リスくんのマーケティング物語 [最終章] 何のために商売をやっている?

[前回のあらすじ]

どんぐりだけで作ったクッキー「ドングリッキー」の商売、ほかにも「どんぐりクラブ」のコミュニティなど、大いそがしの日々だったリスくん。気づかないあいだに、しだいにつかれがたまり、ついには気をうしなってたおれてしまいました。

商売ができなくなったリスくんを、なかまの動物さんたちみんなできょうりょくして助け、商売を長く、楽しくつづけられるしくみをつくりあげました。

ぶじに元気になったリスくん。しかし、あるなやみがでてきました…。

第十八回は「何のために商売をやっている?」です。


何のために商売をやっている?

リスくんは今までやってきたことを思いかえしていました。

今までを思いかえすリスくん

あらためて気づいたのは、どんぐりを売ろうと思った理由をすっかりわすれていたことでした。もともとは、自分の家がふるくなり直したいところが見つかり、そのためにお金がほしいと思ったからでした。

おかげさまでドングリッキーはたくさん売れ、リスくんの家を直すお金はすでにたまっていました。お金をかせぐというゴールをたっせいしたわけですが、リスくんはふしぎとうれしい気もちにはなりませんでした。だからといって、この商売をやめようとは思いません。

「ぼくはいったい、何のために商売をしてるんだろう?」リスくんはそう思いましたが、自分でなっとくのいく答えは思いうかびませんでした。

* * *

つぎの朝になってもリスくんの気もちのモヤモヤはのこったままです。
その日の夕方、シマ先生の家にそうだんをしに行くことにしました。シマ先生は、これまでずっとリスくんを助けてきた、伝説のマーケターとよばれるりっぱなシマリスです。

リスくんの話を聞いたシマ先生は言いました。「なるほど。リスくんはそもそも何のために商売をしているのかが、わからなくなったということだね」
「はい、そうなんです、先生」
「もともとのリスくんの家を直すお金はもう手に入ったから、目的を見うしなったということかな?」
「そうだと思います。先生。ぼくはどうすればいいんでしょうか?」

シマ先生にたずねるリスくん

シマ先生はすぐに答えず、こう言いました。
「リスくん、この話ばかりはリスくんに答えを言うことはできないんだ。なぜなら、それはリスくんが自分の手で見つけだすものだからだ」
「そのためのサポートはできる。ただ、そうだな…。ではつづきは、よかったら明日にしてはどうだろう?」

リスくんはシマ先生から明日にと言われて、すこしおどろきました。今まではその日のうちにシマ先生の話はおわっていたからです。
「明日というのはね、リスくん、今やリスくんの商売はリスくんひとりではやってない。モモンガのモモンちゃん、ねずみのネズくんやネミちゃん、ハリネズミのハリネちゃん、たぬきのタキくん。ほかにも、森の動物さんたちが集まってドングリッキーを楽しむ “どんぐりクラブ” には、赤ちゃんからお年よりまでたくさんのみんながいるよね。これくらい多くの動物さんたちといっしょに商売をやっているんだ。だから、『何のために商売をするのか』を考えるためには、少なくともネズくんたちがみんないる場で考えてみようか」

「はい、わかりました。ぜひそうします」リスくんはシマ先生の考えを理解しました。
「よし、ではつづきは明日だ。今日は早めに帰ってゆっくり休んではどうだい?」
リスくんはシマ先生にお礼を言い、家にもどりました。

* * *

つぎの日の午後、リスくんの家の前には、いっしょに商売をやっているなかまのモモンちゃんやネズくんたちがすでに集まっていました。シマ先生を中心にこれから始まる話に、みんなはドキドキする気持ちとワクワクする気持ちが入りまじっています。

ドキドキとワクワクのみんな

シマ先生が話しはじめました。
「今日は集まってくれてありがとう。ではまずは、そもそもの “マーケティングとは何か” からもう一度話をしておこう」
シマ先生は全員の顔を一度見て、話をつづけます。
マーケティングとは、お客さんに自分たちの商品をえらんでもらうためにどうしたらいいかを考えやってみることだ。マーケティングは商売をより良くするためにあるんだ

