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かおりのデザイン

個人的に「かおり」に興味がある。
絵を描く者として、かおりによって作品制作おける集中力は大きく左右される。
今回はかおりについて、芸術的視点から少し考えていく。

■「におい」と「かおり」
「におい」は嗅覚知覚の全体を指し、「かおり」は良い匂いのことを言う。
「におい」や「かおり」という言葉は、時代とともにその意味が変化してききた。「にほひ」の語原は「 赤く 美しく映えるようす」のような視覚的対象を表す言葉であり、現代では鼻で感じるもの全てを対象とし、空間の風情を表す言葉としても用いられる。一方、「かおり」は煙などとともに空間に漂う輪郭の曖昧なものの密度を表す言葉から、空間に存在するいい匂いを表す言葉へと変化してきたのだ。

■平安と室町の「かおり」
古来より日本人はさまざまな形で香りに接し、暮らしのなかに取り入れてきた。
平安時代には貴族社会のなかで薫物と呼ばれる香りを楽しむようになり、室内に香りを燻らせる空薫物(そらだきもの)や、文書や経巻などを保存する時に使用したえび香、衣に薫きしめて身じろぎとともにふわりと香らせるための薫衣香(くのえこう)などの香りのスタイルや道具類が作られてきたのだ。

※空薫物…現代のアロマディフューザーのようなもの
※えび香…現代の防虫剤のようなもの
※薫衣香…線香のようなもので、衣服に匂いをつけるもの

室町時代になると、微妙な香料の配合を必要とする雅な遊びであった薫物から、一本の香材の香りだけを鑑賞する武士的な奥深い美意識を持つ香道が誕生した。六国五味(りっこくごみ)を軸に展開し、かおりは“嗅ぐもの”ではなく、“聞くもの”として探求されていった。
香木の微妙なかおりの違いを鑑賞するのが香道の醍醐味とされており、六国五味の“六国”とは香木を分類するもので、伽羅(きゃら)・羅国(らこく)・真南蛮(まなばん)・真那伽(まなか)・佐曽羅(さそら)・寸聞多羅(すもたら)という産地の当て字が用いられた。五味は味(辛・甘・酸・苦・鹹)によって香りの相違を知るもの。
しかし、六国五味と定義づけられていても、香木の性質上、同じ品種でも多様なかおりが存在するため、最終的には感覚的な評価であった。

■個人的に
歴史からも分かる通り、かおりは古くから我々にとって重要な存在であったことは間違いない。実体験として、良いかおりの環境下での生産性は段違いである。自身が空間をデザインするとしたら、視覚的なデザインと嗅覚的なデザインは同等の価値としてコンセプトを設計するだろう。
現代までの“かおり”の変わらぬ普遍的価値は、何か大切なこと、品格や人柄、プライドといった内面的なことをオブラートに包んで表現したり、コミュニケーションツールとして奥深く、そして芸術性に富んだ分野であると同時に、潜在的な能力をまだまだ感じる。

■参考文献
鬼頭天薫党、https://www.tenkundo.co.jp/fragrance/vocabulary.html(2021年4月25日)

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