現代アートハウス入門を終えて思うこと
時が過ぎるのは早いもので、もう2月も半ばを迎えようとしています。みなさんはいかがお過ごしですか?私は、1月30日から2月5日まで開催された連続講座「現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜」に参加しました。(もちろん、感染対策は徹底して!)今回の映画エッセイでは、この七夜連続の講座を通してアートハウスについていま思うことをまとめます。まずはそれぞれの作品の紹介と簡単な感想です。
第1夜 『ミツバチのささやき』
舞台は1940年、スペイン内乱の時代。主人公である姉妹の眼差しが光明となり、暗い時代を照らす。私は鑑賞中、ふとジブリ作品『となりのトトロ』を思い浮かべていた。大人になってしまうと、もう見えなくなる世界があるのだと。
第2夜 『動くな、死ね、甦れ!』
カネフスキー監督自身が体験したことに基づいて製作された本作。「熱量」「活気」「精気」がスクリーン全体から吹き出してくるよう。私は、米原万里さんの作品に触れて以来、ソ連やロシアに興味を持つようになったが、この作品を鑑賞して、圧倒的に興味の針が振り切った。
第3夜 『トラス・オス・モンテス』
スペインとの国境に位置する、ポルトガル北東部ミランダ地方に住む人たちを描いた作品。ドキュメンタリーとフィクションの狭間を貫く映像に、不明点が続出。鑑賞後のトークにおいても、講師の方が答えに迷う場面があったほど。ただ、ひとつだけ明確なことがある。この講座がなければ、私は一生目にすることがなかったであろう作品であることだ。
第4夜 『緑の光線』
直感やデジャブ。日々そんなことの繰り返し。こじらせ女子の主人公に、理解を示す気持ちもある。そんな彼女に最後の場面で救いが訪れ、ピンと張り詰めた気持ちがゆっくりと解けていくようだった。これからのことを、希望でもって暗示しているかのように。
第5夜 『山の焚火』
数年前に佐賀のアートハウスにて開催された、町山智浩さんのトークイベントに参加したことがある。映画『チャンス』鑑賞後に解説をしてくださった。その内容が、あまりにも刺激的でずっと印象に残っている。その影響のためか、さまざまな設定のせいか、登場する姉と弟がアダムとイブに見えてしまうのだった。
第6夜 『阿賀に生きる』
「ありがたさ」と「有り難さ(有難さ)」では、私は受ける印象がまったくことなる。前者は感謝をあらわし、後者は有ること、つまり存在することの難しさを伝えているように思う。この映画は、日常の有り難さを私たちに教えてくれる。
第7夜 『チチカット・フォーリーズ』
フレデリック・ワイズマン監督の作品を過去に2回鑑賞したことがある。どちらもよく理解できないまま、撃沈。しかし想田監督の解説を聞いているうちに、ワイズマン監督の存在が自分の中でみるみる膨らんでいくのを実感した。私は映画を観ているようで、観ている「ふり」をしていただけなのかもしれない。映画を観るとは、一体どのような営みなのだろうか?
私にとって、アートハウスとはどんな存在なのか?
連続講座が終了して数日が経ちましたが、いまだあの豊かで心地よい時間に浸っている心境です。7作品すべて、私は初鑑賞でした。昔の映像なのに決して古い作品を観ている気持ちは一切なく、それよりも、自分の知らない映画の領域というか世界に足を踏み入れるような感覚でした。なにが良くてなにが悪いではなく、「アートハウス」と銘打った場で観るものすべてを受け止めたいと思って臨みました。毎回のトーク中、学生の頃みたいに必死にメモを取って、それを自宅に帰って映画ノートに清書して。なんだろう、すごく楽しくて「映画とわたし」というかなり大きな主題とも向き合える機会となりましたね。
そもそもアートハウスとは、日本ではミニシアターという名前で広まっています。シネコンとミニシアター。この表現だとまったく間違った伝わり方をしてしまうだろうなと感じます。講師の方からもお話がありましたが、映画館にはそれぞれに役割があると思うのです。
「芸術が生まれる場所」
いち映画ファンにすぎませんが、作品は観客の目に触れることで呼吸をはじめ、芸術となる。売れる映画だから上映されるのではなく、そこにアート性があるかどうか。そのアート性に対する感受の仕方は個々人によって異なる。つまり、すべての作品に上映される価値がある。それを受け皿となってできるだけ伝えようとしている場所こそが、アートハウスすなわちミニシアターだと思うのです。映画が好きになってまだ数年のにわかファンですが、この講座に参加していちばんの収穫があります。
「映画はアートであり、映画館はアートハウスである」
ということを再確認できたことです。コロナ禍で気持ちが塞ぎ込んでいる方も多いと思います。こんな時だからこそ、映画が助けてくれる。心の拠り所になってくれる。希望の光を灯してくれる。私はそう信じています。
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