リスくんのマーケティング物語 #10 ねだんはいくらがいい?

[前回のあらすじ]

きつねがリスくんのクッキー「ドングリッキー」をマネし、同じようなクッキーを安いねだんで動物たちに売りはじめました。

リスくんはドングリッキーは、今もお客さんでいてくれるねずみのネズくんやネミちゃん、ハリネズミのハリネちゃんがドングリッキーをずっと好きでいてくれた話をヒントに、クッキーにいっしょにわたす「しあわせしんぶん」のカードを作ることにしました。

第十回は「ねだんはいくらがいい?」です。


ねだんはいくらがいい?

リスくんはドングリッキーにつける「しあわせしんぶん」のカードを作りました。カードにはリスくんのまわりでおこったちょっとしたしあわせを感じる話を、心をこめて書きました。

「やった!できたー」。はじめてのしんぶんがようやくできあがりました。

「しあわせしんぶん」を書き終わりよろこぶリスくん

あとは新しいドングリッキーを動物さんたちに見せに行くだけです。しかし、ふとリスくんは、ドングリッキーのねだんをどうするかをまだ決めていなかったことに気づきました。

きつねたちにマネされ、売っているドングリのクッキーは、リスくんのドングリッキーにくらべてかなり安いねだんでした。
同じようにねだんにまで下げて安くするほうがいいのか、リスくんはまだ決めかねていました。
「ねだんの決めかたはどうすればいいのだろう…?」。リスくんはこまってしまいました。
しばらく考えましたが答えは出なかったので、リスくんはシマ先生のところに相談しに行くことにしました。

* * *

シマ先生の家につき、リスくんがドアをノックすると、シマ先生はいつものようにこころよくむかえてくれました。リスくんは先生のあたたかい対応に気持ちがうれしくなりました。

リスくんはシマ先生に、新しく書いた「しあわせしんぶん」や、商品のことをもっと伝えたいこと、ねだんをどう決めればいいかわからないという話をくわしく言いました。

シマ先生とリスくん

話を聞きおわり、シマ先生はリスくんにゆっくりと語りかけるように話しはじめました。
「商品のねだんを決めるのは、とても大事なことなんだよ、リスくん」「ねだんは高すぎると、お客さんはかいにくくなる。かといって安くしすぎるとお客さんにとってはうれしいかもしれないが、商品を売るリスくんにとってはもうからないので、その商売を長くつづけることがむずかしくなってしまう」
「はい、そうだと思います」。リスくんはこたえます。
「では商品のねだんを、どうやって決めればいいか?大きくは三つの方法があるんだ」

シマ先生はここで一つ言葉をくぎりました。
「三つの方法ですか?」リスくんが聞きかえします。
「そうなんだリスくん。三つというのは...」

① ライバルと同じようなねだんにする
② 売る自分がもうかるねだん
③ お客さんが感じている商品のほんとうの価値にもとづいて決めるねだん

「この三つだ」

リスくんはシマ先生が言ったことを、ひとことも聞きもらすまいとノートにメモしています。

ノートにメモをとるリスくん

リスくんがメモをとり終わったところを見たシマ先生は続けます。
「一つ目からくわしく言うと、ライバルと同じねだんにするとは、きつねたちが売っているクッキーと同じにし、リスくんのクッキーも今までより安いねだんに下げるということ。これはかんたんなねだんの決めかただけど、からなずしもよい方法ではないんだ」

「どういうことですか?」
「同じねだんにすることはたやすいが、もしリスくんがきつねたちと同じねだんにしたとすると、おそらく相手はもっとねだんを下げてくるだろう」「そうなるとどうなるか?ねだんを下げるあらそいになっていくだけなので、終わりが見えない。あまりいいこととは言えないんだ」

「つぎに二つ目の方法は、リスくんが自分のクッキーはこれくらいのねだんだろうと思って決める方法だ。たぶん今までのリスくんのクッキーのねだんはこの考え方じゃないかな」
「はい、そうでした」。リスくんは答えます。

