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顧客インサイトとニーズの違い、インサイトを発掘する方法、マーケティングのおもしろさ

お客さんの心の奥にある本当の望み、見つけられていますか?

顧客理解で目指す深さは 「顧客インサイト」 です。しかし、そこまで行くのは決して簡単な道のりではありません。ではどうすれば顧客インサイトを発掘できるのでしょうか?

今回は、この難しい問いに迫ってみたいと思います。顧客インサイトというマーケティングでの顧客理解の核心に触れながら、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。


顧客心理の奥深さ

マーケティングにおいて 「顧客インサイト」 と 「ニーズ」 は重要な概念です。これら2つは一見似ているものの、本質的には異なります。

顧客インサイトとニーズの違い

顧客インサイトとニーズの違いを整理してみましょう。

顧客インサイトとは、人を動かす隠れた気持ちです。

お客さんの隠れた欲求や言語化できない奥にある望みや不満を指します。普段は自身で意識していないものの、そうだと気づかされれば態度が変わり、行動を起こす心理です。心のホットボタンや心のツボと言ったりもします。

一方、ニーズはお客さん自身が明示的に求めているものです。ニーズはより表面的にはっきりしていること、顧客インサイトは隠れていて潜在的です。

お客さんのニーズだけではなく、奥にある顧客インサイトまでを理解することで、マーケティング活動では大きな差が生まれます。

* * *

では事例を通じて、顧客インサイトとニーズの違いを具体的に見てみましょう。

スタイリストが選ぶ洋服が届くサブスク型のファッションレンタルサービス 「airCloset (エアークローゼット) 」 の例です。

エアクロの衝撃的な発見

エアークローゼットは、かつて解約したユーザーへのインタビューを通じて衝撃的とも言える発見をしました。

以下は関連記事からの引用です。

中澤 (引用者注: Repro 株式会社 取締役 CBDO 中澤伸也氏) : 石川さん (引用者注: 株式会社エアークローゼットの執行役員 社長室長 兼 マーケティンググループ長の石川桂太氏) が 「インサイトを見つけた」 と感じたのはどのような場面ですか。

石川: お客様に解約理由をインタビューした時に 「あまりにも好みにドンピシャのお洋服が届いて、持っているお洋服と同じだから辞めた」 という話をされました。レコメンドの精度が高いことが解約の理由になった、というのが衝撃でした。

ここで初めてわかったのは、「今持っているお洋服とドンピシャのものが欲しい」 わけではなく、「好みに近いが自分では選ばない、少し冒険できるお洋服が欲しい」 ということです。

ですが、お客様自身もニーズを言語化すると 「ぴったりのお洋服を届けてほしい」 とおっしゃると思います。しかし、それでは結局 「違うな」 となってしまう。

そこにインサイトがあると気付きました。インタビューを行った時の最初の答えから少しずつ深掘りしながら、「本当に欲しいものは何か」 を類推する必要があるとわかりました。

中澤: まさに 「インサイトとニーズは違う」 ということですね。インサイトは顧客の隠れた欲求や言語化できない課題だからこそ、聞いてもなかなか出てこない。会話をしていく中でお客様自身の欲求に気付かれる瞬間があるんですよね。

MarkeZine 2023.4.27

エアークローゼットにとって衝撃的だったのは、お客さんが 「自分の好みにピッタリの洋服が届いて、持っている洋服と同じだから解約した」 と述べたことでした。商品レコメンドの精度が高すぎることが逆に解約の理由になったわけです。

これによりエアークローゼットは、お客さんが本当に求めているのは 「好みに近いが自分では選ばない、少し冒険できる洋服」 であることに気づきました。ここに顧客インサイトがあったのです。

エアークローゼットはニーズ (好みにピッタリの洋服) と顧客インサイト (少し冒険できる洋服) の違いを理解することで、新たな価値提供の道が開けました。

顧客インサイトを発掘する方法

では、顧客インサイトはどのように探し出せるのでしょうか?

