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【小説】ネコが線路を横切った10

今までのお話はマガジンから

西洋居酒屋で、マスターと少女の関係性

 春海が小説を書き始めるときにいちばん考えたのは、ハルミとマスターの出会いから別れの恋愛部分だった。
 

 何か食べようと、駅前から歩いて最初に目に入ったのが西洋居酒屋だった。
「西洋居酒屋SIN」
 入口の脇にでていた看板には
「今日のおすすめ チキン南蛮・竜田揚げ」
とある。
 チキン南蛮に惹かれて、春海はドアを開けた。

「いらっしゃいませ」

 カウンターの中にいた男性がこちらを向いて、言った。
 セミロングヘアに、白いTシャツ。
 めくったTシャツの腕の黒さが、目を引いた。

 店内は、壁に張り紙もなくすっきりしていた。
 西洋居酒屋、というよりはもっと落ち着いたお酒を飲むような場所なのかと、春海は思った。
 店内には早い時間のせいか、お客は誰もいなかった。

「どうぞ。カウンターへ」

 カウンターのスツールに座ると、男性がメニューをだしてくれた。
「チキン南蛮って、ご飯つきますか?」
「定食セットで、ご飯とみそ汁と漬物できます」
「じゃあ、それで。あとオレンジジュース先にください」
「はい」

 男性は、手際よくグラスにオレンジジュースを注いで、春海の前においてくれた。
 オレンジジュースを飲みながら、春海は男性の手元を見つめた。
 冷蔵を開ける。
 チキンのパックを出す。
 チキンを揚げる。
 お皿にキャベツを盛る。
 タルタルソースをだす。
 菜箸を持つ手。

 カウンターの中をてきぱきと動く男性の手はかろやかに動いて、ずっと見ていたいと思った。
 父親とは違う男性。
 きっとこの人の作る料理はおいしいんだろう、と、春海は確信した。

つづく


※この物語はフィクションです。
実在の場所や団体、個人とは関係ありません。


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