リスくんたちはそれぞれが自分のノートにメモをとっています。
シマ先生はうれしそうに言葉をつづけます。「つぎに、マーケティングで大事なことも話しておこう。マーケティングではお客さんを誰かを決めて、そのお客さんをよく知ることが大事なんだ。何に困っているか、お客さんの本当の気持ちまで理解することだ。そして商売をしてお客さんにしあわせになってもらうことを目指す。商売はお金をかせぐことではあるけど、けっしてお金のためだけに商売をしてはならないよ。お客さんに価値をもたらし、ありがとうと言ってもらえ、その価値に対してお金をもらうという順番が大切なんだ」

「では、ここまでで何か聞きたいこと、質問はあるかな?」
ネズくんが手をあげて質問し、そのあとにも何人かが質問しました。

ひととおりに答え、みんなが話についてきていることをかくにんしたシマ先生は、話をつづけます。
「ではここからが今日のメインの話だ。リスくんが昨日、言ってくれたんだが、『自分がやっている商売が何のためにやってるのかがわからなくなった』ということなんだ。ほかのみんなはどうだろう?」

そうたずねられ、モモンちゃんやネズくんたちもあたらめて何のために自分たちは商売をやっているのかが、はっきりとしないことに気づきます。

「どうだろう、ではこのあとここで少し時間をとって、みんなで話しあってみてはどうかな?」

それから夕方まで、リスくんたちはずっと話をしました。

商売の目的を話しあうリスくんたち

みんなからいろいろな意見が出て、なかにはリスくんが思ってもみなかった考えかたを知ることができました。みんなで話しあったことでおたがいの理解も深まったように感じます。
ときどき、話がとまってしまったときやどう考えていいかわからなくなったときには、シマ先生が話しあいの助けぶねを出してくれました。

そしてとうとう、リスくんたちは自分たちが何のために商売をするのかを言葉にすることができました。

3つあり、

  1. 商売でお客さんをしあわせにすること

  2. 商売をする自分たちも楽しくやりつづけられること

  3. どんぐりクラブや森のみんなをしあわせにし、森の中をより良くすること

3つの目的を発表するリスくん

シマ先生は、リスくんたちがみんなで話しあってまとめたことが発表されるのを、うれしそうに聞いていました。
「とてもいい目的だね。お客さん、自分たち、森のなかの全体、商売でその三つのしあわせをめざすかぎり、目的を見失うことはないはずだ。リスくん、君の気もちのモヤモヤははれたかな?」

「はい、先生。言葉にでき、なによりみんなでいっしょに話しあったので、すごくなっとくができるものです。ねぇ、みんな?」
ほかのみんなも自信にみちた顔でうなずきました。

「シマ先生、ありがとうございました。これからもぼくたちは『3つの目的』を大切にして、森の動物さんたちにしあわせをとどけていきます」
リスくんは、心をこめて言いました。

「そうだね。みんななら、きっとできるよ」
シマ先生はリスくんたちをあたたかかいまなざしで見つめます。

森のむこうから、きれいな夕日がリスくんたちをてらしていました。

 (おわり) 

シマ先生のかくにんテスト


今回の学びのテストです。(   ) の中にふさわしい言葉を入れてください。

  1. マーケティングとは、お客さんに (    ) ために、どうしたらいいかを考えやってみること。マーケティングは商売をより良くするためにある

  2. マーケティングではお客さんを誰かを決めて、そのお客さんをよく知ることが大事。何に困っているか、お客さんの (    ) まで理解する

  3. 商売はお金をかせぐことではあるけど、けっしてお金のためだけに商売をしてはならない。お客さんに (    ) をもたらし、ありがとうと言ってもらえ、その価値に対してお金をもらうという順番が大切

  4. 商売の目的は、① (    ) にしあわせになってもらうこと、② 商売をする自分たちも楽しくつづけられること、③ 森の中をより良くすること


答え

  1. 自分たちの商品をえらんでもらう

  2. 本当の気持ち

  3. 価値

  4. お客さん

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