2【連載小説】パンと林檎とミルクティー~作家・小川鞠子のフツーな生活日記~
2 林檎ジャムに決まってる
自宅で作るジャムなら、林檎ジャムに決まっている。
スーパーで買ってくるのは、イチゴジャムかブルーベリージャムかオレンジマーマレード。
ここで、作家・小川鞠子としてのこだわりをひとつ。
「リンゴジャム」「りんごジャム」とは書かない。「林檎」は「林檎」と漢字で表記するのが好きなのだ。「林檎」という漢字の字面がいい。
特に、「檎」という字の画数の多さが林檎の複雑さを表現していると思う。
かといって「ぶどう」を「葡萄」とは書かない。
手書きでも、こんなに画数が多すぎて面倒な文字は、書かない。第一、漢字を覚えていない。キーボードを打って変換してくれるから表記できる漢字なのだから。
「イチゴ」は「いちご」でもなく「苺」でもなく、「イチゴ」だ。
「ブルーベリー」「オレンジ」も然り。
先週、夫が林檎をひと箱、取り寄せた。
実家やご近所さんにわけても、まだ余る。
なので、一気に6個をジャムにしよう。
林檎の皮をむく。
半分に切って、さらに半分に切って、芯を取りのぞく。
そして、薄切り。
薄切りした林檎は、レモン水につけておく。
林檎6個分を薄切り。
途中でちょっと疲れちゃって、休憩。
休憩は、黒豆茶。
マグカップにお湯を注いで、黒豆茶のティーバッグ。
ゆっくり一口飲むと、あったかくてほっとする。
もうちょっと。
林檎6個分の薄切りを、レモン水からざるにあげて、雪平鍋へ。
中火、いや、弱火、やっぱり中火。
砂糖入れて、シナモン入れて、ちょっと水入れて。
沸騰したら、水をちょっと足して、味をみて。
林檎が崩れてきたら、菜箸でぐるぐる崩してかき混ぜて水足して味みて砂糖足して、シナモンたっぷり。
雪平鍋の内側の世界の中で、林檎が形をなくしてくたくたになっていく様子を、見つめているわたし。
台所に林檎の香りが漂う。
甘い香り。
シナモンのスパイシーな香り。
お腹がすいてくる香り。
我が家の台所は、台所。
キッチンなんていうおしゃれな場所ではなくて、台所。
母が立ってくつくつ煮物を作る場所。
もうちょっと、林檎を崩してジャムらしく。
この林檎ジャムをトーストしたパンの上に乗せたら。
トーストしたパンには、まずマーガリンをたっぷりぬってね。
耳の上まで、きわまで隅々まで、マーガリンたっぷり。
その上に、林檎ジャム。
ぬるんじゃなくて、乗せる。
乗せるんだから、林檎ジャム。
作るなら、林檎ジャムに決まっているんだ、わたしの中では。
おしまいけどつづく
※1話完結の連載小説です。どこから読んでもオッケー。
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