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【まちで仕事をつくる】vol.08 山形ヤタイ誕生秘話

山形ヤタイ構想

軒下トライアル活用を進めるため、僕らは仮設の什器を開発することにしました。その名も「山形ヤタイ」。

原型となったのは、大学3年生前期の課題「直売所の設計」でした。この課題では、各自が対象敷地を選び、直売所の設計提案を行うもの。そのなかで特に印象的だったのが堀内くんの提案でした。彼の提案は、大学の備品を使い、簡易な木製フレームで屋根をかけたマルシェを敷地内で実現するものでした。当時の僕には、それが建築とは言い難いものに思えました。「建築物とは、土地に定着した屋根や柱、壁を有する工作物である」という基本的な概念から外れていると感じたからです。

原型となった堀内くんの提案

しかし、その後も堀内くんの提案はなぜかずっと頭から離れませんでした。軒下トライアルを構想する中で「あのシンプルなアイデアこそ、この場にふさわしいのではないか」と考え始めました。とはいえ、課題時に使っていた大学の備品は使えません。まずは安定性のある天板を加え、さらにブラケットソーホースの使用による横架材の損傷問題を解決する必要がありました。そこで僕は、堀内をプロジェクトメンバーに誘い、それのリデザインを進めていくことにしました。

せんだいヤタイワークショップからの学び

僕らが「山形ヤタイ」を作るにあたり、仙台で「せんだいヤタイ」を製作していた大平さんのワークショップに堀内くんと参加させていただきました。
「せんだいヤタイ」は、宮城県産の木材を使い、ホゾ継ぎで組み立てられる木製のヤタイ。地域内の循環を意識したこのプロジェクトは全国的にも注目を集めていました。ワークショップでは、のみやノコギリ、インパクトドライバーを使い、1日かけて1台の「せんだいヤタイ」を製作しました。作業は想像以上に労力がかかるものでしたが、その分、手を動かしながら多くのことを学べました。

せんだいヤタイワークショップ

僕らは、「山形ヤタイ」を独自に進化させるための差別化ポイントを常に考えていました。建築学生の僕らでさえ、建材の調達に不慣れであり、工具を扱うことも簡単ではありません。そこで、より「誰でもどこでも作れる什器」を目指し、以下の3つの条件を設定しました。

1.入手簡易性
全国どこでも再現できるよう、ホームセンターで入手可能なツーバイ材、針葉樹合板、レジャーシートなどを材料として使用すること。
2.製作簡易性
作業は穴あけ、ビス打ち、塗装のみに限定し、インパクトドライバーさえあれば誰でも作れる構造にすること。
3.モバイル性
軽自動車の助手席を倒して積み込めるサイズに設計し、車で簡単に運搬できるようにすること。

これらの条件を満たすように設計を進め、ついに完成したのが「山形ヤタイ」です。

山形ヤタイ

山形ヤタイレンタル事業はじまり

山形ヤタイのプロトタイプ制作から完成に至るまで、僕らの活動はすべて自費で行われてきました。「何が楽しくてそんなことをやっているの?」と周りから聞かれることもありましたが、一心不乱に課題に向き合い、ものづくりの楽しさと、社会からの反応にゾクゾクしていただけだとしか答えようがありません。
しかし、活動を続けるにつれて、僕らの時間とお金はどんどん消耗していきました。一人暮らしをしていた僕と仲間の芳賀くんは、バイト以外の時間は24時間営業のファミレスに立てこもるように作業をしに行き、シャワーを浴びるためだけに家に帰り、大学へ行くという生活を送っていました。このままではいけない。そう感じながらも、何とか続けていました。

「どうにかこの活動をレンタル事業にしてビジネスに繋げられないか?」

そう考えた僕らは、SENDAI COFFEE FESを主催している本郷紘一さんのもとへ出資のお願いに行きました。僕らの提案は、1台2000円でレンタルするヤタイを20台、2日間使用する契約を年2回、合計32万円で結び、2万円引きの30万円を先払いしてほしい、というものでした。いま思えば、無謀で不躾なお願いでした。それでも、僕らにとっては事業を稼働させるためにヤタイ本体を準備する必要があり、その時にできる精一杯の行動だったのです。

すると、本郷さんは突然こう言いました。
「山形のことだから山形で出資してもらうのがいいはず。BOTA coffeeの英人にいま連絡してみよう。」と。そう言って、その場で電話をかけ始めたのです。
驚く僕らの目の前で、BOTA coffeeからの30万円の投資が決定しました。こうして、山形ヤタイはレンタル事業をスタートさせることができたのです。


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