リスくんのマーケティング物語 #7 ほかのお客さんにも買ってもらうためには?

[前回のあらすじ]

この話は、ある森に住むシマリスの「リスくん」の物語です。

リスくんは自分が作ったドングリのクッキーは、ねずみのネズくんにとって、クッキーがただの食べものではなく、しあわせを感じさせるものだと気づきました。
そこで「ドングリッキー」と名づけ、ロゴマークと袋のパッケージデザインも新しくつくりました。

ネズくんはドングリッキーをますます気に入ってくれました。

第七回は 「ほかのお客さんにも買ってもらうためには?」 です。


ほかのお客さんにも買ってもらうためには?

じつはリスくんは、ねずみのネズくんへのクッキーを作っているかたわら、ほかの動物さんたちにもドングリのクッキー「ドングリッキー」を買ってほしいと思っていました。

「ドングリッキーをもっとたくさんの動物さんたちにも買ってもらえたらいいな」。
「よし、まずは動物さんたちのところに行ってみよう!」

「動物さんたちのところに行ってみよう!」

リスくんはドングリッキーをもって森を歩き、たぬきさんやきつねさん、ハリネズミさん、イタチさんなど、いろんな動物たちにドングリッキーを見せてまわりました。
「おいしそうなクッキーだね。どれどれ、見せてくれない?」
「うーん、ぼくにはちょっと少なすぎるかな」「もっと大きいクッキーはないかしら?わたしには小さすぎるわ」

「こまったな…。どうしたらみんなにも買ってもらえるんだろう?」
そうです。ドングリッキーは小さなねずみのネズくんのために作った小さいサイズのクッキーです。
たぬきやきつねなどのほかの動物たちには、リスくんが手にしていたドングリッキーをどれだけ食べても、お腹がいっぱいになることはなさそうだと思われてしまい、なかなか買ってもらえませんでした。ほかの動物たちにはあわなかったのです。

たぬき, ハリネズミ, イタチは買ってくれず…

だからといって、ほかの動物たちのお腹がふくれるような大きさにするためには、もっともっと大きいクッキーにして、そしてたくさんのクッキーを作る必要があります。リスくんはとてもひとりではできるとは思えませんでした。

* * *

その日の夕方、ねずみのネズくんがネミちゃんをつれてリスくんの家にやってきました。ねずみのネミちゃんも、ネズくんの家にあったドングリッキーをほしいと思い、ネズくんがネミちゃんをお客さんとしてつれてきてくれたのです。

ネズくんとネミちゃんがやってきた

「リスくん、まえに来てくれたときは買いたいとは思わなかったんだけど、ネズくんからドングリッキーの話を聞いて、わたしもほしくなったの」。
リスくんにとってふたりめのお客さんができたしゅんかんでした。

ネズくんはネミちゃんに言いました。「ネミちゃん、ドングリッキーがあると、ぼくはなにかしあわせな気持ちになれるんだ。ネミちゃんもきっと同じように思えるはずだよ」

リスくんは帰っていくネズくんとネミちゃんを見おくりながら、たった今のできごとをふりかえっていました。
ネズくんが言っていた「ドングリッキーがあるとしあわせな気持ちになれるんだ」という言葉に、リスくんは勇気をもらえた気がしました。

「そうだ!」リスくんはいいことをひらめきました。
「小さいドングリッキーを大きくできないなら、いっそのこと小さいことをいいと思ってもらえるようにしたらいいんだ!」

アイデアをひらめいたリスくん

リスくんが思いついたのはこういうことです。それは、ドングリッキーをほかの動物さんたちがたくさん食べるものではなく、クッキーを持っていたり食べることで気分を変えたり、前向きな気持ちになるものにしようと考えました。ドングリッキーを、しあわせをよびこむものに意味合いに変えようというものです。

リスくんは思いました。「クッキーを食べるよりも、からだにいい薬を飲むようなものにしたらどうだろう?大きさも、むしろ小さいほうが大切にしたくなるかもしれない…!」「ドングリッキーはただの食べものとしてでなく、持っていたり食べるしあわせな気持ちになれる "お守り" のようなものにしよう」

リスくんはさっそく行動をおこしました。ドングリッキーの大きさは小さなサイズのままにして、袋のパッケージに「しあわせをよぶクッキー」と書きくわえ、ドングリッキーが前向きな気持ちになれるというメッセージを入れました。

