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コクヨの高級ハサミ HASA のブランディング。「正直」 というパーソナリティ設計からのブランド設計とは?

今回は、文房具のハサミを取り上げます。

ハサミは 「切れればなんでもいい」 という感じで、コモディティ商品に思えるかもしれません。しかしブランド設計を磨くことで、他にはない独自のハサミとして存在感を発揮できます。

コクヨのハサミ 「HASA」 のブランディングから、ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。


コクヨの高級ハサミ HASA

出典: コクヨ

ご紹介したいのは、コクヨの高級ハサミ 「HASA」 です。

HASA はコクヨのフラグシップモデルとなる商品です。愛着のある道具を長く使い続けたいと考える人をターゲットに、機能と暮らしに調和するデザインを備えた高価格帯のハサミです。

HASA の開発プロセスがおもしろかったです。

ユーザーリサーチからの発見

HASA の開発では、コクヨは独自のユーザーリサーチが行われました。

対象者の自宅を訪れ、対象者宅に様々なハサミを持ち込み、4つのカテゴリーに分類してもらいました。

出典: 日経クロストレンド

4つとは、「選択肢に挙がるハサミ」 「まだ許せるハサミ」 「選択肢に挙がらないハサミ」 「許せないハサミ」 です。

このリサーチを通じて、ハサミには "スタメン" となっているものが存在し、スタメンのハサミは家族が集まるリビングのカウンターに置いてあることなどを把握しました。他にはハサミについて 「10年単位で持ち続けるのが普通」 「はさみの持ち手のところがボロボロになる」 「形だけのデザインは嫌われる」 といったこともわかりました。

 「正直」 というパーソナリティ

コクヨはリサーチからのこうした発見から、新たに開発するハサミ (後の HASA) に 「正直」 というパーソナリティを設定しました。

正直なパーソナリティとは、ハサミが単に物を切るための道具でなく、ハサミが使う人との信頼関係を築くパートナーでありたいという考え方からきています。

この 「正直」 というパーソナリティ設定によって、新製品開発のあらゆる要素が動き出しました。製品自体のデザイン、パッケージ、販促戦略、広告など、全てが核となる正直というパーソナリティに沿って展開されたのです。

ブランド設計

ではここからは、コクヨの HASA について、ブランディングの観点から掘り下げてみましょう。

HASA には正直というパーソナリティが設定されました。

ブランドをつくるには、パーソナリティに加えて次のような要素で構築していきます。


✓ ブランド設計

  • ブランドコア

  • パーソナリティ

  • ベネフィット

  • エビデンス

  • メッセージ


5つの要素において、具体性と一貫性を持たせます。順番に見ていきましょう。

[設計 1] ブランドコア

ブランドの軸になるものです。具体的には、ブランドのビジョン、ミッション、バリュー (価値観) をつくります。


✓ ブランドコアの要素

  • ビジョン: ブランドが創りたい理想の世界観

  • ミッション: そのビジョンを実現するためにブランドがやる使命

  • バリュー: ブランドが大切にする価値観


コクヨの HASA のブランドコアを考えると、高いハサミの性能を持ち、暮らしに調和するデザイン性を備え、HASA が人々から愛着のある道具として長く使い続けてもらえる存在を目指しています。

[設計 2] パーソナリティ

パーソナリティとは、ブランドを人に見立てた時の人格や性格です。

消費者やお客さんから、自分たちの商品・サービスに対して、人に見立てた時にどんな性格を持っていると見られたいかがパーソナリティです。

コクヨの HASA は、パーソナリティは 「正直」 です。

[設計 3] ベネフィット

ベネフィットとは、商品やサービスを使った時にお客さんが感じるうれしさです。ベネフィットのポイントは、主語をお客さんにして捉えることです。

ベネフィットには2つあります。機能的ベネフィットと情緒的ベネフィットです。

機能的ベネフィットとは、使いやすさなどの物理的な機能面でのうれしさです。情緒的ベネフィットは、商品やサービスを使った時の感情的なうれしさです。

HASA には高級なハサミで、コクヨにとってのフラグシップモデルです。切りやすさや使いやすさ、握りやすさの機能性に加え、見た目のデザインからも他にはない感情的な価値も生まれるでしょう。

[設計 4] エビデンス

エビデンスとは、ベネフィットを実現する要因です。このエビデンスがあるから、ベネフィットをもたらしているという商品やサービスの特徴、技術的な優位性などです。

マーケティングでは 「Reason to believe (RTB) 」 と言ったりしますが、ベネフィットにつながる自分たちが持っている、選ばれるための強みの源泉がエビデンスです。

コクヨは長年のハサミの開発で培ってきた技術やノウハウを HASA の開発に注ぎ込んでいます。3D プリンターを用いて100種類以上の試作を用意し、試作をプロジェクトチーム内で検証するという作業を何度も繰り返しました。より使いやすく握り心地にもこだわったハサミを追求したのです。

[設計 5] メッセージ

以上のブランド設計の4つ、ブランドコア、パーソナリティ、ベネフィット、エビデンスをまとめて、相手に伝えるのがブランドメッセージです。

HASA で強調しているメッセージは、「永く使うために、切り心地を正直に追求したハサミ」 です。"正直" という言葉が入り、メッセージ自体も実直で正直さが表れた表現になっています。

* * *

ブランド設計は、お客さんが商品に対する深い感情や信頼を抱く基盤になります。

ブランド設計があることで、単なる機能性や価格への魅力だけでなく、ブランド自体が持つ 「ストーリー」 や 「哲学」 に共感してもらえます。お客さんが、他ではないその商品を選ぶ理由が生まれるのです。

まとめ

今回はコクヨのハサミ 「HASA」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後に学びのポイントをまとめておきます。

  • コクヨの高級ハサミ 「HASA」 は、ユーザーリサーチから永く愛用されるパートナーとしての 「正直」 というパーソナリティを核に開発された

  • パーソナリティが明確に定まることで目指す方向性が決まり、使い心地とデザインが調和したフラグシップモデルとなるハサミができあがった

  • HASA のブランディングには、ブランド設計の5つの要素に具体性と一過性がある。ブランドコア、パーソナリティ、ベネフィット、エビデンス、メッセージがつながっている

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