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【連載小説】パンと林檎とミルクティー

14 火曜日の午後10時

 本を出版して、いっぱい印刷してもらって、たくさんの方に読んでもらいたいなあ。わたしの小説で、感情が動いたらいいなあ。

 作家Nが、ラジオにゲスト出演してそんなことを言ってた。
 編集者のまり子を通じて知り合った作家Nは、すでに作家としての地位を築き始めている人だった。
 いつも真智子から話を始めるのが、めずらしく作家Nから連絡が来た。
 インターネットラジオにゲスト出演した話。
 火曜日の午後10時から30分間。
 真智子は、作家Nが何を話すか興味を持って、番組を聴いた。

 声は楽しそう。
 ただ、作家Nが挑戦しているなんとかっていうプレゼンはなかなか大変そうだなあと思えた。
 昨今では、作家も自分の作品を自分でアピールしたり売ったりしなくちゃならないそうだ。
 作家だからといって、なんでもかんでも出版社まかせでは、本は売れない時代なのだ。

 そうか。
 わたしも、本を出したら自分で売らなきゃ。
 ラジオとか、テレビとか、ネットとか。

「ラジオ聴きました。
 声、ちょっと緊張してたような。
 パーソナリティーの女性の方、聴き方も受け方も自然で上手。
 いい番組だと思います。
 プレゼンってたいへんそうですね」

 メッセンジャーで伝えておいた。

 

 知ってる人がラジオというメディアで話してるなんて、不思議な感覚。
 まだラジオ出演もテレビ出演も経験がない真智子には、遠いところで憧れの場所でもある。
 
 自分の本が出版されたら。
 自分が書いた小説が本になったら。

 うれしいことすぎて、今の真智子にはイメージしきれなかった。
 

 スマホがメッセージを着信したと知らせてきた。
 作家Nからの返信だった。

「プレゼン、興味ありますか?
 ぶっちゃけすごいことになってます。
 真智子さんが書いた小説、今度読ませてね」

 作家Nに会いに行くときのために、今から小説を構想して、書き上げておかねば。
 真智子は、A5のノートを1冊、棚から取り出して構想を始めた。


  つづく
 

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