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シェアされるマーケティングのすゝめ。UGC からの 「なじんできた感」 をつくろう

新しい製品やサービスを市場に投入するとき、少くない数の製品が 「キャズム」 という溝に阻まれます。

今回はキャズムを超え、多くの人に商品を知られ、買ってもらえるための考え方とノウハウを解説します。


イノベーター理論とキャズム

イノベーター理論とは

出典: ONE Marketing

イノベーター理論は、人々を大きく5つのグループに分け、新しい技術や製品がどのように広がっていくのかを説明するモデルです。

✓ イノベーター理論の5つのグループ

  • イノベーター: 新しいから使う (まだ誰も使っていないから使う) 

  • アーリーアダプター: 流行りそうだから使う

  • アーリーマジョリティ: まわりでみんなが使っているから使う (流行りに取り残されたくない) 

  • レイトマジョリティ: 使わないと不便だから使う

  • ラガード: それでも使わない

このようにイノベーターから順に、人々が新しい製品やサービスを採用する過程は段階的に進んでいきます。

イノベーター理論から派生したものに、キャズム理論があります。

キャズム理論

出典: ONE Marketing

キャズム理論のキャズムとは 「溝」 のことです。アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に深い溝が存在するとされます。

アーリーアダプターの人たちは新しい技術や製品に対して積極的で寛容な態度を取ります。一方のアーリーマジョリティはアーリーアダプターよりも保守的で、新しいものを取り入れるためには、まわりの人たちが使っていたり、導入実績や信頼性を求めます。

ここであらためてイノベーター理論の5つのグループを俯瞰すると、イノベーターとアーリーアダプターは自分が良いと思ったものを使うという、まわりの意見よりも純粋に新しいことの利便性や得られる便益を重視します。

それに対してアーリーマジョリティ以降の大多数の人たちはまわりで流行っていると感じたり、持っていない・使わないほうがむしろ損をするという段階になってはじめて取り入れます。

自ら主体的に使い始めるイノベーターとアーリーアダプター、まわりからの影響を強く受け受動的な態度で使いだすマジョリティという構図です。ここにキャズムがあるわけです。

ではどうすればキャズムを乗り越えることができるのでしょうか?

キャズムを越える方法

ヒントになるのは 「アダプテーション (なじむこと) 」 という捉え方です。

「なじんできた」 という感覚

文脈を共有するために、関連記事から引用します。

森永: 私は博報堂 EY メディアパートナーズ メディア環境研究所で、若者の研究もしております。

(中略) 

森永: 「そういえば最近、色々な人が言っていた」 「よく見た・聞いた気がする」 という、自分の身の回りに対象が 「なじんで」 きたときにヒットしていると感じるようです。となると、今までの広告事業は 「アテンションを取る」 ことを重視していましたが、Z 世代には 「アダプテーション (なじむ) 」 までのコミュニケーションが大事になってきます。

森永: また、この人々がオンライン至上主義ではないことも発見でした。実はネット常駐型の人こそ、リアルやオフラインの関係を重視し、様々なメディアを見て情報のバランスを取ろうとする傾向があるのです。

MarkeZine 2023.6.12
出典: MarkeZine

注目したいのは、アダプテーションと表現された、自分の気になる情報が 「なじんできた」 という感覚です。

「そういえば最近、色々な人が言っていた」 「よく見たり聞く気がする」 と感じ、自分の身の回りの 「コミュニティ」 や 「界隈」 から情報が自然に入ってくると、その情報や商品が流行っていると認識するわけです。

この 「なじんできた」 という感覚は、イノベーター理論に当てはめるとアーリーマジョリティの人の感覚と見ることができます。

というのも、アーリーマジョリティの人たちは 「まわりのみんなが使い始めると自分も取り入れる」 という価値観や行動特性がありました。自分の近い人が使っていたり自分が普段いるコミュニティで、よく見聞きすることで流行りを感じます。この状態を別の言い方をすれば 「なじんできた」 となるわけです。

ここにキャズムを超えるヒントがあります。

アテンションからアダプテーションへ

従来の広告では 「アテンション (注目) 」 をいかに早く・多くを集めるかが重視されていました。

アテンションをとるアプローチが有効だったのは、人々の興味関心の最大公約数が大きかったという時代においてです。わかりやすく言えば、みんなが同じテレビ番組をリアルタイムで見て、翌日に同じ話題が共有でき話に盛り上がれるという状況です。

しかし、もはやこうしたことが起こるのは W 杯などの大イベントや、テレビでのごく一部の人気コンテンツくらいです。

フィルターバブルと呼ばれるような人それぞれの興味が細かく分かれ、小さな共通の関心グループの中に知らず知らずのうちに自分が過ごしてしまっている状態では、テレビ CM をやって一気にアテンションを取り、世の中で流行っている印象を与えるという大技は効かないのが令和の現在でしょう。

よって、アテンションをがっつり取るよりも 「アダプテーション (なじむ) 」 が大事になります。伝えたいメッセージや情報が溶け込むように、自然に受け入れられる状態をつくり出すわけです。

