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【連載小説】パンと林檎とミルクティー 4

4 水曜日・午前2時と木曜日・午前2時

 遠くに、電車が通る音が響いている。
 終電は終わっているはずだから、回送電車か検査のための車両が走っているのかもしれない。
 と、真知子が思っている間に、電車の音はだんだん小さくなって聞こえなくなった。

 はっとして、パソコン画面に思考を戻す。
 全く執筆が進まない。
 納品までにまだ10日以上あるが、そろそろ進めておかなければならない。
 が、なんにも思いかばない。
 書こうという気持ちも出てこない。
 という4重「ない」状態に落ち込んでいる。

 テーマは、真智子が大好きな文房具の付箋について。
 付箋についての記事の企画も、真智子自身が提出したものが採用になった。
 だからすらすらと2000文字を書いて、さくっと締め切り前に納品する。納品できる。はず。

 2日続けて夜中に構想しているのが悪いのだろうか。

 真智子は、付箋をどう使っているか書き出してみた。
・7センチ×7センチの正方形の付箋
・2センチ×7センチの長方形の付箋
・仕事で使うのは2種類だけ
・長方形の付箋→項目 1行
・正方形の付箋→内容 3~4行
・思いついたら長方形の付箋に書く
・内容をより具体的に正方形の付箋に
・長方形の付箋を並べ替える 書く順番
・順番を決める
・付箋のメモに添って書く
・書きながら何か思いついたら、正方形の付箋にメモ

 遠くで、救急車がピーポーピーポーと響かせながら近づいてきて、去っていった。
 今、何か思いついたはずなのにコトは頭の中から去っていった。

 いつも使っている正方形の付箋と長方形の付箋を出して、机の上においてみる。
 パステルグリーン。
 パステルブルー。
 パステルイエロー。
 パステルピンク。
 正方形も長方形も、無地で4色。

 仕事だから、無地なんだけど。
 つまんないなあ。
 真智子は、引き出しを開けて付箋のコレクションを眺めた。
 花柄の正方形の付箋。
 ペンギンのダイカットの付箋。
 イケメン付箋。

 あ。

 メガネ男子のダイカット付箋をとりだして、新しいひとつを開けた。
 イケメンのメガネ男子は、昔の恋人に似ている気がする。
 同じような、黒縁のメガネだった。
 頭よさそうに見える男が好きだった。
 のに。

 付箋の使い方を書くのと同時に、付箋から昔の恋を思い出して切なくなった話を記事にすればいいかも。
 と、思ったけど、午前2時のアイデアは寝て起きたらたいしたことない、ってことが多い。

 真智子は、アイデアをノートに書き留めて、午前3時に寝た。

つづく



 この小説は、作家志望の女性の日常をちょっとだけ切り取って描く連載小説です。
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