穀倉地帯の町へ

ガラガラガラ
小麦を運ぶ荷車の車輪が回る音と馬の歩く音がする。

「嬢ちゃんたち、もうあと少しでつくぞ」
荷車の主がいう。

「いやぁ、フィルさん助かったよ、歩き続けていたら大変だった。」
馬の手綱を握るブレンダが笑顔で返事をした。それと同時に荷車に乗った二人も荷馬車の中から顔を出して笑顔で前を見ている。

あの脱出から二日が経っていた。
街道にたどり着いた三人は日が暮れる前に集落を見つけたのだ。
追手の様子はなく、安心して休めるところは無いかを尋ねるためにその集落の中の一つを訪ねたのだった。

その訪ねた家の主は、フィルといった。

フィルと妻のベラは、突然訪ねてきた三人を自分の家の納屋に泊まることを勧め、夕飯もごちそうしてくれたのだった。
翌日には、近くの町まで作物を納品に行くということなので、そこまで乗せてもらう代わりに、道中の操車を手伝うことをブレンダが申し出たのだった。

「いやぁ、こっちも年をとったから馬を走らせてくれて助かったよ。」
フィルと呼ばれた男は照れくさそうに頭をかきながら言う。

「普段は村から二人で交代しながら来るんだがね、このところ相棒の腰が悪くてね。寄る年波には勝てんもんだ。」
と相変わらず照れくさそうにしながら、ブレンダから手綱を受け取ると近づいてくる町を見ながら話す。

町は豊かな穀倉地帯の街道沿いにある。

三人は旅人の格好をしていたが、姫であるオリビアは元より、メイドのケイトリンと騎士のブレンダも格の高い貴族であるため、見ただけでわかる上等な服装だった。

オリビアとケイトリンは同い年の14歳、ブレンダは18歳。上等な服に身を包んだうら若き女三人旅。

一人は、騎士か戦士といった出で立ち、一人はショートソードを携え外套にキラリと光る宝石の入った上品で高級そうなブローチをつけ、もうひとりは一人は魔法の杖をもち、侍女かのように荷物をもち長い棒状のものを抱えている。

長い棒状のものは、城から持ち出した剣だ。
ぱっとみて外見からでは剣と見分けがつかないが、明らかにこの旅人の荷物には似つかわしくなかった。

三人とも旅に慣れてはいなかったが、明るさと気さくな人柄を持ち合わせていた。
何かワケありの旅だろうと思ったので、家に訪ねてきたときにフィルはどうしたものかとベラと顔を見合わせたが、明るい笑顔の裏側にある、暗い雰囲気を感じて、助け舟を出さずにいられなかったのだ。
そうして三人を何も聞かずに受け入れた。

その優しさは三人にはたまらなくうれしいものだった。

ブレンダは、集落に付く前に何が起こったのかについて、オリビアとケイトリンにすべて話した。

城が何者かに攻められていたことは二人とも想像はしていたが、魔王が城にいない時を見計らって宣戦布告もなしに魔王の叔父が攻め入ってきたことは、想像以上の衝撃だった。

オリビア、ケイトリン、ブレンダの三人の住む国は魔法に長けた一族が始祖の国で、魔術に長けた国であることから、魔王国と呼ばれている。

かつて国の始祖は王族として世襲王政によって統治をしていたが、現在は、王国を構成する部族の代表からなる評議会によって国家を運営されている。

そして、その評議会から選ばれる代表を魔王と呼んでいる。

魔王は、王国内の各部族の代表の中から『魔力』、『戦闘力』、『知力』、『民衆からの評判』などから候補者が選出され、最終的に各部族の代表者が最もふさわしい人物に対して投票を行って決定する。

その現魔王は、一部の近衛騎士たちを残して魔王国内にある荒野の環境視察へでかけているところで留守だった。

ブレンダは有事の手順に則り、オリビアと勇魔の剣を聖王国へ届けることを優先し、町での戦闘には参加しなかったので、状況を詳細には把握できておらず、王の消息は不明だった。

そして、魔王と共に視察に付き添っていたブレンダとケイトリンの実の父も同様に消息不明であった。

「大丈夫です。お父様方は一人で千、万の兵にも負けない力をお持ちの方たちですから。それよりも城下の人々や城内の皆さんの方が心配です。。」
とオリビアはブレンダに向かって言った。

もう間もなく町につくということを聞き、荷車いる二人の近くにきて気が緩んだのか、心配する気持ちが顔に出てしまっていたようだった。

「確かにおっしゃる通りですね。」
思いを読み取られたことに嬉しさと照れくささを感じているのか、優しく微笑みながら、次にどうするかについて考えを巡らせる。

「追手もないようですし、町で一晩休んで、明朝に出立しましょう。」とブレンダが言う。

穀倉地帯の町についたら、次は国境の町へ向かうのだ。

有事の際の手順は、
 – 勇魔の剣を王かその直系子孫が持ち出す
 – 伝説の森に住む聖人に助力を請う
 – 勇魔の剣を持つ王の直系子孫を王の代理人として、和平条約に則り聖王国の国王に助力を請う

第二次聖魔大戦と呼ばれている二度目の聖王国と魔王国の戦終結の際に結ばれた和平条約には、
「互いの国に内乱が起こった場合には、現行制度を保持し平和を維持するために相互に協力をする」
という内容が含まれており、勇魔の剣を王、または王の代理人が聖王まで届けて助力を請うことになっていた。

その使命を果たし、国を正すため、三人は穀倉地帯の町から、伝説の森を経由して国境の町に向かうことにしたのだった。

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