顧客理解から 「なじんできた」 をつくる

アテンションからアダプテーションにシフトするとしても、マーケティングでやることの起点は変わりません。

マーケティングのはじまりは顧客理解です。お客さんの置かれた環境、行動と心理への深い理解です。表面的なニーズだけでなく、奥にある望みや不満、何に価値を見出すかの価値観までを捉えます。

アーリーマジョリティの人が流行り始めている情報を自分も気にしはじめたり、ヒットしていると感じ始めるのは、自分のごく近い範囲でもよく見聞きする状況になってからでした。

こうした行動や心理を持つ人が多いアーリーマジョリティへのマーケティングは、ターゲットとするお客さんがいるコミュニティでいかに存在感を出せるかです。

とはいえ、アーリーマジョリティ以降の人たちの彼ら・彼女らのいるコミュニティや界隈で 「なじんできた」 という感覚を持ってもらうには、売り手である企業がいくら広告や関連情報・コンテンツを発信しても限界があるでしょう。

無数にあるコミュニティの中から見つけるのがそもそも難しく、見つかったとしても企業がいきなり入ると土足で侵入されてるような印象を与え、人々から受け入れてもらえないからです。

UGC 活用がカギ

そこで発想を変えることが大事です。企業からの情報発信だけではなく、コミュニティにいる人が自ら発信・共有するという UGC (User Generated Content) を活用するといいでしょう。

そこで1つ補助線としてご紹介したいのが、ULSSAS という SNS マーケティングの情報拡散モデルです。

出典: ホットリンク

ULSSAS は6つの英語の頭文字をとったフレームです。

✓ ULSSAS

  • U: UGC
    新商品を発売したところ、ユーザーが写真つきのポストを投稿する

  • L: Like
    UGC を見たユーザーがいいねやリポストをする。エンゲージメントが高くなるとリーチが伸び拡散され、より多くの人の目に触れるようになる

  • S: Search 1 (SNS 検索) 
    いいねがついた UGC を見たユーザーが、商品について気になり始める。SNS 上で検索をして情報収集する

  • S: Search 2 (Google / Yahoo! 検索) 
    商品の詳細の検索、買える最寄りの店舗やサイトを知りたいと思い、検索エンジンで指名検索をする

  • A: Action (来店や購買) 
    お店に足を運んだり EC サイトに訪問し、商品を買う

  • S: Spread (拡散) 
    商品の写真を撮り、それを X や Instagram 上に投稿し新たな UGC が生まれる。その投稿 (UGC) にまたいいねがついたりリポストされる

以上の 「UGC → Like → SNS 検索 → Google 等の検索 → 来店・購入 → 拡散」 という流れが続くと、ULSSAS のサイクルがまわり、自然と情報が拡散していきます。

いかに UGC がバズらせるか

SNS マーケティングの中で UGC に注力をするなら、忘れてはいけない大切な姿勢があります。「自社アカウントからの投稿がバズるか」 よりも 「いかに UGC がバズるか」 の重要性です。

先ほど見た ULSSAS がまわる状況にするには、ユーザーからの自然発生的な UGC を増やすことに尽きます。企業がすべきは、起点となる UGC をつくってもらえるよう働きかけ、効果的に広がるよう整備することです。多くの UGC が生まれるように 「シェアされるマーケティング」 を心がけることが大事なのです。

SNS マーケティングというと、自社の X や Instagram の企業の公式アカウントからの投稿をいかにバズられるかに目がいき、インプレッション数 (表示回数) やフォロワー数の数字に一喜一憂しがちです。

しかしもっと大切なのは、SNS を利用している人たちに UGC としていかに取り上げてもらうか、どう広げてもらうかです。SNS 上で仕掛ける以外にも、UGC が生まれやすくなるようにパッケージ、店舗デザイン、広告コミュニケーションの工夫も必要です。

企業アカウントからの SNS 投稿をバズらせるのではなく、ユーザーが自らつくったり投稿してくれた UGC がバズることを目指すという、他者貢献の姿勢が大切です。

そうすることで、お客さんになってほしい人の中でも特にマジョリティと見られる人が、自分のまわりで自社商品のことを 「なじんできた」 と思うようになるでしょう。

まとめ

今回はイノベーター理論とキャズム理論を入り口に、どうやって商品やサービスをお客さんに受け入れてもらうかを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • アーリーアダプターからアーリーマジョリティへのキャズムを越えるには、新製品やサービスのことを自分の身近なコミュニティで見聞きする状態になる 「なじんできた」 と感じられるアダプテーションをつくることがカギ

  • そこで企業が直接広告からアピールするよりも、コミュニティ内でお客さん自らが発信・共有する UGC を狙うといい。これにより商品が 「なじんでいる」 が生まれやすい

  • UGC が自然発生的に増えるような環境を整えることが大事。UGC がいかに広がるかという他者貢献を重視する 「シェアされるマーケティング」 を目指そう

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