テストをしてみる

見出した顧客インサイトが本物かどうかはテストしてみるといいです。先ほどの関連記事から引用します。

中澤: インサイトを見つける時には、ニーズと違うことを理解しているかどうかは非常に重要ですが、お二人はその違いをどのように判断していますか。

宮木 (コニカミノルタ株式会社 プロフェッショナルプリント事業本部 マーケティング統括部 ビジネス開発グループ グループリーダー 宮木俊明氏) : お客様が言っていることをそのまま信じるのはインサイトの発掘ではないと確実に思っています。ただ、「これがインサイトだ」 と確認する術もありません。そのため、思い込みもあるとは思いますが、想像力で補う部分もあると思います。

だからこそ、それらを踏まえて出来上がったアイデアやプロトタイプで本当に顧客は動いてくれるのか、つまり想像したインサイトが本物だったか否かを、「テストしてみる」 ことが極めて大事だと思います。

石川: 前述のエピソードの時点で 「インサイトだ!」 と腑に落ちていたわけではありませんが、経験を積むにつれて少しずつニーズとインサイトの違いがわかってくる場面が増えてきました。今では、お客様が仰っているニーズをベースに、抽象化して深掘りしたものがインサイトなのではと思っています。

MarkeZine 2023.4.27

抽象化する

顧客インサイトの発掘には 「抽象化」 の視点も重要です。続けて引用すると、

中澤: インサイトを見つける時のキーワードの一つが 「類推」 ですね。類推は言い換えると抽象化なので、与えられた情報を断片として捉え、抽象化することがポイントです。

もう一つは 「インサイトは確認ができない」 ということ。だからこそ実際にアウトプットして反応を見る以外では答え合わせができないのが、インサイトの特徴であると思います。

インサイトを見つける能力は生まれ持ったセンスでしょうか、それとも育成できるものなのでしょうか。

宮木: 育成できるものだと思っています。実際、弊社では OJT に取り組むことで、マーケティングのスキルや経験がなかったメンバーたちも数多くの経験を積み、少しずつインサイトの発見ができるようになってきていると実感しています。

MarkeZine 2023.4.27

行動する

顧客インサイトを見出すためには 「行動」 が大事です。関連記事から見てみましょう。

インサイトの発見方法を部下に伝えていく中では、三つの要素を大事にしています。

一つ目は、「出ろ」 です。対話のために積極的に社外に出ることはもちろん必要ですし、自分の既成概念の外に出ろと言う意味もあります。

二つ目は、「いけ」 です。データだけ見ていてもインサイトはわからないため、お客様の現場に直接足を運ぶことが重要だと考えています。

三つ目は、「やれ」 です。何かインサイトを発見したら、提案を作るなり、誰かに話すなりと行動に移すことが大切だと思っています。

MarkeZine 2023.4.27

顧客インサイト発掘術 (まとめ)

以上を整理をすると、顧客インサイトを発掘するためには次の3つがポイントです。

  1. 深掘りする
    顧客インサイトはニーズとは異なる。お客さんが表現しているニーズを掘り下げ、ニーズの背後にある深層の欲求や課題感を探る

  2. 抽象化する
    与えられた情報の断片をつなぎ合わせたり、具体的な事例や状況から一歩引いて見て広い視野で捉え、抽象化する

  3. 行動する
    引用した中にあった 「出ろ、いけ、やれ」 という3つ。
    社外に出て新たな情報や視点を獲得する (出ろ) 、お客さんの現場に足を運んで直接的な一次情報を得る (いけ) 、顧客インサイトを発見したら提案をしたり、誰かに話して行動に移す (やれ) 。
    顧客インサイトを実際のアウトプットにつなげ、本当にインサイトかどうかを確認する

マーケティングの醍醐味

顧客インサイトが反映された商品を提示し、その価値を提案することで、奥にある顧客インサイトが顕在化します。

プロセスの解像度を上げると、

  • お客さんとの対話や観察を通じて顧客理解を深める

  • 試行錯誤の末にようやく顧客インサイトを発掘する

  • インサイトをもとにした新しい切り口からアイデアを発想

  • 商品の魅力をお客さんの言葉で言い換え、インサイトに響く価値を提案する

  • お客さんが商品を使うことで価値が実現する

以上が顧客インサイトの発掘からビジネスにおける価値実現につながる流れです。

マーケティングの楽しさは、まさにここにあります。これらのプロセスを経て、お客さんの本当の望みを叶える商品やサービスを提供できるのです。

まとめ

今回は 「顧客インサイト」 をキーワードに、インサイトとニーズの違い、顧客インサイトをどのように見出せばいいかを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • 顧客インサイトとニーズは同じではない。顧客インサイトはお客さんの隠れた欲求や不満、ニーズは明示的に求めているもの。2つの違いを認識し、お客さんのインサイトまで理解することがマーケティングでは重要

  • 顧客インサイト発掘のポイントは、① 深掘り、② 抽象化、③ 行動

  • 見出した顧客インサイトを商品に反映し、お客さんが商品を使い価値がもたらされることで、奥にある本当の欲求を満たすことができる。顧客インサイト発掘から価値実現にマーケティングのおもしろさがある

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