【小説】ネコが線路を横切った8
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現実と小説世界の狭間で・いきづまり
家出の理由が、本当の親ではないと知らされたから、と決めかけた春海は、ふと考えた。
高校入学の時に、住民票でわかっちゃうのでは、と。
ハルミが高校入学の時に知るはず、と。
話が元に戻る。
「なぜ、ハルミは家出をしたのか」
現実の春海の家出の理由は、夏だからなんとなく、夏休みを家ではない場所で過ごしてみたかった、というぼんやりしていた。
小説世界のハルミには、家出をする大義名分が必要なのだ。
アルプスの喫茶室でコーヒーのおかわりをした春海は、ノートの5ミリ方眼ページを見つめていた。
見たところで、文字が浮かび上がってくるはずもなく、ノートがヒントをくれるわけでもない。
小説世界のハルミに聞くわけにもいかない。
5ミリ方眼のページが、パズルの枠みたいに見えてきた。
迷路みたいにも見えてきた。
ゴールは、家出。
そこに行くまでのプロセスは、パズル。
繊細で心の奥底に情熱を持っている高校3年生の夏休みを迎えているハルミが、ここにきて家出をしてしまう理由は。
ネコ。
ネコを飼うことを、両親に反対されたから。
ハルミの住んでいるのは、マンションだからペットは禁止。
ハムスターかインコならいいけれど、ネコはダメだという規則だった。
春海は、ノートに書いた。
「ネコが飼いたかったのに、反対されたから」
つづく
※この物語はフィクションです。
実在の場所や団体、個人とは関係ありません。
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