウカツを続けられる事になった。

「真治さん、本当にありがとう。」

「いえいえ。浅間さんがいてくれたから、僕はまだジョウカツできているんです。これからもよろしくお願いします。」

「…こちらこそ。」

「あ、でも華ちゃんにはなんて言ったら…」

「もう我々の姿や声を認識は出来ないでしょうね…。恐らく笛藤さんなら、彼女の魂に働きかけて、記憶も曖昧にする事ぐらいのことはしてると思います。」

「そんなことも出来るんですね…。最後になるなら、もっと話したかったなぁ。」

すると、浅間さんの端末にメッセージが届いた。

「あれ?笛藤さんから…。」

『そういえば忘れてた!佐藤真治くん宛に、相沢華ちゃんからの伝言があるから送るね!』

「真治さん!相沢さんからの伝言があるみたいです!」

「え!本当ですか?!」

僕は浅間さんから端末を受け取った。



真治くんへ

笛藤さんから、私が真治くんのジョウカツを手伝う事はルール違反だって言われちゃった。だから、私は家に帰ります。もっと真治くんの役に立ちたかったけど、これ以上の関わりを持ったら、君が天国に行けないって。
でもなんとか、君にメッセージを残す事くらいは許してもらえた。
多分、最後になるだろうから、この際はっきり言います。

私はあなたが好きでした。
住職さんに一緒に怒られたあの時から、ずっと。
君は気づかなかっただろうけど、私たち中学校まで一緒だったんだよ?
高校からは離れ離れになっちゃったけど、君の事は森嶋から聞いてた。
君が死んじゃった日、森嶋に頼んで君をカラオケに誘ったんだ。
君は断ったって聞いて少しムカッとしたけど、ずっと会えなくなるなんてね。
でも、今日君とまたお話しできて、一緒にこの寺で過ごせて、本当に嬉しかった。
どうかあなたのジョウカツが上手くいきますように。
                                                                           相沢  華



読み終えた瞬間、僕の中で何かが弾けた。
何だか涙が止まらない。彼女は僕の事を覚えてくれていた。
そしてずっと気にかけてくれていた。
僕は家族以外の人から、愛されていた。
そのことを実感出来た。
もう端末はぼやけて見えない。
でも、華ちゃんの気持ちが嬉しくて、僕はその場で泣き崩れた。

「…相沢さんは、素敵な女性ですね。」

泣き続ける僕の背中を浅間さんは撫で続けてくれた。
しばらく涙は止まらなかったが、次第に落ち着きを取り戻した。

「ぐすんっ。すみません浅間さん。」

「いいんですよ。そんなことより、何か気づきませんか?」

「え?」

「真治さん、恐らく真治さんの体は軽く感じられている頃だと思います。」

「…!確かに軽くなってる気が!」

「それはしっかりジョウカツが進み、最終フェーズに移行した証拠なんです。」

「最終フェーズ…?」

「ジョウカツは未練を無くす事。『未練』とはつまり『三連』。連なった三つの後悔が、現世にあなたを縛り続けているんです。」

「三つの後悔…。」

「一つ目はご家族への後悔。二つ目は恋心の後悔。あともう一つ、あなたには後悔が残っているはず。それを乗り越えた時、あなたは天界へと導かれます。」

「あと一つの後悔…。」

ジョウカツのゴールが見えてきた。しかし、あと一つの後悔が分からない。僕は何がしたかったんだろう。死んでしまう前にやりたかった事は…。

ーつづく。ー

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