聖魔の森へ

「じゃあ、嬢ちゃんたち気をつけてな!」
フィルは馬を走らせる。

「フィルさんも、お気をつけて」ブレンダが言う。
「またいつかお会いいたしましょう〜」オリビアが手をふる。
「おせわになりました〜」ケイトリンがお辞儀をしてから手をふる。

———

三人とフィルは食堂で楽しい時間を過ごしたあと、翌朝の出発時間を相談してから、部屋に戻った。

部屋では、三人ともいつでも出発できるように、しっかりと準備をした。
そして、何かあったときに外に飛び出せるように寝間着には着替えず、新しく出した外着を着てベッドに潜り込んだ。

ベッドに入ったオリビアは、一息ついて、それまであったことを振り返る。

はじめに、城が攻められ、抜け道から城を抜け出し、草原を歩き、フィルと出会い、馬が引く荷車に農作物と一緒に乗って、この町についた。
宿で温かい食べ物を食べて、フィルの温かい人柄にも触れた。
そして今は、宿屋のベッドで寝る。

全てが初めての経験で、それがこの数日で起こったことだった。
いろんなことが起こりすぎて、よくわからないまま気がついたらここにいた感じがして、明日からどうなるのか、楽しい時間を過ごした反動なのか、少しばかり不安を感じてきてしまった。

もそもそとケイトリンがオリビアのベッドに入ってきた。ケイトリンもここまでの出来事を思い出して、同じように明日からの不安を感じたのだろうか、それともオリビアが不安に感じているのが伝わったのだろうか。

どちらも正しいのかもしれない。
何も言わずに二人は手を繋いで、手のぬくもりを感じるとあっという間にまぶたの重みに耐えられなくなった。

ブレンダは、ほろ酔いのいい心もちでリラックスしていたが、それは部屋に戻るまでだった。

部屋に戻ると二人に出発の準備を促し、自分自身も黙々と準備をした。

ここから先は、数日の旅になる、国境の町まで行き、必要な物資を補給して、そこからまた数日かけて聖王都までの旅をするのだ。

そこにどり付く前に聖魔の森で、聖人に会って助けを求める必要もある。

聖魔の森は、かつては、魔の森とも呼ばれていた。魔の森に一歩踏み入れると無事に帰ってくることはできないと言われるほど、魔物が多く住む森だ。

第二次聖魔大戦の後、いつのまにか森に住み着いた聖人は、方々で様々な奇跡を起こしてきたとか、危険な魔の森に住んでいるのだから、本当は聖人などではなく魔人なのではないかといった様々な噂がある。

定番は、子供が悪いことをした時や、言うことを聞かせたい時に「聖魔の森に住む魔人がやってきて、食べられるぞ」と親が脅かしたりするのに利用するのだ。

さまざまな逸話を持つその森は、地方の町でも有名な森で、国境の町と同様に聖魔の両国から不可侵の森とされている。

これから三人はそこに足を踏み入れ、聖人を探し出し、助けを請わなければならないのだった。

———

「さぁ、私たちも出発しましょう。」

ブレンダはフィルを見送る二人に告げる。
その声に振り返った二人の瞳にも決意の火が灯っているのがわかる。

そうして、三人は聖魔の森へと踏み出したのだった。

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