カラムーチョの逆張り戦略がおもしろい。崖っぷちからの戦略とマーケティング

今回のテーマは、戦略とマーケティングです。

おもしろいと思ったカラムーチョの戦略を取り上げ、マーケティングの観点も入れながら学べることを解説します。

カラムーチョの逆張り戦略

こちらの記事を読みました。

 「カルビーに勝つにはこれしかない」 湖池屋がカラムーチョという禁断の味に手を出したワケ|SankeiBiz

左は現在のカラムーチョ, 右は1984年の新発売時のパッケージ (出典: PRESIDENT Online


圧倒的シェアのカルビーへの対抗

カラムーチョを取り上げた記事で、1980年代前半の頃のスナック菓子市場での、圧倒的に高いシェアだったカルビーに対抗するための湖池屋の戦略がおもしろかったです。

一言で言えば徹底した 「逆張り戦略」 で、強者がやらない弱者の戦略でした。

以下は記事のリード文です。

湖池屋のスナック菓子 「カラムーチョ」 は1984年発売のロングセラーだ。その誕生の背景には、最後発にもかかわらず破竹の勢いだったカルビーへの対抗意識があった。

異色のスナック菓子は、なぜ大定番になれたのか。湖池屋創業者の息子で現会長、小池孝氏の証言を交えて明らかにする

SankeiBiz 2021.11.4

 「カルビーに勝つにはこれしかない」 

1984年のスナック菓子市場は、カルビーが圧倒的なシェアを占めていました。

カルビー参入年に集計された1975年の国内ポテトチップス市場シェアは、湖池屋が 27.6% で1位。しかし1984年にはカルビーが 79.9% と圧倒的なシェアトップとなり、湖池屋は 9.0% と激減。

このまま同じ戦い方をしていては、いずれ淘汰されてしまう。そこで出た結論が 「全部、カルビーの逆を行こう」 だった。

SankeiBiz 2021.11.4


カルビーの逆をやる

では、「カルビーの逆を行こう」 とは、具体的にどのようなことを湖池屋はやったのでしょうか?

少し長いですが、また記事からの引用をすると、

 「当時ポテトチップスのメインターゲットは女性と子供でしたから、逆に大人の男性に食べてもらうべく、辛い味付けで行こうと決めました。

売り場もお菓子売り場でなくておつまみ売り場。原料がジャガイモなのは同じだけど、カットは薄切りスライスではなく、おつまみ感のあるスティックタイプ。値段も、150円でさえ高いと言われていた中で200円。さきいかなんかは大抵300円くらいしていましたから、それと比べれば別に高くない」 

 「要するに、あらゆる面でポテトチップスっぽく見せたくなかったんですよ。『ポテトチップスだけど、ポテトチップじゃないもの』を作ろうと思ったんです。『カルビーのポテトチップス』と比較されないように」 

商品名は、辛い + ムーチョ (Mucho / スペイン語で 「たくさん」の意) で 「カラムーチョ」 だ。

 「メキシコ風の商品名にしようという話は早い段階から決まっていました。その後デザイナーがいろいろと候補を考えてくれた中で、一番飛び抜けたものを選んだんです。

『チリ ◯◯』みたいなもっと無難な候補もあったけど、どうせなら突き抜けようと。パッケージに書かれている『こんなに辛くてインカ帝国』というダジャレも、会議で盛り上がった勢いで決まりました。今の湖池屋がやっていることと一緒ですが、とにかく特徴を出さないと埋もれてしまいますからね」 

ところが、一番の取引先だったスーパーマーケットが取り扱ってくれない。理由は 「お客さんからクレームが来るから」 。辛いものはタブーの時代だった。

 「当時は『辛いものを食べると頭が悪くなる』なんて平気で言われていたんです。子供が食べたらどうするんだって。そもそも子供は狙ってません、おつまみ売り場で売りましょうって提案したんですけど、それでも駄目でした」 

 「数カ月は全然売れませんでした。仕方がないから、当時店舗数を増やし始めていたコンビニエンスストアに商談に行ったら、取り扱ってくれたんです。コンビニは酒屋さんから転向する人が多かったので、『うちの店のお客さんだったら、こういうのが売れるかも』と。おつまみとして見てくれたわけです」 

SankeiBiz 2021.11.4

マーケティング 4P で整理すると

カラムーチョが新発売当時にやったことを、マーケティング 4P で整理してみます。


✓ Product [商品]

  • 当時はタブーとされた辛い味付け

  • 大人向けにし、おつまみ感のあるスティックタイプ

  • 突き抜けた商品名 「カラムーチョ」 。パッケージには 「こんなに辛くてインカ帝国」 のダジャレ


✓ Price [価格]

  • 200円の高価格帯

  • カルビーのポテトチップスは当時100円で、スナック菓子は150円でさえ高いと思われていた


✓ Place [販売チャネル]

  • はじめはコンビニで展開

  • コンビニの店主は元は酒屋さんから転向した人が多く、大人向けの辛い味付けのカラムーチョに 「おつまみとして売れるかも」 と思ってくれた

  • 従来の取引先だったスーパーは最初は扱ってくれなかった


✓ Promotion [コミュニケーション]

  • あらゆる面でポテトチップスっぽく見せないようにした

  • 子ども向けのお菓子ではなく、大人向けのおつまみと位置づけて訴求した


以上のように、マーケティング 4P の全てで一貫性を持ち、カルビーとは一線を画すことをカラムーチョはやったのです。

学べること

では、ここからの後半は、カラムーチョの話から学べることを掘り下げていきましょう。

戦略の本質

1984年に発売されたカラムーチョは、今もコンビニやスーパーに定番のスナック菓子として売られています。ロングセラー商品の背後には戦略があったわけです。

ここであらためて、そもそもの戦略とは何かを考えてみましょう。

結論から言うと、戦略とは目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。大きな方針となるのが戦略です。

ポイントは 「やらないこと」 にあります。覚悟を持って捨てることを決めるために戦略をつくると言ってもいいです。「やらないこと」 を明確にするからこそ、残った 「やること」 に注力できるのです。

カラムーチョには 「全部カルビーの逆を行こう」 という明確な 「やらないこと」 がありました。

差異化からのブランディング

カラムーチョからマーケティングの視点で学べることも見ておきましょう。

ポジショニングとブランド構築で示唆があります。

ポジション形成ができるのは他とは違うことをやるからです。マーケティングの観点で大事なのは、違うことをやったことによって、それがお客さんへの価値を生み出しているかどうかです。価値がもたらされ、お客さんの頭の中で他にはない価値イメージが定着すれば、ブランドになります。

つまり整理をすると、「違うことをやる → 価値創出 → 独自のポジション → ブランド化」 という流れです。

カラムーチョは差異化を図って価値を提供し、独自のポジションを形成しました。その結果として、他にはないカラムーチョというブランドになったのです。

まとめ

今回はカラムーチョを取り上げ、戦略とマーケティングで学べることを見てきました。

最後にまとめです。


カラムーチョの逆張り戦略

  • 戦略とは目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごと。ポイントは 「やらないこと」 を決めること

  • カラムーチョは 「全部カルビーの逆を行こう」 という方針をとった

  • 大人向けに、当時はタブーとされた辛い味付け、200円の高価格、コンビニで売り、あらゆる面でポテトチップスっぽく見せないようにした


差異化からのブランド化

  • ブランドができるのは、「違うことをやる → 価値創出 → 独自のポジション → ブランド化」 という流れ

  • カラムーチョは差異化から価値を提供し独自のポジションを取り、他にはないカラムーチョというブランドになった



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