ジョウカツ⑮
【15】
時刻は11頃。段々と日照りが強くなり、アスファルトから陽炎が立ち上っていた。
「あっついね〜。二人はなんともないの?」
「私たちは霊体ですので、物理的なものには干渉されないんです。」
「え〜羨ましいなぁ〜」
「いや、恨めしいですよ。」
「あ、あぁ。ごめん。」
「ね、眠い…。」
僕のジョウカツに華ちゃんが参加するとは思わなかったが、仲間が増えると心強い。随分とデコボコしてるけど。
「あっ、着いたね。うわ〜懐かしい〜。」
寺には虫とり網を持った子供達が数人遊んでいた。
境内には猛々しいセミたちの声が反響し、これだけでも目が覚めそうな勢いだった。
「…ふぅ。楽になってきた。」
「よくここで遊んでたよね〜。そんで住職さんにめっちゃ怒られたっけ。」
「あ、華ちゃん覚えてたんだ。」
「そりゃ、覚えてるよ〜。めちゃめちゃ怒られてる時に足痺れちゃって、その後真治くんの肩貸してもらったんだよね。そん時やけにカッコよく見えてさ〜。」
「華ちゃんそこまでにして。恥ずかしくて死んじゃう。」
「いや、真治くんもう死んでんじゃん。」
「まぁ、そうなんだけどね?」
「おねぇちゃん、誰と話してるの?」
ふと後ろを振り返ると、鼻水垂らした麦わら帽子の男の子がいた。
全員の顔が凍りついた。
「…え、えっとね?おねぇちゃんはお芝居の練習してたんだ。」
「ん?おしばいって何?」
「あぁ、お芝居はそうね…。君たちで言うお遊戯会の練習だね!うん!」
「え?お遊戯会?おねぇちゃん大きいのに?」
「え?あ、うん!」
「変なおねぇちゃん!!!」
そのガキンチョはスタコラサッサと友達の所に走って行った。
「なんか、ごめんね華ちゃん…。」
「子供って、純粋だね…。」
「私も迂闊でした。声をかけられるまで少年に気づかないなんて。普段こんなことはないんですが…。恐らく、寺院には霊気が溢れているので全く気配が掴めなかったのかも。まぁ、気を落とさずにどこか落ち着ける場所を探しましょう。」
「はい…。」
僕たちは、程なくして日陰が心地いい場所を見つけた。
「ん〜ここ気持ちいいね〜。」
「それじゃ、ここで少し休ませてもらいましょう。」
「それで?次の未練は決まったの?」
「う〜ん。まだぼんやりとだけど華ちゃんと話してて、こういうのがしたかったのかなぁって。」
「こういうの?」
「その…友達と遊ぶ…こと。」
「…真治さん。」
「…真治くん。」
『可哀想な子・・・』
「いや、息ぴったりか!ああそうですよ!なかなか遊びなんて行けませんでしたよ!」
「なんで?」
「なんでって、そりゃお金が無くて…。」
「それじゃあ、休みの日とかは何してたの?」
「いつもは家事とかやって、時間が余ったら図書館がやってたらそこで本読んだりするしかなかったかな。」
「そっか〜。でも、それは楽しくはなかったの?」
「最初は気がまぎれるけど、繰り返していくうちに楽しかった部分が薄れていって。」
「それで、周りの人とのギャップ感じちゃったんだ。」
「え?なんで分かるの?」
「私もそういう経験はあるから。でも、結局いくら周りと比べても自分は変われなかったし、むしろ私ってなんてダメなんだって思えてきてネガティヴになったけど。」
「けど?」
「ある人の本にね?身動きが取れないって叫んでるうちは、動こうとしてる証拠だから、あともう少し暴れる事が出来たなら、きっと鎖は錆びてる事に気がつくよって書いてあったの。」
「えっと……?」
「つまりは、何も出来ない自分を責めるよりも、出来ない自分を認めてあげて、認めた上で本当に出来ないの?って疑うの。そうすれば、周りが良く見えてきて色々試してみようって思えるし、何も出来ないと思ってた自分が、『試すことは出来る』って気づくんだって。」
「試すことができる自分…。」
「試すだけなら、どんなに下手だろうと『試した!』って事実と経験が嫌でも付いてくるから、後は分析すればいいの。単純に、生きるってことへのハードルを下げよう!って内容だった。」
「華ちゃんは、それで変われたの?」
「うん。変われたっていうか、知らなかった自分がいたって感じ。感覚的には、『あ、こんなところにホクロあったんだ』くらいのものだけどね。」
「華ちゃんは凄いなぁ。僕も本は読んでるつもりだったけど、そんな内容の本は見れてなかったなぁ。」
「真治くん、そうやって真治くんは誰かの良いところを羨むけど、もう少しだけ真治くん自身を許してあげて良いと思う。そうすれば、自然とやりたいこととかやり残したことも出てくると思うよ。」
「…自分を許すか…。」
「真治さん、華さんの言う通りです。ジョウカツは自分に正直にというのが鉄則なんです。」
「…そうですね。」
「はい!じゃあ、次にやりたいことは!」
「友達と遊びたい!…華ちゃん。遊んでくれますか?」
「はぁ。しょうがないなー!」
「私も、友達ってことで良いですよね?」
「浅間さん…もちろん。二人ともありがとう!」
「僕も遊ぶー!」
その声は、僕らの頭上から聞こえた。
上を見上げると、そこには先ほどの鼻水を垂らした少年が木の枝に腰をかけていた。
ーつづくー
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