ファイブ!〜廃部にはさせない!〜①
≪チッチッチッ≫
2018年4月12日15時25分。
某 東京都立高等学校、その一角を担う化学講義室に、手に汗握る緊張が走るッ!!!
≪ペタンっペタンっ≫
渡り廊下に響き渡る、よく使いこまれたサンダルの音。
≪ガラガラッ≫
その場にいた人間が、一斉に扉を見る。
「遅くなって済まない。HRが長引いてしまった。」
一人の男が化学講義室に入室した。その男は肩で風を切る勢いで教壇に立ち、カバンを下した。
「では、緊急会議を始める!!」
この物語は、ある高校で起きた、熱き演劇部の物語である。。。
「みなも知っての通り、我が演劇部は廃部の危機に瀕している。その主な要因は、部活動の方向性の違いによる部員の減少。部活動を行うには、最低五名の生徒がいる必要がある。だが、現在で加入している生徒は、私と木原副部長、小山さんの三人だけ。そのため、生徒会から同好会への格下げ、つまりは事実上の廃部通告が届いた。これが何日前のことだ?木原副部長。」
「はい。廃部通告書、通称『青紙』が顧問の元に届いたのが、ちょうど一週間前。そして、私どもの所に届いたのが、昨日になります。」
「うむ。既に一週間前には青紙は届いていたにも関わらず、なぜこんなにも遅れたんだい? 」
「はい。顧問の供述によると、『ごめん、忘れてた。てへ!』だそうです。」
「…くそぅ、へぼ顧問め!一体、部活を何だと思っているのか!!私は激しい憤りを感じている。ところで、青紙が執行される期限はいつだ?」
「はい。それが…今日を含めて、あと六日しかありません。」
「…く、くそぅ!!」
「部長、起こってしまったことを悔やんでも、時間の浪費にしかなりません。会議を続けましょう。」
「…そうだな。取り乱して済まない。」
「部長!発言よろしいでしょうか!」
「うむ。小山さん。発言は自由にしてくれて構わないよ。それで?」
「はい。そもそも、なぜ我々演劇部は、こんなにも部員が減少してしまったんですか!」
「小山…。その質問は部長に対して失礼では?」
「で、でも、はっきりとした理由が分かれば、解決策も…。」
「そうだな。君にはまだ話していないことだ。教えてあげよう。それは…。」
教壇の前にいた男は、おもむろにチョークを持ち、黒板にその理由を豪快に明かした!
「こ、これは?!」
「そう、それは……『モテない』からだ!!」
黒板を叩く音と共に戦慄が走る!
「そ、そんなこと、どうしようもないじゃないですか!!」
「だから言ったでしょう。失礼に当たると。」
「こればかりは、我々にはどうしようもできない。基本的に我々のような人種は、俗に言うヲタクに分類される。三次元よりも二次元。現実よりも空想に生きる!そう、我々がモテる要素など持ち合わせるわけがない!!」
「いや、言いすぎじゃないですか?!」
「いや、きっとそうなんだ!たぶん絶対間違いない!!」
「部長、キャラ崩壊してます。」
「うるさい木原!もうこちとら自棄なんじゃ!でも怒鳴ってごめん!許して!」
「おけおけ。」
「先輩方!急にキャラ変しないでくださいよ!ついさっきまで凄い頭良さそうに話し合っていたのに!!」
「あぁ~小山さん、あれは巷で蔑まされている、いわゆる中二病という症状だ。くれぐれも感染しないようにワクチン打っておきな~」
「え、ワクチンはどこに!」
「いや、あれは部長の冗談だから…ピュアか!」
「え?!」
「あぁ~小山さんみたいに、簡単に騙せそうな一年生とかいない?」
「部長、それは小山が可哀そうです。」
「そんな木原先輩~『可愛い』なんて言われても何も出ませんよ~?」
「部長、今の嘘なんで、もっとキツイのお願いします。」
「いや~でもどうするか~。迫ちゃん先生にも困ったもんだよ~可愛いから許すけどさ~。」
「いや、許しちゃうんすか!」
「小山さん、さては分かってないね?いいかい!可愛いは絶対的正義なんだぞ!これは国民の総意だ!」
「そうだったんすか!」
「小山良かったね。これ知らないと、非国民として税金倍増なんだよ?」
「え?!そうだったんですか!!危なかった~」
「木原木原~お前まで嘘ついたら、小山さん本当に信じちゃうぞ?」
「え?!嘘だったんですか?!」
「いや、もうむしろ、どこまで信じるのかなって。」
「先輩ひどいです!」
「でもね、小山。そうやって騙されてる間はすごく可愛かったよ。」
「え、そ、そうですか~?」
「あぁ~ほんと小山さんくらいチョロい人を探さなくては!」
「ねぇ、ちょっと考えたんだけど、過去の部活動日誌を見てみるのはどう?なんかヒントになるかもだし。」
「そうだな~特に案も浮かばないし、それに賭けてみようか。確かこの辺に…」
「あっ、それじゃない?黄ばんでる奴。」
「うん、それっぽいね。ん…取れた。」
「これが部活動日誌ですか。」
「昔は結構まじめに書いてたみたいだよ?ほら、名簿に10人以上いるし。」
「10人!すごいね!」
「それに比べて…」
「今は比べないほうがいいと思います。」
「そうね。とりあえず、最初から見ていこう。」
「えっと、2015年4月8日。今日から新入生が入ってきた。仮入部期間ということもあり、応募数は初日で6人。まずまずといったところだ。」
「うへ~6人でまずまずとか…」
「言ってみて~!!6人でMAZUMAZU!!言ってみて~!!」
「早く続き呼んでよ部長。」
「すみましぇん。4月9日、今日は新顔は来なかったが、昨日来てくれた子たちとコミュニケーションを測れた。役者志望は4人、他の2人は元美術部と元パソコンクラブに所属していたこともあり、大道具や音響の制作といった裏方志望とのことだった。今後が楽しみだ。」
「めちゃ豊作やね~。」
「俺らは役者と大道具全部やるのに…」
「役割分担できたら、もっと練り上げた舞台出来そうですね!」
「本来はそうなんだけどね。」
「なんか、さらに自信なくして、読むの辛いんですけど。」
「そうね。正直生まれた時代が悪かったとしか思えないわ。」
「先輩、いきなり極論ですね。」
「まぁ地道にチラシでも配って、ネクスト小山を捕まえよう!」
「おおー!!」
「小山?ディスられてんのよ?」
「え?」
「とりあえず、今日はチラシを作って終わろっ!」
「了解です!」
こうして、緊急会議は幕を閉じた。青紙執行まで、あと五日!!
ーつづく!ー
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