「この方法は多くの商売で使われるねだんの決めかただ。でも、これだけではじゅうぶんとは言えない。なぜなら、自分がもうかることばかり考えると、お客さんのことを見ていない決めかたになってしまうからなんだ」
リスくんはそう言われ、クッキーのねだんにはたしかにお客さんのことを考えてはいなかったことに気づきました。

リスくんにねだんの決めかたを教えるシマ先生

「つぎに三つ目の決めかた。お客さんの立場にたって、どれぐらいのねだんがいいかを考える方法だ」
少しあいだをあけてシマ先生はつづけます。「商品のことをお客さんが "こんな価値がある" と思えば、お客さんはお金を払ってほしいと思いたくなるものだ」「リスくんがやったのは、ドングリッキーをただ食べるための食事やお菓子としてだけでなく、おまもりのようになったり、おいておくとどこかしあわせを感じられるものという価値をお客さんにうち出したね」

「はい、先生」
「お客さんにとって、ドングリッキーが食べるクッキーとしてだけではなく、しあわせを呼んでくるものと、とらえ方を変えれば、その分だけもっとお金は払ってもいいと思うはずなんだ」
リスくんはシマ先生の言葉の意味が少しずつわかってきたように思いました
「このように、お客さんが手に入れたいほんとうの価値に対して、どれぐらいのねだんなら買ってもらえるのかを考えることが、三つ目の方法である "お客さんの立場になったねだんの決めかた" なんだ」

リスくんはノートにメモをとりつづけていました。メモを書き終わったあとに、しばらくの時間、なんどもメモを読み返しました。
三つのねだんの決めかたがあることを学んだリスくんはシマ先生に言いました。
「ぼくは今まで二つ目の方法をやっていました。でもこれからは二つ目だけではなく、三つ目の方法もとり入れるといいのではないかと思いました」

シマ先生はだまってうなづきます。
「一つ目のライバルと同じにするというねだんは、ぼくにとってはいい方法だとわ思わなかったからです」
シマ先生はにっこりとほほえんで答えました。「そうだね、リスくん。その考えにさんせいするよ」 

やさしく語りかけるシマ先生

「では、ねだんをどうするといいか。お客さんはどういった価値を感じていて、それにどれぐらいのねだんをつければいいんだろうか。お客さんの立場になって考えてみると、おのずとねだんを決められるはずだよ」
「はい、しませ先生。ありがとうございます。先生から話を聞けて、どうすればいいのかがわかってきたように思います。もう少し自分で考えてみます」

リスくんはシマ先生にお礼を伝え、家に帰りました。

* * *

その夜、リスくんはドングリッキーのねだんを今までよりも下げることはせず、これまでと同じねだんで、ドングリッキーのよさをきちんと伝えていこうとあらためて思いました。

シマ先生のところに行く前に作った「しあわせしんぶん」を一人ひとりにしっかりととどくように心をこめてわたす、ドングリッキーの名前にラッキーの意味をこめたことも、なんどもくりかえし伝えていこうと心に決めました。

ついにねだんを決めたリスくん

「いきなり多くの動物さんたちに、一度に伝えるのは自分ひとりではむずかしそうかな。まずはたぬきのタキくんにためしてみよう!」。リスくんは心の中でつぶやきました。

 (つづく) 

シマ先生のかくにんテスト


今回の学びのテストです。(   ) の中にふさわしい言葉を入れてください。

ねだんの決めかたは大きく三つ。
① ライバルと同じようなねだんにする
② 売る自分がもうかるねだん
③ お客さんが感じている商品のほんとうの価値にもとづいて決めるねだん

  1. 一つ目の方法は、ライバルと同じねだんにすることはたやすいが、同じねだんにしたとすると相手はもっとねだんを下げてくる。(    ) になっていくだけで、終わりが見えない

  2. 二つ目の方法は、自分がもうかることばかり考えると、(    ) 決めかたになってしまう

  3. 三つ目の方法は、お客さんが手に入れたい (    ) に対して、どれぐらいのねだんなら買ってもらえるのかを考える


答え

  1. ねだんを下げるあらそい

  2. お客さんのことを考えていない

  3. ほんとうの価値

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