* * *

つぎの日、リスくんはふたたび森を歩き、ほかの動物さんたちにドングリッキーを持っていきました。
行くとちゅうでネズくんに会い、ネズくんはリスくんを手伝ってくれることになりました。

「これはただのクッキーじゃないんだよ。食べるときも、見ているだけでも、なんだかしあわせな気持ちになれるクッキーなんだ」。ネズくんも動物さんたちにドングリッキーのことを楽しそうに話してくれたこともあって、ほかの動物さんたちも集まってきました。

たぬきやきつね、ハリネズミ、イタチたちははじめは信じられないという顔をしていましたが、リスくんからわたされたドングリッキーを手にしてみると、そのとくべつな感じにおどろきました。「うん、きれいなお守りみたいだね。小さくても大切にしたくなるし、見ているとなんだか気持ちがやすらいでくるね」とたぬきのタキくんが言いました。

「気持ちがやすらいでくるね」とタキくん

「わたしにもひとつください!」。ハリネズミのハリネちゃんがお金を出して言いました。
ドングリッキーはほかの動物たちの間でも人気になり、リスくんは持っていったドングリッキーをすべて買ってもらうことができました。みんながうれしそうにしている顔を見て、リスくんもとてもうれしくなりました。

* * *

ネズくんにありがとうを言いさよならをしたあとに、リスくんはシマ先生のところに行き、今日のできごとを話しました。
「シマ先生、ぼくのドングリッキーが、ネズくんだけではなくネミちゃん、そしてほかの動物さんたちにも買ってもらえました。みんな、しあわせな気持ちになりそうって言ってくれたんです」

シマ先生はほほえんで言いました。「リスくん、それはすばらしいことだね。今日もまたマーケティングで大切なことを学んだみたいだね」

シマ先生の教えを聞くリスくん

「大切なことですか?」
「そう。ひとつの商品でも、お客さんごとに感じる価値 (かち) はちがうんだ。ねずみのネズくんが思うドングリッキーの価値は、食べてお腹をみたすことにくわえ、大切にしたいと思うものだった」
シマ先生は続けます。「でも、ねずみよりもからだの大きいほかの動物たちにとっては、リスくんのクッキーではお腹がいっばいにはならないと言われてしまった」

「そうです、シマ先生」
「そこで、君はどうしたか。ネズくんが感じていた "しあわせになれそう" という価値のほうにもっとよせて、ほかの動物たちにはこちらを強くうち出したわけだね」
「そのとおりです」リスくんはコクリとうなずきます。

「ここに、今までとちがうお客さんにほしいと思ってもらったり、買ってもらうためのヒントがあるんだよ。それは、お客さんごとに価値をわけて考えることなんだ。新しいお客さんにとって、商品がどういう意味を持つか、どんな価値があるかを考えることが大事なんだね。同じ商品でも、お客さんによって見いだす価値は変わるんだ」

リスくんはシマ先生が何を伝えようとしているのかがわかってきました。
ネズくんにとってのドングリッキーの価値、ほかの動物さんたちにとってのドングリッキーの価値はかならずしも同じではない。それぞれのお客さんに、相手にあわせて商品の価値の見せ方や伝え方を変えたから、ドングリッキーはほかの動物さんたちも買ってくれたんだと。

リスくんはまたひとつ、マーケティングのことを学べたのでした。

このとき、シマ先生の家の近くで、おもわずニヤリとする動物がいました。リスくんのクッキーをいろいろな動物たちが買っているのを、ずっとかくれて見ていたきつねでした。

木かげでニヤリとするきつね

 (つづく) 

シマ先生のかくにんテスト


今回の学びのテストです。(   ) の中に入るもっともふさわしいと思うものを ① ~ ③ の中からえらんでください。

  1. ひとつの同じ商品でも、お客さんごとに (    ) はちがう
    ① 名前のよび方 ② プンスカおこるポイント ③ 感じる価値

  2. お客さんごとに価値をわけて考える。今までとはちがう新しいお客さんにとって、商品がどういう意味を持つか、どんな (    ) があるかを考えることが大事
    ① かくしわざ ② ちょうのうりょく ③ 価値

  3. それぞれのお客さんにとって、相手にあわせて (    ) を変える
    ① アダ名でのよび方 ② テレパシーのおくり方 ③ 商品の価値の見せ方や伝え方

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