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シロが教えてくれたこと

#絆 #家族#奇跡#ねこ#成長#友達

13.運動会


「お天気に恵まれてよかった!」
お母さんは早起きして運動会のお弁当作りをしている。

みさも今日はいつもより早起き。
ベットから起き上がると真っ先に、カーテンを開けて天気を確認。
それから窓を一気に全開。
新しい空気がお部屋にどんどんと流れこんでくる。
まだ眠っているシロを強引に抱き抱えて、外の空気を体中に取り入れた。

みさは4月から小学生のため、今は自分の部屋でシロと寝ている。
2階から聞こえてくる足音を感じながら、お母さんは今日を迎えられたことが嬉しくて嬉しくて、あれもこれもとたくさんの種類のおかずを作っている。
張り切っているお母さんに、
「お母さん、揚げ物が…」
とエビフライの揚げすぎをお父さんが注意する場面もあった。
とても微笑ましい光景である。

さてさて、前回の幼稚園での先生の賭けはどうなったかと言うと。

子どもたちだけでいろいろ話し合いをした結果、
「みんなでやってみよう!!」
最終的には意見がまとまった。

話し合いの途中では、リズムを取ることが苦手な浩介は、
「できないよ。無理。」
と正直な自分の気持ちをみんなに話す場面もあった。

そして、あがり症のさっちゃんも
「私、人前でやるとドキドキするからやりたくない。」
と泣き出す場面があった。

こんな時に大人が、
「こうしてみたらどう?」
とアドバイスするより、子どもたちに決断させた方がチームはまとまる。
なぜなら、先生や親からの押し付けではなく、自分たちが決めたことだから。

リズム感がない浩介とあがり症のさっちゃんをどのように説得したかと言うと。
「二人を隣同士にしてほしい。」
そう子どもたちは先生に話した。
浩介はリズム感はないけれど、度胸は超人並み。
さっちゃんはあがり症だけど、体操をやっているから体幹とリズム感が良い。
二人を隣同士にすれば、不安が一気に消えると子どもたちは考えたのだ。

二人以外のみんなはどんな気持ちだったかと言うと。
先生が厳しいから、ただただやりたくないという意見がたくさん出ていた。そんな子どもたちの心を動かしたのはお兄さんお姉さんたちの鼓笛隊の映像だった。

実際の映像を観ることで、プラスの発想が生まれたのかもしれない。

そして、紆余曲折の結果、なんとか運動会を迎えることができた。

いよいよみさたちの出番。
鼓笛隊が始まる。みんなで心を一つにして。
先生も保護者も緊張の瞬間。

入場してきた子どもたち。
キリッとした顔つき。子どもたちには全くブレがない。そう、みさは大太鼓担当だった。
あんなに体が弱かったみさが、大きな太鼓を体に背負っている。
「お父さん、みさちゃんは大太鼓だったみたいよ。」
とお母さんが話しかける。
でも、お父さんはカメラを撮ることに必死。平常心を保つことに必死だった。
カメラのレンズからみさを見ていたお父さんは途中からやめた。
レンズを通して見るより実際のみさの頑張りを見たかったから。周りの声やみんなの様子を含めて運動会を楽しみたかったから。
子どもたちが協力しないと出来上がらない。
年長席以外の保護者は、
「年長さんすごいね。うちの子は来年できるか不安だわ。」
と話し声が聞こえてきた。
それくらい、完成度が高かったのだ。
これには、担任も満足。先生の厳しさが作品に生きている。
演奏が終わって退場門で先生が待っていると何やら子どもたちの動きが変だ。
どうやら、マイクを園長先生に貸して欲しいとお願いしている様子。
「え?何が起きてるの?子どもたちに厳しくしすぎたから、文句でも言われたらどうしよう?」
そう言われてもおかしくないくらい練習がハードだった。

なんと、リズム感がなかった浩介がマイクを握っている。何かを話すようだ。
「え〜、今緊張してます。」
周りからは笑い声が聞こえてきた。

「愛子先生、僕たちは先生の気持ちになかなか気づくことができなくてごめんなさい。先生の厳しい指導があったから今日はうまく演奏ができました。

「ありがとうございました。」

子どもたち全員からのサプライズ。
感謝の気持ちだった。

先生は厳しく子どもたちに接することが本当は辛かった。
優しく指導することも考えた。
でも、厳しい指導を変えることはしなかった。
なぜなら、子どもたちは卒園して小学生になれば、もっともっと険しい道を歩むかもしれないから。
困難にぶつかるかもしれないから。
今なら子どもたちは失敗して立ち上がることができる。そんな経験をさせたかったのだ。
子どもたちが自分たちの力で問題解決をして欲しかったからだ。
最高の経験から自信を持って卒園してほしかったのだ。
あと数ヶ月で羽ばたく子どもたちのために先生はわざと厳しい指導をしていたのだ。

退場門に待機していた先生は子どもたちの方に駆け寄った。そして、こう話した。

「みんな最高でした。先生こそみんなに感謝しています。みんなありがとう。」

こんなドラマのようなことが、起きるなんて…

愛子先生はとても嬉しくてずっと泣いていた。

涙には、子どもたちへの愛情がぎっしりとつまっていた。
まさに、愛子先生の涙。
みさも今日のことは一生忘れないだろう。


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