【小説】ネコが線路を横切った6
高校3年生の春海、目指す場所
夏休みの宿題を2日間でなんとか終わらせた春海は、9月から学校に通った。
同時に、ミチコは調理師免許が取れる調理師学校のパンフを集めていた。
両親に話すときも、学校の三者面談に来てくれたのも、調理師学校の体験教室にも、ミチコがいつもいてくれた。
ふだんの生活の中でも、キッチンで、春海はミチコとオムライスを作ったり、マドレーヌを焼いた。
高校3年生の春海は、高校卒業後は2年間調理師の専門学校に通い、調理師の免許を取り、マスターの店を手伝う、と、決意していた。
クラスメートが受験勉強でピリピリする中、春海は、どの調理師学校にいくか絞り、そろそろ願書をださなければ、という頃だった。
いつもそばにいてくれたミチコが、1月に交通事故で他界してしまった。
病院でも葬儀でも、春海はただ泣いていた。ミチコの両親までもが、春海のことを心配するくらい泣いた。
泣ききったら、春海は何もする気が起きなくて、24時間のうち22時間は寝て過ごしていた。
調理師学校の願書もださないまま、高校の卒業式だけは出席。そして部屋にこもるだけ。
そんな時、ミチコの両親の名前で、春海にA4の封筒が届いた。
中には、A4の分厚いツバメノートが1冊。
「これは、春海さんが持っていてください」と1行だけ添えられていた。
ノートには、ミチコの文字がびっしりと綴られていた。
春海が話した夏休みの1ヶ月のことが、そのまま。
最後に、ミチコはこう書いていた。
「この話を恋愛小説にするなら、最後はどうするか」
小説を書く。
春海の心の中で、ぽん、とはじけたのは情熱。
つづく
※この物語はフィクションです。
実在の場所や団体、個人とは関係ありません。
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